プロローグ
悪女と呼ばれることはある。
けれどその言葉に心が折れないのは、すでに大切なものを手放し、もうこれ以上折れることがないからだ。
「──いいですか。
王都でも指折りの
その
そこに書かれている文言がどれも自分にとって好都合なことを
「かしこまりました。この契約書によると、これは初夜を
白い結婚とは、
かつて、
「ご理解いただけて何よりです。ではさっそく署名をお願いします。
家令の説明に、ニネットは
すると、家令は眼鏡を人差し指でクイとあげつつ、ひとりごとのように
「可能であれば保証人としてご家族の署名もいただきたかったのですがね」
「私に家族はおりません」
そう告げても彼の表情は変わらない。調査済みなのか、それとも
自分にも家族はいた。けれどとうに失われ、見つける
幼い
ところで、ニネットはとある
家令の言葉の
なぜなら、この契約結婚は存外に幸運なものだったからだ。
(
ぼんやりとしている間に契約書が白く光りはじめたことに気がつき、ニネットは
契約書の上には、かわいらしい女の子の姿をして白銀の衣を
「あなたには見えないかもしれませんが、ここには特別な精霊がいるそうです。今から『白い結婚』を証明するための精霊による契約を行いますが、この契約は私のほかには旦那様しか知りません。他人には絶対に口外なさいませんように」
「はい、承知しました」
その精霊が見えないふりをしながら、ニネットは
無事に『白い結婚』の契約が結ばれた
契約が終わると、夫となる男がいる
今まさに開けられようとしているその扉の前で、ニネットはゆっくり深呼吸をする。
この
『ベルリオーズ公爵、あれは無理よ。後ろ
その言葉が
けれど、ニネットは意外と人生経験が豊富なのだ。こんなところで
(心配されながらここへ来たけれど
気合いを入れ直して息を
「いいですか。入ったら名乗って、旦那様が話しかけてくるまでお待ちください」
「…………はい」
(仮にも自分から
これでは、妻となる人間の名前すら覚えていないと言っているようなものだ。
いくら契約結婚とはいえ、この家の主人は本当に
ついうっかり
一気に光が差し込んだ先には一人の男性が立っていた。
ニネットの位置からは逆光で顔が見えないが、彼はこちらを見た
ガシャンという、グラスが割れるような音がしたあと、ぽつりと低い声が届いた。
「ニネット……?」
──自分の名を呼ぶ、この響きには覚えがある。
部屋の明るさに目が慣れたその先の景色に、ニネットは息を
何かを考えるよりも早く、ニネットはついさっき回想したばかりの少年の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます