第3話 水面下で動く何か
ネズはギルドホールに戻り、受付の女性に声をかけた。
「戻ってきましたね、ネズさん。スキルの進捗はいかがですか?」
「【射撃】が解放されました。ありがとうございます」
「クエストって何処で受けられますか?」
「ギルドホールのクエストボードに依頼が掲示されています。気になる依頼を選びこのデスクに持ってきてください。認可が降りればクエストを開始できます」
ネズは一礼しギルドホールのクエストボードに向かった。
初心者である自分を支えてくれるNPCたちの親切さに心が温かくなった。
その背後には黒い外套を纏った謎の存在が静かに立っていたことに気づかなかった。
クエストボードの前で次のクエストを選ぶ前に弓矢が不足していることに気づいたネズは武器屋に立ち寄ることにした。武器屋の外観は古い民家のようで、中には様々な武器が並んでいた。
ネズは武器屋に足を踏み入れた。
武器屋の外観は古い民家のようで中には様々な武器が並んでいた。
弓矢がなくなったネズはカウンターの後ろの戸に向けて声をかけた。
「すみません! どなたかいらっしゃいますか?」
戸口から現れたのは、トンカチを片手に白いタンクトップを着た職人風の美女だった。
「なんだい嬢ちゃん」
「弓矢が欲しいんですが…」
「弓矢は消耗が激しいからパーティを組むのが一般的だよ。ソロで使うのは大変だよ」
(ソロに弓はキツイのは知ってましたがここまでとは)
「わかっていますが、それでもお願いします。」
職人は少し考え込んだ後、微笑んだ。「初回だから無料にしておくよ」
「あ、ありがとうございます! お名前お聞かせください!」
「レイジュだよ、よろしく」
「ネズです、よろしくお願い致します」
〈弓矢千本獲得しました〉
レイジュは新しい冒険者であるネズに対し親切心から弓矢を無料で提供した。
ネズは驚いて目を見開いたが感謝の気持ちを伝えて武器屋を後にした。
武器屋を出たネズは次のクエストを受けるためにフィールドに向かった。
門番のローレンにカードを提示しフィールドに入る。
そこではソーンラビットが道に現れた。ネズはすぐに弓矢を手に取りラビットに狙いを定めた。
ソーンラビットに命中したもののクリティカルヒットではなかったためラビットは矢を突き刺したまま突進してきた。
【突進】は木にぶつかるとその部分がひび割れてました。どんだけの威力ですか。
山羊族の脚で敏捷が高い私。
ソーンラビットの【突進】を今度は横に飛びます。横に飛びながら矢を当てます。
弓矢が目に当たります。ごめんなさい。本当に。
クリティカルヒットと文字が出ました。
〈種族Lv2からLv3へ上がりました〉
〈ソーンラビットの香草肉を獲得〉
〈スキル【パワーポイントショット】(未解放)〉
〈スキル【クリティカルヒット】(未解放)〉
「なるほど、戦闘が終わった後に獲得したスキルの確認ができるんですね」
ネズは納得しながら独り言をつぶやいた。
戦闘中にスキル獲得の表示があれば便利だがそれでは集中を妨げるかもしれない。
このシステムはそのためにあるのだろう。
戦闘中にスキル獲得の表示が出来たら良かったですが。
邪魔に感じる人もいるでしょうからこのシステムにしたんでしょう。
一人納得する。
フィールドでの戦闘を通じて自分のスキルが確実に向上していることを実感し嬉しさがこみ上げてきた。
フィールドでの戦闘を終えたネズはセラフィムの街に戻り屋台が並ぶエリアに足を運んだ。
そこには美味しそうなパンの香りが漂っていた。
確か味覚も再現されているとか。
パン屋の屋台に直行。
「あの、すみません」
「なんだい、お客さん?」
パン屋の店主が振り向いた。
ネズはメニューを手に取りしばらく吟味した後注文した。
「クロワッサンを5つ、塩クロワッサンを2つ、チョコクロワッサンを3つ、そしてキャラメルマキアートのアイスコーヒーを微糖で一つお願いします」
「了解、ちょっと待ってね」
店主はすぐに注文を準備し始め一分も経たずに出来立てのパンと飲み物を渡した。
「焼きたてだから食べれない分はアイテムボックスに入れると良いよ」
「ありがとうございます、お代は」
「1400ベリーだよ」
ベリー。
この世界の通貨を表します。
ネズは代金を支払いふと店主に尋ねた。「あの、名前をお聞きしてもいいですか?」
「••••••ザールだ」
「ザールさん、ネズと申しますよろしくお願いします」
ソロ志望ですけどNPCと関わってぼっち精神を癒したいです。
「••••••アンタ変わってるな」
「え」
「ああ! 悪い意味じゃなくてな! 良い意味で変わってるなあって、冒険者に名前聞かれたの初めてだからよ」
「ああ、どうりで皆さんそのような反応を」
「ま、気になる人が居たら話しかけてみるといいぜ」
「ありがとうございます」
ネズはパンを受け取り街を散策し始めた。
街の人々との交流を通じて自分が少しずつ変わっていくことを感じていた。
噴水広場にはまばらに人が居ます。
そこに腰掛けクロワッサンをもぐもぐ食べます。
それを遠巻きに見つめる人たち。
「なあ、あの娘」
「ギャルだな」
「オタクに優しいギャル、だと良いんだが」
チャラい男たちが覗き込んで見て来ます。
な、何!!? こ、怖い!?
