第36話 凱旋と落としどころ
「つ、疲れましたわ……」
魔王城で行われた三日三晩にわたる宴、それは素晴らしいものではあったが、同時に私の体力と精神力を大きく削っていた。そして、ようやく解放された私たちは、『魔王討伐証明』を携えて王都へと走り続けた。
「長かったですけれども、これで一連の因縁に片が付きますわ」
これをエドガーに渡せば正式に彼が王となり、そして彼の婚約者であるリリアナが妃となる。そうすれば、私が王国に縛られることは無くなるのである。
「いや、まだルイス殿下が残っておられますよ」
「ふふふ、まだ私には成敗が一回だけ残されているのよ。それで、ルイス殿下の件は片を付けるわ」
まだだ、まだ終わらぬよ。と言いたげなカークライトに対して、私は不敵に微笑んでいた。伝承の通りであれば、私の持つ聖剣の真の力を解放すれば、全てが丸く収まるはずである。
謎の確信をもって、私は王都へと入っていった。王都では、早くも魔王討伐の報せが届いていたようで、私たちの乗った馬車はまるで凱旋パレードのように盛大に歓迎されていた。その人垣は王宮へとまっすぐ伸びていて、まるで私たちに寄り道などするなと言っているように見えた。
「そんな自分勝手なことは許しませんわよ」
私は御者の人に行き先を、王都で最強と言われる宿屋『アッパーホテル』へと行くように伝える。もちろん、人垣については私の方で何とかすると伝えている。
「小回復、小回復、小回復、小回復、小回復、小回復、小回復、小回復……」
私は、馬車に弾き飛ばされた人々に回復魔法をかけ続ける。その甲斐もあって、けが人は一人もいなかった。
「逃げたぞ! 追え!」
ルートを外れた私たちを捕まえようと、人々が殺到する。しかし、人の体力で馬車に追いつくのは不可能だったようで、私たちは無事に宿へとたどり着いた。さすがに王家の連中も宿にまで押しかけてくるような真似はしないようで、私たちは無事に一泊して旅の疲れを取ることができた。
翌朝、私たちは今度こそ王宮を目指して馬車を走らせる。昨日とは打って変わって閑散とした道を進んでいくと、すぐに王宮の前へとたどり着いた。さすがに王宮では不寝番で私たちの帰還を待っていたようで、すぐに馬車から降ろされると、まっすぐに謁見の間へと連行される……?
「いやいや、連行ってどういうことよ?」
「やりますか?」
「やりますか?」
『やりますか?』
私が連行されていることを察したのか、スケイリアとカークライトが訊ねてくる。しかも、ウィンドまでカードを壁に差して訊いてくる始末であった。
「いいえ、大丈夫よ。準備は整っているわ」
私の言葉に三人が沈黙する。ウィンドに至っては『……』というカードまで投げてくる始末である。聞いてるなら顔を見せろと言いたい。そして、私たちは謁見の間にたどり着くと、そこには国王とエドガー王子のパーティーの三人が並んでいた。
「遅かったな……」
「申し訳ありませんわね」
「本当に、遅かったな……」
どうやら、国王は一晩待たせたことが気に入らないようだった。しかし、私は彼を無視して話を進める。
「こちらが、魔王討伐の証にございます」
「おお、さすが『王国の影』だな。エドガー、これでお前が正式に国王である」
前国王の言葉と同時にエドガー新国王の就任を祝うラッパが奏でられる。そして見つめ合うエドガー国王とリリアナ王妃。彼らの熱いまなざしは……。何も言うまい。エドガーの目に怯えが浮かんでいたのは気のせいだろう。
「さて、これでワシもようやく肩の荷が下りたようじゃな。あとは辺境にでも行って余生を過ごすだけだわい。はっはっは」
「左様でございますね。前国王陛下。それでは私から一つ提案を」
そう言って、私は『セイテンケン』を抜き放つと真の力を解放するための呪文を唱えた。剣はピンク色の光を放ち、それが真の力の解放を示していると、その場にいる全ての人間に知らしめる。
「それでは、参ります」
「な、何をするのだ。やめろ、止めないか! みなのもの、であえであえ!」
前国王の声に多数の騎士たちがなだれ込む。それから私を守るようにスケイリアとカークライト、そしてウィンドが三方向に分かれて私を囲んだ。
やり「スケイ、カーク、ウィンド。やっちゃってください!」
一騎当千の三人にバッタバッタとなぎ倒される騎士たち。それを嬉々として回復させるリリアナと、その様子を青い顔をして見守るエドガー。その混沌とした戦いは騎士たち全員の心が折れたことで終結する。
「みなさん、もういいでしょう」
膝をついて狼狽する騎士たち、それを平然と見下ろす三人。やり切った感を出してツヤツヤの肌に手を当てるリリアナ。そしてトラウマを刺激されて跪いているエドガー。そして、私の視線の先には私を二年にわたって拘束した諸悪の根源である国王が、孤立無援となったことで狼狽しながら立っていた。
「や、やめろ!」
「何を言ってるんですか? 別に殺すつもりはありませんよ」
「それなら、それは何だと言うのだ!」
「最初から言ってるではありませんか。私から前国王であるあなたの余生に提案があると。これが、その答えですわ」
そう言って、私は彼の胸にナイフを突き立てた。剣が纏っていたピンク色の光は彼の身体を伝わって彼の身体を包み込んだ。
「成☆敗! キュピーン☆」
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