私小説「峠:その一」
避難所や仮説住宅にあるプレハブ。
簡易的なドアに、簡易的なキッチン。トイレと浴室が備え付けられいる物もある。
私は、プレハブで十三才までを過ごした。
二部屋からなるそのプレバブは一部屋がリビング兼寝室兼子供部屋、もう一部屋はキッチン兼倉庫から成る。
トイレと浴室はなかった。
祖父母の住まいの隣に建てられた一軒のプレバブに私は住んでいた。移動して排泄と入浴をこなした。
なぜ、そのプレハブが建てられていたのか、
それは祖父母による母へのいじめだと、今では思う。もういないので確かめようはない。
木に覆われ、周囲の目から隠された家から出て私が耳にしたのは、祖父母の口から出る悪口ばかり。
ほとんどの時間をプレバブで母と一緒に暮らした。
だが、覚えているのは、厳しい睨みつけるようなその目と叱咤の言葉だけだ。
バスに乗って、駅前の大きいデパートへと一緒に足を運んだことがある。
その時母は一時的にだが、家の縛りから解放され、自由を得ていたような気がした。
であるからして、私には幼少期にいい思い出はあまりない。
小学校三年生に上がった頃、私の心を不安が覆い尽くした。
視線を感じるようになった。先生の視線。同級生の視線。道行く車の中の視線、迎えに来ている児童のの親たちの視線、テレビの中からこちらに向けられる視線、スーパーやコンビニの店員の視線。
その視線は私の心をじわじわと侵食していった。
そして、いつからか下を常に向いて歩くようになってしまった。
人は生きていかねばならない、とガンダムの作者である富野由悠季は言う。
私も、そう考えてはいるし、必死で生きてきたつまりだった。
だが子供の頃、私の頭の中の他人の視線が、問いかけてきたことを覚えている。
生きる必要ある? と。
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