サイコデリック

天川裕司

サイコデリック

タイトル:(仮)サイコデリック


▼登場人物

●久留田 漢(くるた おとこ):男性。14歳。二重人格者。

●ゴールドキーパー博士:男性。60歳。外国人。犯罪心理学の権威。

●沖田秀人(おきた ひでひと):男性。45歳。博士の助手。


▼場所設定

●お花畑心療内科:久留田 漢が来院する。一般的なイメージでOKです。

●街中:久留田の生活リハビリの場面など一般的なイメージでお願いします。


NAは通常ナレーションの形でお願いします(一応沖田を想定しました)。



イントロ〜


皆さんこんにちは。

今回は精神異常をきたしたある男性にまつわるお話です。

どの辺が意味怖なのか、とりあえず考えてみて下さい。



メインシナリオ〜


ト書き〈精神病院にて〉


「先生お願いです。僕を殺さずに僕を殺して下さい」


「は、はぁ?」


ある日、奇妙な事を言ってきた患者がいた。

「自分を殺さずに自分を殺せ」とは一体どう言う事なのか?


しかしその患者を長らくカウンセリングする内に

その意味が解った。


彼は完全なる二重人格者だったのだ。


一方の人格は善人で、

日常生活を他の誰もと同じように生活していく。

けれどもう一方の人格は凶悪な連続殺人犯の性格を秘めており、

今まで殺人を犯した事が無いというのが不思議な程だったと言う。


彼はこれまでに何度か警察に逮捕され、

少年院に送られ、そしてまた娑婆に帰り、

また少年院に送られ…

その繰り返しで今まで生活してきた。


少年法から守られるという言葉から解るように、

彼は今年、14歳になる少年だった。

名前は久留田 漢(くるた おとこ)。


両親は既に他界して居らず、

彼はある特別な施設の庇護のもとで生活を強いられていた。


しかしそんな自分の悲惨な人生に嫌気が差して、

この日、施設から抜け出し、

この精神病院へ来た訳である。


そして…


ゴールドキーパー「ふむ、彼かね?」


沖田「はいそうです」


世界的にも有名な精神病理学の権威、

ゴールドキーパー博士のもとに彼を委ねる機会が訪れた。


ゴールドキーパー博士は来日してもう数十年が過ぎており、

世界的権威と言うその名のもとで、

多くの精神疾患者の治療にあたり、

この上ない誉れ高き成果を挙げていた。


「彼に任せれば安心だ、必ずこの少年にもそれなりの成果が訪れ、やがては少年を救う道標を与えてくれる」


そのように誰もが想像し、

その成果が訪れる日を待った。


ゴールドキーパー博士は精神病理学の研究に際し、

特に犯罪行動心理学・人間行動学の分野から治療を試みる研究を開拓し、

それによる治療成果もかなりの数を数えていた。


つまりゴールドキーパー博士は、

犯罪行動心理学の権威でもあったのだ。


ト書き〈治療から成果へ〉


少年をゴールドキーパー博士の治療に委ね、

僅か数週間が経過した頃。


早くも博士は彼が本当に二重人格による脅威に苛まれ、

その行動によってこれ迄の人生を狂わせてきた事を突き止め、

先ずはその凶暴な性格の矯正から始めた。


博士の治療法はいわゆる生活リハビリを模したもので、

少年を日常生活に返し、その生活基盤を治療の土台とし、

そこで実践的な治療の成果を挙げていく。


ゴールドキーパー「ふむ、少年は本当に犯罪スレスレの生活を送ってきているようだ。実際、彼の行動を先回りし、私が彼の犯罪を止めなければ、彼は今頃十数人を殺害している凶悪犯、殺人のエキスパートになっていた事だろう…」


驚いた。


なんとゴールキーパー博士は少年の行動を先回りして、

少年による犯罪行為をことごとく取り押さえ

少年の手を犯罪の手に染めないよう守っていたのだ。


(新しい医療器具の開発と実験薬の開発)


