ゲームで捻くれてみたら先輩が慰めてくれた

おがた

第1話 ゲーム

第一話「ゲーム」

「あー、だり」

 ポキポキと首の骨を鳴らすのは、俺、葛原海斗である。

「テスト二十点。成績オール二。持ってない漫画の巻数は、二……。二ばっかじゃねえかああ!」

 そんなに叫んだところで、何も変わりはしない。

 俺は返ってきたテスト用紙をくしゃくしゃにして、ゴミ箱に捨てた。

「こらこら。何をやっとるかね、君はぁ」

 そう話しかけてきたのは、先輩の蜜柑先輩だった。千田蜜柑先輩。

 俺の一個上で、高校二年生だ。

「もったいない。これをもっといろいろできやしないんかね?」

「二十点すよ。そんなのいりませんよ」

「二十点も取れたんじゃないかねぇ?」

「俺はどうせ無能ですよ」

 そう言ってみると、蜜柑先輩が、あるパッケージを取り出して見せてきた。

「これをやってみたまえ」

「ええ? 嫌ですよ。それ、ゲームのパッケージでしょ?」

「よ、よく、気づいたねぇ、おぬし。汗」

「どういう神経したら、テストの結果が悪い後輩にゲームのパッケージ渡すっていう流れになるんですか!」

「あはは……。やっぱ、やりたくないかぁ」

 やりたくないとか、以前の問題な気がする。

「嫌ですよ。そんなの。うちにはハードもないし」

「ほう。ハードがあれば、やると」

「は、はあ?」

「実は、私、一緒にやってくれる仲間みたいな人探してて……」

 みたいな――って、どういう……。

「やりませんからね! でも、一応、その、面白そうだから貰っていきます!」

「待て待て待て! どういうことだね? おぬし。面白そうだからって、どういうことだね?」

「これ、いつ発売したゲームです?」

「昨日」

「じゃあ、わっかりますよねぇ!」

「ばかばかばか! 返しなさい! 売る気だろ! 絶対、売る気だろ!」

「え? 誰も、そんなこと言ってませんけど?」

「ほ! じゃあ、やってくれるのかねぇ?」

「やってもいいですよ。どうせ、やることないですし、それからです。売るのは」

「お、おう……。じゃあ、とりあえずはやってくれるんだね?」

「はい。ハードももらえるんですよね?」

「へ? あ、ああまあ。売るなよ! ハードごと売るなよ!」

 そのあと、パソコンに近いゲーム機を手に入れた。

 家に帰り、電源を入れてみる。

「ふーん。普通のゲーム機じゃん」

 モニターに接続して、コントローラーを握る。そういえば、最後に蜜柑先輩が言ってたな。

『マイク付きヘッドセットを忘れないように!』

 俺は、それをつけて、部屋の電気を消した。

 ドゥン、という音がする。

 ゲームが起動した。

「へえ。結構ちゃんとしてんじゃん」

 それは、いわゆるロールプレイングとシミュレーションをかけ合わせたようなゲームだった。

「私は妖精サリエリ。あなたの職業を決めましょう」

 何だ? これって、あれか? 最初のステータス決めるやつか?

「ええっと……じゃあ、何か、かっこいいやつで頼みます」

 マイクの音声入力から認識してくれるみたいだ。

「あなたの職業は、冒険者になりました」

「え。ふつーすぎやしませんか、サリエリさん?」

「は? 口ごたえすんじゃ……ゴホン。えっと、冒険者ということになりましたので、とっとと行きやがってください」

 隠せてないですよ? サリエルだか、サルエルだか、妖精さん?

「まあ、いいや。とっとと始めさせてくれ」

「では、冒険の旅へ、レッツゴー!」

 そして、俺は、あるアパートで目覚めた。正確には、そこは宿屋らしかった。

「へえ。ここが俺の家ってわけね。外が騒がしいな」

 外に出てみる。そこでは、いろんなプレイヤーがボイスチャットで喋っていた。

「すげえ。リアルタイムかよ」

「お。君、初めて?」

 男の人が話しかけてきた。

「ええ。そうです。ちょっと約束してるので」

「そうかい。ちょっと俺も初めてでよくわかんなくて」

「は、はあ……」

 その、声がおじさんのプレイヤーにとりあえず付いていくことに。

「いやあ。お金もさあ、課金式じゃないから、助かってるよ」

「会社員やられてるんですね」

「うん。君は、学生でしょ?」

「え、ええ。まあ」

「こんなゲームしてて、俺は何やってんだろうなあ」

「いや、いいんじゃないですか? 俺も勉強やんなきゃって感じなんですけど、ある人に誘われて」

「へえ。そんなことが。でも、このゲームにも勉強しているところ、つまり学校があるらしいよ」

「げ。そうなんですか?」

 まさか、蜜柑先輩って、それ目的で、俺にこれやらせてないだろうな?

「モンスターいるらしいから、俺、ビビっちゃって」

「へえ。そーなんすねえ」

 興味なし。

 悪いが、俺におっさんの趣味はない。

「とりあえず、お茶してく?」

 こいつ、めっちゃ暇なんだな。そう思った。

 そして、近くの喫茶店に入った。

「いらっしゃいませ。お二人でしょうか」

「はい」

 そして、中に入る。あの店員も実は、プレイヤーだとか。このおっさんが喋った。

「シミュレーションって、いろんなことやれるんすね」

「すごいよね。このゲーム」

「はまる人たくさんいるんじゃないですか?」

「いや、昨日、発売したばっかりだから」

 あ。そっか。そんなこと、蜜柑先輩が言ってたな。

「ふう。何頼む? 俺のお気に入りは、ミルクティー」

「え? 味なんてしないでしょ?」

「しないけどさ。安くて、回復量よかったりするんだよねえ」

「モンスターとの戦闘もやったのですか?」

「まあね。そんなところだよ」

「ふうん」

 その時、何か変な人が入ってきた。

「きゃー!」

「何ですかね。何かあったんでしょうか」

「強盗だ! 机の下に隠れるんだ」

 へえ。何でもありのゲームは強盗もできちゃうんだ。

「え? このゲームって、強盗して何になるんですか? 警察の厄介者じゃないですか」

「それでも、課金できないゲームだ。つまり……」

「お金が必要ってか、すんげえ重要ってことですね」

「そういうこと」

 そこまでして、何かしたいものかねえ。たかがゲームに。

 そうした瞬間、チャットが飛んできた。

[おい! 葛原くん! 君は一体どこで何をやっているんだね? 私のことは忘れたのかい?]

 あ。蜜柑先輩だ。

「ちょっと電話します」

「君、状況、わかってる?」

「わかってますよ!」

「おい! 誰だ、あそこで騒いでいるのは!」

 げ。見つかった。

 まあ、いい。死んだところで、ペナルティがあるだけだろ。

『蜜柑先輩。何ですか?』

 小声で話す。

 しかし、大声で返ってくる。

『君、私を置いてけぼりにしてどういう神経してんのかね? フレンド登録はハードにやっておいたはずだけど?』

『すみません。今、取り込んでて……』

『あのねえ。何してるか知らないけど、早く来なさい!』

『今、強盗に遭っててですね……』

『え? どこにいるの?』

『初期リスポーン地点から近い喫茶店です』

『わかった。すぐ行く』

 なぜかその言葉が頼もしく聞こえた。


 第一話 ゲーム 終わり

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