第二十八話


 冒険者ギルドへ行く前に太郎達は宿屋に戻り、報酬を大雑把に分ける事にした。

 宿屋に着くと女将さんが直ぐに近付いて来た。

 

「あんたら、無事だったんだね」

 

 ふくよかな女将がハンナを優しく包む。

 

「はい。ダンジョンに潜っていました。出る時に言っておけば良かったですね…心配かけてごめんなさい」

「良いの良いの。無事に帰って来れば……まぁ連れの男が良い面構えしてるから、ある程度は安心はしてたけどね」

「面かい…」

「男の顔で大概の事はわかるさね」


 (……いやーそうか?あんたくらいだろそりゃ…)


「あー女将。悪いが湯を頼む。体を拭きたいんでな」

「はいよ。あんたの部屋に二桶で良いんだね」

「……いや、別々で」

「なんだい。あんたたち良い仲なんだろ?何を恥ずかしがる必要あるんだい。彼女の体くらい拭いてやりな」

「いや…声でかいって…」

 

 宿屋にいた他の客が2人をニヤニヤして見ていた。

 

「あの……女将さん…別々の部屋で…」

 

 真っ赤な顔で言うハンナに不思議な顔をする女将。

 

「まぁ良いか。わかった、2桶届けるよ」

「ああ…宜しく頼む…」

 

 太郎とハンナは通路を通り各々の部屋に入って行った。

 

 

 湯で体を拭いた後、太郎の部屋で宝箱の中身の確認をしていた。

 女将の言う通り一緒の部屋で体を拭いても良かったのだが、辺りはばからぬ女将の声音を聞いた他の客の手前、別々の部屋で体を拭くことになったわけだが…まぁハンナの体を拭く楽しみは後日の楽しみとして、今は報酬の確認をする。


「貨幣はハンナの鞄に入れておいてくれ」

「分かりました」

「後は…短剣2本と指輪3つ……腕輪1つに…これネックレスか?」

「造りが細かいですね…多分サークレットだと思います」

「サークレット……ネックレスじゃ無いのか……取り敢えずサークレットが1つ。後は…これは魔法習得のパピルスかな?」

「多分そうだと思います」

 

 ハンナが3つあるパピルスを開いて中身を見る。

 

「これは風属性で…こっちは火属性ですね。最後のこれは……太郎さん、これもしかすると金か闇属性かもしれないです」

「ほー…ハンナ覚えておくか?」

「いえ!太郎さんが覚えた方が良いです。太郎さんは闇属性なんだから……あ…確か…」

「そう。基本的に誰でも覚えられる筈だから祝詞を書き写して貰ってから捧げれば大丈夫だな」

「ですよね……このパピルスの祝詞本当に金か闇属性の祝詞なら物凄い値段が付きますよ」

「あのシスターの言葉が本当なら金と闇属性の祝詞は知られて無いみたいだしな。これって教会に売るのか?」

「あ、いえ。ダンジョンで発見された祝詞のパピルスは、鑑定を受け無ければだめです。鑑定結果で新しい魔法と鑑定されたら国が祝詞を買いとるきまりですから、先ずは鑑定が先ですね」


 成る程国か…


「なあ、鑑定をしないで神の像に捧げる奴もいるんじゃ無いのか?」

「……多分いると思いますが、この国だと発見された祝詞のパピルスは鑑定をする決まりが有りますから、バレたらお尋ね者に…」


 あー流石にお尋ね者は不味いな。


「よし。じゃあパピルスと装備品を鑑定して貰うか」

「はい。あ、因みに宝箱の中にあった金貨と銀貨ですが、金貨が1万枚(10億)…銀貨が5万枚(5億)です…」

「…数えたのか?…」

「いえ。バックの枠に入ってる物の数が分かる様になってます…」

「……凄い機能だなマジックバック………と、取り敢えずギルドへ行くか」

「はい」




「……色々突っ込みたい所だらけだが、本当に青銅ダンジョンを攻略したんだな?」


 腕を組んで太郎を見るギルドマスター。その隣には真っ青な顔をした買い取り責任者のロナウドがテーブルの上を見ている。


 (いや、突っ込む所はアンタにこそ沢山有りそうだが…)と言う下衆な冗談を飲み込む太郎。


「ああ…三層の洞窟でやたら強い魔物を倒した先にダンジョンコアがあった」

「信じられんが信じるしかないな…それでこれらが報酬だったと?」


 テーブルの上に広げられた各種装備品とパピルス。それに大量の魔石と宝石類が山になっていた。


「そうだ。ハンナから聞いたがダンジョンで発見されたパピルスは鑑定を受ける決まりだと聞いたからな…それと魔石も買い取って欲しい。装備品は鑑定結果次第で決めるつもりだ」

