君と紡いだ花の輪を。
Corolla.*
第一幕 夢と出会いと日常を。
第一話 「日常」
ここはどこだろうか。目を開けると薄暗い病室に立っていた。痛いほどの雨粒が窓を殴っている。不思議に感じながらも僕は周りを見渡してみる。
ベッドの上には誰もいない、ただ布団が敷かれているだけだ。机の上には便箋と、少し不恰好なプラスチック製の押し花の栞が置いてあった。ベッドの横には一人、おそらく僕だろうか、俯いて座っている。
なぜここにいるのか、ここで何があったのか、細かいことは置いておいて、僕はそこに座る自分に恐る恐る声をかけてみる。
「君は......?」
聞こえていないのか、「僕」はピクリとも動かなかった。しかし、少しすると「僕」の目から涙が一つ、二つと落ちていった。僕は吃驚して動けなかった。
「
雨の音の中、「僕」が静かに呟いたその言葉で目が醒め、僕は布団から飛び起きた。
鳴り響くアラームとカーテンの隙間から照らされる太陽の光、いつもと変わらない風景。僕は少し安堵してアラームを止めようとした時、部屋のドアが力強く開かれ、
「起きろー!!」
狭い部屋に
「朝っぱらから耳が痛いな...。」
僕はそう言いながら風音にアラームを止められ、布団から引きずり出される。風音は四つ離れた僕の妹だ。とにかく元気で明るい性格、可愛い妹だ。
だが、風音の乱暴っぷりには悩まされる。前に起こされた時は顔面に右ストレートを食らった記憶がある。
「んー、じゃあ耳元で叫んであげようか!」
「ご勘弁ください...」
「なら早く支度しようね!」
「はい...」
強い圧を感じながらも返事をする。くそ、頭が回らない...一回でもいいから風音より早く起きてやりたいところだ。しかし朝の眠気には抗えないし、早く起きる気もないからそんな日は来ないだろう。
そんなこんなで現実に引き戻され、階段を降りる。いつものように顔を洗い、いつものように寝癖を直し、いつもと同じご飯を食べ、学校に行く支度をする。手を動かしながらふと気がつく。
「あ、水やり。」
そう呟き、急いで家の庭に出て、ホースを握る。僕は花が好きだ。親は花には関心がないため家の庭は僕が自由に使っている。朝の水やりは僕のモーニングルーティーンなのだ。
庭はそこまで広くはないが、色とりどりの花たちが咲き誇っている。同調するように僕も少し誇りに思いながら水をやる。晴天の下で水に浮かぶ虹もまた、心を清らかにしてくれる。眠気を吹き飛ばす、とまではいかないが体は起きたようだ。
水やりが終わった、と同時に風音の声が聞こえた。
「お兄ちゃん、もう家出ちゃうよー。」
「ちょっと待ってて、すぐ行くから。」
そう言って急いでホースを片付ける。小走りで部屋に戻り、荷物を持つ。少し息を切らしながら階段を駆け下り、玄関へ。
「行ってきま〜す!」
「行ってきます。」
玄関から飛び出す風音の元気さに微笑みながら僕はゆっくりと家を出て学校へ向かう。
僕は学校へと足を進めながら今朝見た夢のことを気にしていた。何も変わらない毎日に退屈していた僕にとってはかなり印象的なことだったからだろう。
嵐の中明かりもついていない病室に一人座る「僕」には何があったのか、あの言葉の対象は何なのか、何故こんなにも鮮明な夢だったのだろうか、色々と疑問が残る。
答えは分からないが、そういう不思議なことに対して「考える」ことができるのが僕にとってはかなり嬉しかった。
学校が終わり、家に帰って自分の部屋に戻る。机の上のパソコンに向かい、今日の夢のことをメモして、曲作りを進める。
僕の夢は音楽家である。音楽家、と一言で言うが、作曲も演奏も物語を書くこともできるようなそんな人になりたいと思っている。
「よし、曲はできた。あとは歌を入れて、最終修正をして、MVを作って、それから...」
ミキシングやマスタリングは分からないからやらない。いずれ勉強しよう。そんなことをしていたらいつまで経っても曲が投稿できない。
曲作りって、大変だな...。分かってはいたことだったが思った以上に忙しい。いつも聴いている曲もこれ以上苦労して作っているのかと思うと本当に尊敬する。
「ふぅ、今日はこのくらいにしよう。」
そう言って布団に潜り込み、完成が楽しみになりながら眠りにつくのだった。
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