第七話 斯くて、語り手は、再び自らを牢獄に閉じ込める。

 そんな責苦から逃げ出して、自分だけの世界に閉じ籠ってしまう者が出たとしても、それは無理からぬ話ではないだろうか。


 己を取り巻く異常、何より自分自身と云う異形、全てから目を背けて逃げ込んだ、仮初とは言え安寧の場所。だと云うのに、結局それが己を閉じ込める牢獄に過ぎなかったとは、一体どういう事なのだろうか。


 全ては己が内に抱える異形が為に。


 どれ程耳を塞ぎ、目を逸らそうとも、それが自身の内に根付いた物である以上、何処へ逃げようとも、寧ろ外界との接触を断ち、夾雑物を取り去ってしまった事で、其れ迄はただ漠然とした不安でしかなかった物が、はっきりとした輪郭を持つ物となって迫って来る。


 自分だけの部屋に逃げ込んで、鍵を掛け、外部からの影響を全て閉めだした積りが、何の事は無い、締め出されたのはお手前の方であって、体良くこの狭い牢獄に閉じ込められたに過ぎなかった。


 しかも、何より悪い事に、他の誰でも無い、自分自身の手に依って。


 自ら望んで籠った筈の、自分だけの秘密の隠れ家。それは真の意味での牢獄に他ならなかったのだ。


 

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