〈リアルエクスペリエンス〉

与都 悠餡

第1話 始まり

本野読は、いや「ハヴィング・プライド」は欠伸を噛み殺した。


3LDKのマンションの空室の一つ下の部屋。


窓ガラスからは普通の生活感ある部屋としか見えないが、中身はラジオと書類、パソコンが床に放り出されその中には銃器もあった。


同居人二人が自堕落だからではなく計算されてばら撒かれている。


もし誰かがこの部屋に入った時整理整頓された部屋はあっさりと目的の書類や情報を渡される恐れがある。


と言ってもこの書類もほぼ暗号だが。


「今流行りのVRゲーム〈リアルエクスペリエンス〉に暗号兵器が仕込まれていると?」


眠たげな目を擦りもせずに、うんざりだ。と言わんばかりの態度の「ハヴィング」。


『ハミング』


目をカッと開く。


上司にラジオ越しで訂正を求める。


「ハヴィング!」


「落ち着けハヴィング」

「シャロウは紅茶啜って何優雅に決め込んでるのよ」


「シャロウ」と言われた髪型が鬼太郎みたいな少年涼宮末彦。

勿論、意味あっての髪型だが。


二人とも中学二年生ではあるが座学は大学院卒レベルである。


「ガス抜きと休暇を大分前に申請したろ? 多分それじゃないか?」

「••••••私ゲーム苦手なのよ」

「以外だな、お前にも苦手があるなんて」

「誰かさんの動体視力でプライドは粉々、ええ、「ハミング・プライド」よまさに」

「悪かったよ、俺」

「反省してね、私」



ラジオ越しからまた命令が聞こえる。

『クローンでありツインレイという稀な存在な君らしか頼めない。頼む』


「シャロウ」が尋ねる。

「その〈リアルエクスペリエンス〉で何をすれば良いんですか? ゲームでしょ? ジョブとか」

『こちら側が改竄したデータがある、君らにはそのデータでゲームを始めて欲しい』

「いやだから何を?」

『工作員(スパイ)を』



二人はとりあえずゲームの内容から聞く事にした。



白い空間にテーブルと椅子。

テーブルには何層にも分かれたチェス、将棋、囲碁が組まれていた。


椅子に座ると転送されたかのような人工知能のAIの女性が椅子に座って現れる。


『ようこそ〈リアルエクスペリエンス〉へ。私は混沌の遣い女神カオスと思っていただければ』


『早速ですが身体年齢のチェックに入ります。十七歳未満、心臓の弱い方にはこのゲームを推奨しておりません』


私とシャロウは十四歳、当然だがこの時点で弾かれるが。


女神カオスがペロリと舐める。


『条件は満たしているようですね』


流石【アーカイブ】のハッカー。

見事に改竄している。



『このゲームは現実と瓜二つの闇社会、暗部に擬似的に体験出来る事が売りのゲームです』



『ジョブは以下

エージェント(工作員)

ヤクザ

傭兵

情報屋

ハッカー

密輸業者

アサシン

闇医者

犯罪組織のボス

詐欺師

密売人

マフィア

殺し屋

ジャーナリスト

以上です、貴方好みのスリルが味わえるジョブを選択して下さい』


本来ならどれも平和とは程遠い、ジャーナリストぐらいがマシか? とは思いもしたが組織が指定したのはーーー


「工作員で」


女神カオスが暗黒微笑を浮かべる。


『それではーーージジッ 名前は『⬛️⬛️⬛️』コードネームは『⬛️⬛️⬛️』以上でよろしいでしょうか?』


壊れたマネキンみたいな笑みのカオス。


「YESで」


『容姿の設定は』


あらかじめ決められた容姿を設定する。


『男装の麗人ですね、惚れ惚れします』


うるさい。


『では以上の設定と尋ねたい事を聞いて下さい』


私はやっと息を吐く。


「いつから気づいていましたか」


『私はプログラムに過ぎません、他には』


「なら良いです。ゲーム開始で」








暗い靄がかかった意識が浮上する。


目をカッと開く頃にはバレットバレル國の中央広場だった。


目印となる銅像を中心に人相の悪そうな奴らがたむろする。


(シャロウは何処)