「ふむ…しかしこの量の魔石と宝石となると流石にギルドでも現金で渡せないぞ?」

「ああ、それは構わない。冒険者ギルドの個人貯蓄に入れてくれれば良い」

「そうしてくれるとギルドとして助かる。で、この魔石がやたら強い三層の魔物の魔石か?」

「ああ、実際死にかけた」

「ふむ……先ずはこの魔石とパピルスの鑑定を先にするが良いか?」

「構わない。時間が掛かりそうなら結果は明日でも構わない」

「分かった。急がすが明日の午後なら問題ない」


 太郎とハンナが椅子から立ち上がるとギルドマスターが太郎に声を掛けてきた。


「ところでお前達、七日後にギルドからの仕事を受けないか?」

「……何の仕事だ?」

「騎士団のダンジョン訓練の随伴と言う名目の護衛だが…一応最低限の募集人数は確保したんだが、入れる余地はある…どうだ?」


 太郎はハンナの顔を見る。


「私は平気です」

「うーん…騎士団のねー……騎士団って貴族か?」

「ああ、騎士は全て貴族だな。兵士なら平民なんだが」とギルドマスターが答える。

「……その仕事は受けない…が、多分そのダンジョンには俺達は勝手に潜っていると思うぞ」

「成る程。勝手に潜ってるか」


 ギルドマスターが笑う。


「まぁ良いだろう。お前らが危なくなった者を見捨てるとは思えんしな」

「そうかい……あ、ところで冒険者ギルドでは家の斡旋とかしてるか?」

「ん?家を買うのか?」

「ああ、出来ればでかい家が良いな」

「王都より安いが、この町でもそれなりに高いぞ?」

「問題ないと思う」

「そうか。ギルドでは建物の売買はしてないが、紹介状を書いてやる。それを持って正門の荷下ろし場の横に店があるから、そこの主に紹介状を見せれば良い」


 そう言うとギルドマスターは部屋を出て行った。

 残ったロナウドが預かり証を作成しながら太郎にぼやく。


「あの太郎様…もう少し分けて持ち込んで頂けたら楽なんですが…」

「しらん!」




 預かり証と紹介状を受け取った太郎は冒険者ギルドを出た。

 

「あの…太郎さん。家って…」

「ハンナの家族来るんだろ?早めに決めとこう」

「……有り難う御座います太郎さん」

「当然だろ」


 ピッタリと太郎にくっついて歩いていたハンナが前から来たアホ面した男と接触した。


「痛えーー肩が肩がーー」……おい…

「兄貴ー大丈夫っすかー」……嘘だろ…


 ハンナも今回は啞然として、男達を見ていた。


「女ー!兄貴の肩が折れちまっだろーが!どうしてくれんだ、あーん」……馬鹿か…

「…あの……その人の肩が私に当たるとは思えないのですが…高さ的に…」…おお!ハンナが成長してる。

「………腕が!腕がーー!」……そうきたか…

「女ー!兄貴の腕が折れたじゃねーか!どーしてくれんだ!ああん?」…………………


 周りで見ている野次馬も、この場面に既視感半端なかった。

 子分役の男がハンナに手を伸ばそうとしたのを見た太郎がケンカキックLevel7を下腹にぶち込むと男は枯れ葉の様にグルグル回りながらぶっ飛んだ。


 (や、ヤバい!前と同じ感じで蹴ったが、基本能力が上がってた!)


 慌てて変な形によじれて転がった男の元に慌てて近づきポーションを浴びせる。

 ピクピクと痙攣していた男が次第に動かなくなる。


 (ヤバいっちまったか……こうなったら)


 太郎が魔法を発動しようとする腕にハンナがしがみつく。


「た、太郎さん何をするつもりですか!」

「いや、灰も残さず証拠隠滅を」

「な、何言ってんですか!だ、駄目です。大丈夫ですから。その人生きてますから!」


 太郎が倒れている男を見ると、丁度男が目を開けたところだった。

 暫くぼーっとしていた男がハンナを見て急いで立ち上がる。


「女ー!兄貴の腕………あれ?…兄貴…は?」


 子分が辺りを見渡し兄貴分を探すが姿が見えない。どうやら兄貴は子分を見捨てて逃げたようだ。


「………あー……………また出直してくらぁ!」


 謎の台詞を言い残し男は去って行った。


「変な奴が多いな…」

「太郎さん…町中で証拠隠滅できる訳無いでしょ」

「…ああ…そうだな。人気ひとけがない場所迄運んでからのが良いか?」

「いえ……そうでは無くて…」


 はぁ とハンナが溜め息を吐く。


「今度からは私が対処しますから…」

「そうか…」


 素早く腕を絡めたハンナに引っ張られる様に正門に向う太郎だった。

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