第二十一話
油断した!
太郎は旋風を周りに発生させる。
「やろう!犬の分際で!」
二本足歩行の犬が弓を射ってくる。
太郎が起こした旋風は放たれた矢を尽く吹き飛ばしていく。
遺跡が在ることから知能がある魔物がいる事は想像していたが…二本足歩行の犬とは…予想外だった。
ハンナの"アクティバス"は岩盤を削ってしまう為、落石の危険がある。その為ハンナに渡してあるサブマシンガンの乱射で対抗中だ。
旋風魔法の防御を切る事が出来ない太郎は、ハンナとは違うアサルトライフルを買い撃ちまくる。
もう、異世界だろうが何だろうが構わねぇ。兎にも角にもこの状況を近代武器を使ってでも変えなきゃならなかった。
パンパンパン。
ハンナの銃とは違い、太郎の持つ銃はセミオートで撃つ事が出来る。
弾のストックは問題ない。此処まで来る途中で拾った魔石の半分は次元マーケットに注ぎ込んでいた。
なんと、マーケットの残金は一千万を超えている。
異世界で響く近代武器の銃声。
少しすると魔物の気配は無くなる。
撃つのを止めた太郎とハンナは辺りを警戒しながら進むと、相当数の魔石が落ちていた。
「まさか遭遇戦になるとは…」
魔石を拾いながら太郎が呟く。
太郎がAKMを撃つのは初めてでは無い。グアムに観光で行った時に若い舎弟に誘われ射撃場で撃った事がある。
「耳が馬鹿になりそうです」
ハンナの呟きに太郎は苦笑する。
「そうだな…ハンナはもう少し威力の低い水魔法を覚えるようにしないとな」
「はい」
「俺は火魔法を使う。さっきのはいきなりで防御に魔法を使ってたからコイツに頼ることになったが…出来れば使いたくは無いな」
太郎は手にしたアサルトライフルを見て溜息を吐く。
次元マーケットの残金チャージ画面を出して拾った魔石を一つ入れると、八万増えた。
魔石の換金率が何を基準に変換されているのか不明だが、ギルドの買い取り価格とそうかけ離れてはいないだろう。
魔石自体相場が変動してるので、後で換金した方が良い可能性があるにはあるが、今はそんな些末な事を気にしてる暇はない。
「慎重に進むぞ」
「はい」
谷底の様な狭い道を進み、片側の切り立つ崖が無くなると目の前に沙漠が広がっていた。空まで真っ青で、本当にここはダンジョンなのか疑いたくなる。
沙漠の所々には巨大な岩が転がっていて、身を隠すには都合が良いが、それは魔物にしてみても同様だろう。
「何処に四層に降りる階段があるんだ?」
ハンナが目を細め辺りを見回す。
「太郎さん。あそこ」
ハンナが指差す先。岩山の側面に洞窟の様な物が見えた。
岩山迄目測で2~3キロ程である。
流石に沙漠のど真ん中にいきなり階段があるとは思えないし、あったとしたら見つけるのが困難だ。
「行ってみるか…」
洞窟が有る岩山を目指し、太郎が先に進み、その数歩後をハンナが歩いて行く。
乾いた大地だ。幼い頃見たテレビに映った外国の風景の様に、岩と土。それと僅かな植物……まさに沙漠。
広大な風景の中を歩くのは、思った以上に精神を削る。とにかく進んでる実感が、視覚的に伝わらない。
視界全体が薄黄土色で……
「ハンナ気を付けろ。前に何かいる」
「は、はい」
ズズッと地面が盛り上がり、それは飛び上がった。
頭を持ち上げた姿は蛇のようだったが、蛇にしては体長がやけに短い。
パックリと開いた円形の口腔部にはビッシリと歯?が埋まっている。
「……蛭?…にしてはデカ過ぎないか?」
太郎とハンナが攻撃を仕掛けようとする前にソレはジャンプしながら襲って来た。
「きやぁぁぁぁぁぁぁー」
迎撃しようとした太郎の横から、光条の様な水流が放たれた。
巨大な蛭は一瞬にして分断されたが、ハンナの暴走は止まらない。
待て待て待て!俺も危ないって!