「君初心者デショー?」
「一緒にプレイどうよー?」
私は基本陰気です。
見た目はギャルですが、現実では眼鏡っ娘。
思い切って違う自分になりたくてしたキャラメイク。
まさかチャラい男たちを引っ掛けるなんて。
「あー、良いです。ダイジョブデス」
目線は斜め下。
「えー良いじゃん、一緒や、ひいっ」
「どうした!? ひえっ」
?
慌ててどちらかに行かれますね。
用事でも思い出したのでしょう。
私はツッコミません。
誰が、なんの目的で私を守ってくださったのかなんて。
私はとりあえず街を散策しようかな? という気分になったので街を見回ります。
街を散策しているとネズは図書館の前にたどり着いた。
大きな屋敷のような建物で本がたくさん収蔵されているようだった。
興味を引かれたネズは扉をノックした。
コンコン
二回ノックします。
「はーい」と中から声が聞こえた。
「開いてるから勝手にどうぞー」
ネズは扉を開けて中に入った。
そこには整理された本棚が並んでおりカウンターの後ろには小悪魔のような女性が立っていた。
ほ、本の山です。
外観から似つかわないほど本が整理され本棚に置かれてあります。
ほ、本棚の上に本棚があります!
私、本大好きなんですよね!
するとカウンターに現れたのは小悪魔の、え、小悪魔!?
「何か驚いているようですが、元来天使と悪魔は近い存在なのですよ〜、天使が堕天して悪魔になるように」
「は、はあ」
「ちなみにアナタは山羊族ですね、生贄にされぬように」
「い、生け贄!?」
「スキルや魔法を習得したい場合、石板が設置されていますのでそこで入力すれば本が手元に置かれます」
「ありがとうございます、ちなみにアナタのお名前は?」
「••••••リコよ、利己的だからリコ」
「ありがとうございます、リコさん。あと利己的な人は自分から利己的なんて言いませんよ?」
目を丸くしたリコの尻尾は揺れていた。
設置された石板に手を置きウィンドウに〈何の本をお探しでしょう? ジャンル選択も可能です〉
「とりあえず今アーチャーとアサシンで取れるスキルを教えてください」
石板の上に本が浮かび上がりネズはそれを開いた。
〈アサシンのスキル【歩行】【索敵】〉
〈アーチャーのスキル【鷹の目】【クイックドロー】〉
アサシンのスキル【歩行】
敵に見つからずに接近するための基本的な隠密行動スキル。
音を消して歩く。
アサシンのスキル【索敵】
敵の位置を把握できる。
アーチャーのスキル【鷹の目】
遠距離の敵を視認しやすくなる。また遠距離攻撃の命中率が上がる。
アーチャーのスキル【クイックドロー】
矢を素早く取り出し通常よりも速い速度で射撃する。攻撃速度が一時的に上昇する。
〈スキル【歩行】を手に入れました〉
〈スキル【索敵】を手に入れました〉
〈スキル【鷹の目】を手に入れました〉
〈スキル【クイックドロー】を手に入れました〉
おお、一気に四つも!
「で、では覚えられる魔法スキル系はありますか?」
〈アーチャーのジョブLvをMAXにした場合、魔術師のジョブに乗り換えてください〉
ガクン
そりゃそうですよね。
ネズは本からそれぞれのスキルを取得しリコに感謝の言葉を伝えた後フィールドに戻る準備をした。
覚えたスキルを試したくて「リコさん! ありがとうございました! 代金は」
ネズは代金を支払いフィールドに向かって歩き出した。
フィールドで新しいスキルを試すことを楽しみにしながら。
「500ベリーだよー、まいどありー」
あれ?
門番の人が変わっている?
「アレ? ローレンさんでは無いのですね」
「交代制です、ギルドカードの提示を」
「ネズと申します、アナタの名前はなんでしょう?」
「••••••ファイです」
「21時までには戻るつもりです」
「分かりました、気をつけて下さい」
ファイは今し方出会った少女の跡を着ける人物に(彼女も大変だな)と腕を組みうんうん頷いた。
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