そんな頃。

ゴールドキーパー博士はその明晰な頭脳を持って、

新しい医療器具と新薬の開発に取り組んでいた。


その新しい医療器具とは…


「このような二重人格の疾患者をその凶暴な性格から守る為、片方の人格を消滅させる」


と言うこれまでには無い、

画期的な試行のもとに開発された前代未聞の機器だった。


そして新薬の方はまた別で、

これはクローン人間を作る為のもの。

まだ試作段階でもありその成果や

充分なデータを得られていない状況だ。


ゴールドキーパー「とにかく彼にはこちらの装置『人格さんさようなら』を使えば、それなりの精神的改善が見え、本来の人格のみをその心の中に宿す事が出来るかもしれない」


その治療法は果たして期待されたが

1つだけ大きな難点が残されていた。


「残る人格がどちらか判らない」


と言うもの。


いわゆる賭けである。


しかし今の状態で捨て置いては

彼は間違いなく次の犯罪へ向けて歩を進ませてしまう。


それは確実ながら、その可能性をなんとか払拭してやらねば、

我々医療従事者の任務を果たす事は出来ないとなる。


致し方なし。


結局その治療法が用いられた。

「人格さんさようなら」装置から伸びたあらゆる電極を彼の体に取り付け、

彼の人格のどちらかを消す為、治療が開始された。


ト書き〈悪い方の人格だけが残る〉


久留田「てめえらぶっ殺してやる!」


なんと言う事だ。

彼に残ったのは凶悪性を秘める悪い方の人格だった。


果たして運命のいたずらか

彼が生まれついた人生の定めがそうだったのか。


こればかりは人間の手の届く領域にはなく、

精一杯の治療を試みた後(のち)、

何の因果か、そこに集った我々医療従事者は

彼のその凶悪性のみの性格と対峙せねばならなくなったのだ。


ゴールドキーパー「君達はこの部屋から出るんだ早くしろ!!」


ゴールドキーパー博士はそれなりに罪の意識を感じたのか、

そこに集った医療従事者・自分の助手をまず部屋から追い出し、

自分1人がその少年と対峙する姿勢を取った。


「自分が作り出してしまったこの哀れな少年を自分の手で慰め、何とか解決の道へ共に辿らねばならない」


おそらくそう考えたのだろう彼は、

暴れ回る少年に抱きつき背後からなんとか取り押さえ、

まず落ち着かせる事を試みた。


でも少年は抗い続け、その勢いは更に度を増してくる。


ガラス張りの治療室は外からも丸見えで、

少年が博士を殴り回るその光景を見、

助手の1人が加勢に向かおうとしたその時だった。


ゴールドキーパー「ハァハァ…く、久留田君…!」


二重人格の悲惨を宿したその少年・久留田 漢の背中に、

1つの刃物とも呼べる注射器が刺さっていた。


その注射器が刺さった瞬間少年は俯せに倒れ、

その後、二度と目を覚ます事は無かった。


凶悪な人格のみが支配するその少年の力は凄まじいもので

やや年老いたゴールドキーパー博士の力では

もうどうする事も出来なかった。

取り抑える事が出来ず、

つい寝台の上にあった注射器を取り、

彼の背中に突き刺してしまったのだ。


一瞬の出来事だった。


ゴールドキーパー博士を始め我々医療従事者は一斉に項垂れ、

動かなくなった少年を前にただ涙を流した。


ト書き〈その後〉


その後、博士はそんな状況ながら正当防衛が立証され、

法の裁きを受けるまでには至らなかった。


ゴールドキーパー「いや、幾ら法の裁きがどうあれ、私はこの手で少年を殺してしまった事は事実。その罪は生涯背負って行き、私は彼の亡骸の前に一生後悔の涙を流すだろう」


博士はしきりにそう言うが、周りは彼を慰めた。


ゴールドキーパー「…しかし、それでもこの今回の事で、あの注射器に入っていたのが新薬だったからこそ、貴重なデータが得られると共に、今後の医療の発展に役立てる可能性もある。これだけは唯一、私を始めここに集う医療従事者に与えられた救いとなるのだろう…」



解説〜


はい、いかがでしたか?

それでは簡単に解説します。


久留田 漢は14歳の少年でありながら、

善良な性格と凶悪な性格を持ち合わせる

二重人格者でした。  


彼はその性格に悩み、

それまで保護されていた施設を抜け出し、

この精神病院へとやってきます。


藁にもすがる思いだったのでしょう。


「僕を殺さずに僕を殺して下さい」


と言うのは文字通り、

自分の中に住まうもう1人の自分を殺し、

今喋っているこの善良な自分を生かしてほしい…

と言う意味でした。


そこで人生の転機とも言える幸いだったのか、

その精神病院にはゴールドキーパーと言う

精神医療科学では名医とされた博士が働いており、

彼にその少年の治療を委ねる事が出来ました。


ゴールドキーパー博士は医療分野において、

2つの研究成果とも言える発明をしていました。


1つの発明品は「人格さんさようなら」と言うもので、

これは人間の内に複数宿った人格を消去し、

1つの人格だけをその人の内に宿す為の装置でした。


もう1つはクローン人間を作る為の新薬で、

これは試行段階にあり、

まだ実際に人体に投与された事の無い未知なる薬。


なので新薬の使用は今回の治療から外された上、

「人格さんさようなら」による治療のみをもって試みましたが、

この治療ではどの人格が残るか判りません。


だからこれは一種の賭けになりました。


このまま放っておけば少年は必ず凶悪犯罪に身を染める。

それを防ぐ為にも致し方のない治療。


これをパワーワードにし、

ゴールドキーパー博士もそこに集った医療従事者も納得の上、

治療を試みたのです。


そして治療の果て、残ったのは凶悪な人格の方でした。


この悲劇によりゴールドキーパー博士は

自分だけが少年の前に立ちはだかり、

他の従事者達を部屋の外に追い出します。


しかしその末にゴールドキーパー博士は

寝台の上にあった新薬の入った注射器を少年の背中に突き刺し、

少年は結局その薬によって死亡します。


ここまでの経過を見る上で、

解る人には解ったでしょう。


ゴールドキーパー博士は犯罪行動心理学の権威でありながら、

その犯罪行動心理がどのようなものかも熟知していたのです。


その延長で、

彼は完全犯罪へのハウトゥーにも精通していた訳です。


そもそも久留田の犯罪行動をなぜ先回りする事が出来たのか。


それはその犯罪行動を先回り出来る能力を博士が宿していたという事であり、

それはつまりゴールドキーパー博士自身が犯罪に長けていた、

と言う事を裏付ける証拠にもなるもの。


その完全犯罪に精通していた彼だからこそ、

少年を利用し新薬のデータを取る事も出来た…


と考えてみれば、ゴールドキーパー博士、

その男の恐ろしさと言うものが意味怖の形で解るでしょうか。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=SKZ4xlWvsAY

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