彩の目に映る世界

風宮 翠霞

第1話 『普通の子』

幼い私の世界には、あざやかな色があふれていた。


笑顔の人の後ろには、太陽のようにかがやいた黄色が。


怖い顔をした人の後ろには、燃える火のような赤色が。


お気に入りの本には、雨上がりに輝く葉のようなつやのある緑が。


小さい頃から家にある絵本には、空のように清々すがすがしい水色が。


本のような文や、人の感情にはそれぞれ色がある。


それが、『当たり前』だと思っていた。


世界にはいろんな色が溢れていて、そして……痛みに溢れている事が。


誰かが怪我をして、痛い思いをしたら、自分も痛みを感じる。


その誰かが怪我をしている部分が、本当に怪我をしているかのように痛む。


文を。感情を。痛みを。


そんなふうに感じるのが、私にとっての


『普通』


そして


『当たり前』


でも、お母さんやお父さんにとっては、違ったらしい。


「おかあさん、このごほんはきれいなあおいろだね‼︎」


「おとうさん、あかいのはこわいよ。いつものきいろにもどってよお」


「おかあさん、いたいよ。いたい。なおらないよ」


本を読んだ私が色を伝える度に。


怖い顔をしている父に声をかける度に。


怪我をしていない場所が痛いと訴える度に。


父は、嘘をつくなと怒った。


母は、娘の私が『普通』ではないと嘆き、私に「『普通』でいなさい」と言った。


それでも、自分にとっての『普通』が他の人にとってはそうでは無い事を受け入れる事は、世間を知らない子供には中々に勇気のいる事だった。


でも。


あの日の出来事が、全てを変えたのだ。


あの日、幼いながらに悟ったのだ。


私の『普通』と“みんな”の『普通』は違うのだという事を。


両親に対して、私は彼等の望む子供を。


『普通の子』を演じなければならないのだという事を。


どうしようもなく、悟った。


その日から。


綺麗きれいで。


鮮やかで。


あでやかで。


美しかった色は。


その世界は。


ひどきたなく感じられるようになった。























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