姿なき執着! ケンおまえを待っていた‼️
「5年生の時の副担任覚えてる?」
地元の友人、けんちゃんからの久しぶりの連絡だった。
彼とは小学校と中学校が同じで、当時から北斗の拳の大ファンだった。主人公と同じ名前だからというのが好きになったきっかけだったそうだ。社会人になった今もその熱は冷めていない。
中学生の時、けんちゃんの誕生日に友人数人とTシャツをプレゼントしたのを覚えている。
赤い北斗七星をバックに人差し指を立てた主人公の手。北斗の拳が好きな彼のため皆でデザインしたTシャツだった。
その後彼は大学進学のため上京した。Tシャツを宝物のように大事にしてくれていた彼は引っ越しの荷物に入れて東京に持って行ってくれた。東京でも着ていたそうだが、いつの間にかなくなったのだという。
そして更に月日が流れた頃、Tシャツは意外なところで見つかった。
けんちゃんが帰省した際のこと。駅に座り込んでいるホームレスに目が行った。いつからか駅構内に棲み付いていたその人は女性で、老婆と言ってもよさそうな風貌だった。地元の人間は皆知っていて、知っていながら見て見ぬフリをする。今まではけんちゃんもそうしていたのだが、その日は目が離せなかった。
彼女が着ている服。
人差し指を立てた手、目を凝らすとその後ろに赤い北斗七星が見えた。色は褪せていたがすぐに分かった。同級生たちが自分のためだけに作ってくれたこの世に一枚しかないTシャツ。
ふらふらと彼女の方へ歩き出す。
すると彼女も気が付いたのか、顔を上げた。目が合った瞬間に立ち上がる。
「こっちじっと見て、俺を指さして”けん”って言ったんだ」
そこで私も思い出した。
私含め当時の同級生や先生たちは彼のことをけんしろうやけんちゃんなどと呼んでいた。彼が卒業後に知り合った人達もそうだったようだ。彼を「けん」と呼ぶのは、5年生の時の副担任ただ一人。
彼女は私たちが6年生になる前にいなくなった。
男子生徒に悪いことをして逮捕されたという噂が流れたが、大人は誰も何も教えてはくれなかった。
ホームレスは本当に先生だったのか、どうしてけんちゃんのTシャツを着ていたのか、何も分からない。私もこの話を聞いてから一度だけ、帰省した際に彼女を見たが背中を丸めて座っていたため着ている服はおろか顔さえもよく見えなかった。
それから数年して、けんちゃんから「久しぶりに地元に帰ったらまだいたよ。しかもあのTシャツ着てたから写真撮った」と、画像とともにメッセージが来た。
画像を開いてみる。
……が、誰も写っていない。駅の広場で写した写真には誰も写っていないのだ。例のホームレス女性も、誰も。
『写ってないよ』と返事をしようとしたところ、別の友人からメッセージが来た。
「ねぇ、けんちゃんから変な連絡来たんだけど。同級生みんなに送ってるみたいだよ。facebookにも同じ写真アップしてるし」
facebookを開いてけんちゃんのページに行く。
『こいつまだいるじゃん。ケンシロウのTシャツもまだ着てるし腹立つ』
と、無人の駅の広場の写真を投稿していた。
いいねもコメントもない。私も返信できなかった。けんちゃんには何が見えていたのだろう。
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