トントンと肩を叩かれる。

反射的にコイツから嫌な感じがしたのをその腕を掴んで背負い投げする。


「やべえ! だ、誰かチャカを」


私は背負い投げた相手の口にローファーの靴を捩じ込んだ。


(こんなPKギリギリ行為でさえ警備員がとんで来ない、治安は察する通り)


私の前に釘バット、チェーンを持ったプレイヤーキラー達。七人か。


「数の暴力かい? 情けなーい」

「黙ってろ! 貧乳! 女プレイヤーは売ると高値が付くんだよ!」


(そりゃこんな連中ばかりなら女プレイヤーも寄り付かないわけだ)


「生憎、冷感症でね。君らが女装した方が喜ぶんじゃない?」


頭めがけての鎖分銅を避けて鎖を掴む。


引っ張りよろけた所を頭に膝蹴りする。


釘バットが後方から来るのを膝蹴りした頭の髪を掴みソイツでガード。


その衝撃で盾は消失。


釘バットさんの手首を掴み、後ろ背に回して力を入れて釘バットを手放させる。


釘バットが来るのを今捻り上げた青年でガード。


青年はモロに頭に喰らい(確かコレ体験って言ってましたよね? ダメージまでリアルだったら部屋で今頃VR機がエラー音出して救急車を呼んでますよね? でもそれを切っていたら)


ーーー死。


このゲームをやる奴は引き篭もりか犯罪者予備軍の更生に繋がるとしてゲーム認可が降りている。



(ゲームでもクズ、現実はカス)


回し蹴りを頭に喰らわす。



「な、なんだよこの女! お、応援を呼べ! 先輩たちなら! ぐぺっ」


今し方発言した男性の頸動脈目掛けて手刀を繰り出す。


「ひいっ!? に、逃げろ!」


その逃げた男達を釘バットで昏倒させる人物。


「シャロウ?」


「ハヴィングか? いやそれにしても派手にやったな」


「随分中性的になったじゃない」

「お前は男装の麗人だな」

「カオスにも言われたわ」

「なあやっぱりあの女神って」


ウーウーとサイレンが鳴り響く。


「パトカーが来る前にずらかりましょ」



指定したマイホームはアパートで二階の1LDKからスタート。


「嘘でしょう、私キャバで働く事になってる」

「俺はホストだ、諦めろ」


社会の闇だとは言え十七歳以上な理由が分かった気がした。


「とりあえず俺とお前同棲パートナーにしたからな」

「構わないわよ、現実と大差無いし」



アウトライン國ーーー現実の國では本野読と涼宮末彦は同棲している。学園側はそれをとやかく言わないし学生たちも最初は冷やかしだったがお互いが利益のために同棲していると知ると興味が失せたように散っていった。



「で、どうやって暗号兵器を探すんだ」

「本社に乗り込む、が無い時点でゲームに暗号が隠されているからさせられてんのよね」

「本社は外国だしな、インテリアインサイド國」

「中央國ね、なんでこんなゲーム作るのよ」

「はっきり言ってクソゲーか?」

「いや、リアルより動きやすかった。殺意も分かりやすいし」

「だよな、それを踏まえての推論だが俺たちはテストプレイヤーじゃないか? モノホンの工作員がどんな者かの」

「【アーカイブ】が許す? そんな事」

「だよな」

二人は軽装に身を包む。


「で? 何処調べる?」

「ハッカーか情報屋。好きな方選べ」


「情報屋」

「じゃあ俺はハッカーにあたる」

「気をつけて、なんかきな臭い」


シャロウこと涼宮末彦は笑った。

「わあっーてるよ」

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