「遊び人」


ーー称号機構、それはこの世界を維持するために必要なものである。

 人々は称号をもち、それに殉ずることがこの世界の人々の使命だった。


 人が死んでも称号はなくなることはない。

 循環して新たに生まれくる子供に受け渡される。この世界と称号とは切り離せないものであった。

 だが、称号『0』の人間が生まれてしまったことで一つ目のバグがそこに生じる。



「なんだ、体が……」

 男は三つの称号を持っていた。

 一つ目は『遊び人』、二つ目は『大盗賊」、三つ目は『勇者』である。


 人から奪った勇者の称号は彼の身体に馴染まず、異変を起こしていた。

 寒気が止まらなくなっていた。そして、痛む。

 遊び人の素養【成長が早い】と勇者の素養【成長が遅い】の相反する二つの素養が彼の体を内から痛めつけていたのである。


 『大盗賊』が盗賊の最上位称号であり、今まで総数が少なかったことと、人が人の称号を奪ったという実例がなかったことから、男はこの結果を予想することはできなかった。



「クソッ」と悪態を垂れた男の左目から目玉が飛び出て地面に落ちる。

 壁に手を着き、隠れ家のベッドへと一歩ずつ向かう。



 解決策はある。

 身体の成長そのものを止めて仕舞えばよいのだ。

「医療魔法を使える者を呼べ、今すぐだ!」

 命からがら、戦士に指示を出す。

 彼女は服を着ると、隠れ家と思しき建物から飛び出していった。



 男は気がついた。

「そうか、時間を奪えばいいのか」

 かけてみる価値はあるな、と彼は汚れたシーツの上に横になり体を休めゆっくりとだが確実に自分の時間を奪った。


  ◇


 その時、傍で賢者は見ているだけだったが、一抹の疑念が彼女の頭の中に生じる。


「あれ?どうして私、こんなところにーーー

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