大切なものを守る戦い
第48話 覚醒した力
梓だけに力が目覚めたわけではない。最初に目覚めた優を始め、七海、誠、命、そして大輝にも大きな変化が起きていた。
「これは……! 言い伝えにあった」
「力が溢れて来る。これなら――いける」
七海の弓矢、誠の結界と両手が、それぞれ明るい赤と淡い緑に輝いている。同時に先祖の想いと記憶、更に強い力がそれぞれの中に湧き上がった。力の使い方は、誰にも教えられていないがわかる。
七海はナイフから弓と矢に持ち替え、誠は両手をパンッと胸の前で合わせ、目の前の獣と人形の群れを見た。二人の変化に気付いたのか、それらは若干勢いを失ったように見える。
今が好機かもしれない。七海と誠は目を見合わせ、同時に全力で力を使って群れに向かい飛び込んだ。
「やあっ!」
七海が早速弓を引けば、矢は燃え盛る炎となって飛び出す。それに当たった瞬間に獣は消失し、上に乗っていた人形が転げ落ちた。
起き上がろうとした人形の上に、突然壁が現れる。見れば、淡い緑色の光を帯びた誠の結界の壁が立ち上がるのを妨げているのだ。
「――はっ」
しかし、暴れたところで間に合わない。誠の一言により守る力の変異が起こり、人形を潰すように消す。派手なアクションのない誠の力だが、七海との対比で人形たちに十分な警戒心を抱かせていた。
❁❁❁
同様に、優と命も自身の変化に驚いていた。
優は先に覚醒していたが、更に大きな力が沸き上がって目を見開く。記憶に含まれていたのは、日守に仕え支え続けて来た先祖のものだった。
(ああ、そうか。……四家ではない自分にも、出来ることはあるんだな)
実は、優は大輝同様に四家ではない。それでもここまで戦えるのは、紡ぎ続けられてきた一条の想いと彼自身の気持ちと努力あってのものだ。
「……優さん。わたし、精一杯フォローするから」
「ああ、頼りにしているよ」
「はいっ」
優の言葉に、命は笑顔で応じた。
命の手のひらが桜色に輝くと、優の周りに透明な膜が現れる。それを目にしたヴィルシェは、目を細めて首を傾げた。
「一体、何が起こった? その妙な光は何だ?」
「さあな。確かめてみるか?」
ヴィルシェを挑発し、優はヴィルシェに斧を振り下ろさせた。
ドッという重々しい音を響かせ、ヴィルシェは優が潰れたと信じた。しかし、ぶるぶると斧が震えていることに気付き、目線を落とす。
「――何だと!?」
「こういうことだよ、ヴィルシェ」
目を見開くヴィルシェに、優は動きで応じた。沈められたと思わせ、姿勢を低くして剣で受け止めた斧を弾き返したのだ。口をパクパクさせるヴィルシェを一睨みして、優は命に微笑みかけた。
「ナイスフォロー、命」
「はい!」
命の力が強くなったことにより、他人に強い身体強化をかけることが可能となった。それを使い、優は重いヴィルシェの斧を受け止め弾き返し、更に今攻撃を仕掛けようとしている。
斧の柄に狙いを定め、優は地を蹴った。パワーでは劣るものの、スピード面ではヴィルシェに全く引けを取らない。それどころか、覚醒したことで上回ることも可能となっていた。
「お前、気に入らない!」
「奇遇だな。俺もだ」
優は振り回される斧を躱し、弾き、取り落とさせようと狙う。当然ヴィルシェは優の狙いを察し、目的を達成させないように自分を庇った。
キンッキンッと数え切れない回数打ち合わされ、響く金属音。次第にヴィルシェの動きが鈍くなっていったのは、彼自身が疲労を感じていたからだけが理由ではない。
「どうして……」
「わたしが邪魔しているから」
命の言う通り、彼女が創った結界をボール状にしたものが周囲に浮かんでいる。そのボールは優の動きは邪魔しないが、ヴィルシェの手足の動きを阻害した。徐々に動きづらくなり、ヴィルシェの行動が雑になる。
「ああ、うざい!!」
「あっ」
両手をばたつかせるようにして暴れたヴィルシェの手の斧が、命の頭に襲い掛かる。気付いた時にはこめかみ近くにあり、命は絶体絶命を自覚した。
(死――っ)
命の回復能力は、自分自身に対して存分には発揮されない。瀕死になった場合、蘇生はほぼ出来ないと言える。命は咄嗟に目を閉じ、絶命に備えた。ある人の面影が浮かんだが、もうどうしようもない。
「――動くな!」
「!」
「ぐあっ」
三つの反応は同時に起こった。優が叫び、命が動きを止め、その目の前でヴィルシェの斧が彼の手から叩き落されたのだ。正しくは、斧の刃と柄が切り離されて飛んで行った。
その場にへたり込んだ命の元へやって来た優は、優しい兄のような目で彼女の頭を撫でた。目を見開く命に、片目を瞑ってみせる。
「……っ」
「必ず梓に自分の気持ちを言うんだろう、命?」
「何で、それを!?」
「――内緒」
ふっと微笑んだ優のいたずらな笑みに、命も余分な力が抜ける。ヴィルシェが気を取り直す前に、と優の怪我の痛みを力を使って少しだけ取った。
命に「ありがとう」と微笑んだ優は、すぐに険しい顔でヴィルシェを睨み付ける。斧を失ったヴィルシェは、怒りに震えその拳を握り締めた。
「貴様ら、殺す」
「殺させない、誰一人」
一瞬にして二人の距離は詰められ、拳同士がぶつかった。
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