太郎はハンナを横から抱き締める。
「ハンナ落ち着け。もう終わってる!」
太郎の言葉が聞こえ、ハンナの体から力が抜ける。
ハァハァと荒い息を暫くついていたハンナが、ゆっくりと太郎を見て顔を赤くすると俯く。
「ご、ごめんなさい…私虫が苦手で……その…全部が全部虫が苦手ってわけじゃ無いんだけど…あの口を見たら…」
ボソボソと言い訳する。
「ああ、分かった。だが、せめて目を開いて攻撃してくれ…どうしても駄目なら何もするな」
「は、はい……ごめんなさい」
目を瞑って攻撃されるのだけは勘弁して欲しい。ハンナのアクティバスを防ぐ手段が太郎には無い。
撃つ前なら風の防壁か、土の防壁等を展開すればもしかすれば可能かもしれないが、まだ試して無いので何とも言えないのだ……
(しかし、砂漠に蛭か…蛇とか蜥蜴とかが出るかと思ってたんだが…)
地面の下に生息してるとなると、かなり厄介な相手だ。
今迄の魔物は視認出来たし、視認出来なくても微かな音等で、何となく近くにいるのが分かった。ところが、今回の相手は全く事前に察知出来ない。
もしかすると、何らかの方法が有るのかも知れないが、今の太郎にそんな芸当は出来ない。
今の太郎が使える魔法は着火(火)旋風(風)盛土(土)雫玉(水)癒し(聖)引き寄せ(無)だけだ。
初期の祝詞がわからない(金)と(闇)は未だに分からずじまい。
これらの魔法のうち、聖と無は全く原理が想像が出来ないが、火、風、土、水は想像出来なくは無い。
これは少し急いたか?……
魔物が太郎達の足音等を感知して襲って来ると仮定すると…
次元マーケット画面を開き検索。
擲弾……回転弾倉式銃……これか!
MGL140
本体はそれ程高くはないが、擲弾一発銀貨1枚ですか……まぁ良いか…
六発装填だから…取り敢えず60発買う。
「……何ですかそれ?」とハンナが当然聞いてくる。
「うーん…爆発する物を飛ばす仕掛け…」この説明で良いのだろうか?
所謂手榴弾的な物を飛ばすのだが、手榴弾自体を太郎が上手く説明出来ない。
そもそもこんな物騒なもの、極道に必要等無い。軍隊以外にあるとしたら、海外のギャングの類だろう。
太郎は弾倉に擲弾を詰めて行く。
どの程度の威力か分からないので、取り敢えずは50メートル先に打ち込んでみる。
太郎は慎重に引き金を引く。
"ポシュン"…………"ボーン"
(…………………………)
どんだけ発射の反動があるのか分からなかった太郎は、かなり気を張っていたのだが、"ポシュン"と軽い音と、微々たる反動に気が抜ける。
寧ろ擲弾が爆発する音の方がうるさい。
「………うん…取り敢えず進む前方に打ち込みながら進もう…」
「はい…」
"ポシュン"…………"ボーン"…… "ポシュン"…………"ボーン"……"ポシュン"…………"ボーン"……
十発程撃つと瓦礫が持ち上がり巨大蛭が現れ、その度にハンナが悲鳴と共にアクティバスを撃ちまくる。
何度やってもハンナが蛭に慣れることは無いようだ。生理的に苦手らしいのだが、よくもまぁこれ程の数が、地中に潜んでいるものだと感心する。
三層に足を踏み入れてから此処まで最初に出会った犬の魔物以外は蛭の魔物しか遭遇していない……
アクティバス連発にヘタっているハンナと共に岩場の陰で休憩する事にした。
「大丈夫かハンナ」
「は…い…」
どうやら、魔法疲れより精神的疲労が大きいようだ。
上を見上げると陽の光が強い。
(さてどうする……)
近代兵器を使うのは良いが、要脚が掛かり過ぎるのが難だ。
少し考えた太郎は次元マーケット画面を開きそれを買う。
太郎の目の前に現れたのは自動二輪車。つまり、オートバイだった。
◯ンダ CT125ハンター◯ブ
「太郎さんそれは?」
「乗り物だ。馬みたいなもんだな」
タンデムステップを引いてから、バイクに跨った太郎はハンナに後ろに跨る様に言うと、恐る恐るハンナはバイクの後ろに跨り太郎にしがみついた。
「しっかり捕まってろよハンナ」
「は、はい」
太郎はキーを回しセルを起動。格好つけてキックするなんて無駄はしない。
軽快な音が響く。
面倒臭いクラッチ操作がないコイツは、ハンナでも少し練習すれば運転可能だろう。
ハンナを後ろに乗せ、一気に走りだす。
馬の最高速度が70ちょいだと言うから、コイツは馬より20キロは早い。
魔物は倒せないが、ハンナの精神が削られる様な魔物を、敢えて相手する必要は無いだろう。さっさと次の状況に移る方が効率的だ。
砂塵を巻き上げながらアクセルを絞っていくのだった。
後方に巨大蛭を引き連れながら岩山の麓まで辿り着いた太郎達は、バイクを乗り捨て岩場をよじ登る。
岩山の洞窟に辿り着いたハンナが乗り捨てたバイクの周りに集まっている巨大蛭を見て深い溜め息を吐いた。
バイクの周りには八匹の巨大蛭が集まり、太郎達を見上げ"ゲーゲー"と悔しそう?な奇声を発している。
「太郎さんあれ置きっぱなしで良いんですか?」
「まぁ…。擲弾撃ちまくるよりは安上がりだからな…」
太郎の言葉にハンナが肯く。
今日は洞窟の入口で泊まろうと提案すると、ハンナも賛成する。どうやら、かなり精神的にやられていた様だ。
太郎とハンナは岩山にある洞窟の入口付近にキャンプを張る事にしたのだった。
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