魔女は安らぎたい〜勇者の称号を奪われた私は魔女になって人類に復讐しちゃいます!?〜
エイジ
第一章 プロローグ
勇者「ユリア」
ーーかつて、私は勇者だった。
始まりは誰も覚えていない。
強大な魔力と長い寿命を持つ魔族は、その力を使って人類を滅亡へと追い詰める。
が、その度に人類の中から産まれる勇者という存在が、反旗を翻す。
魔族を追い詰め、魔王を倒す勇者と束の間の平和。
勇者が歳をとり力を失う頃、魔族の中から新たなる魔王が現れて再び人類を侵略し始める。ということが長い間続いていた。
私もその勇者の一人だった。
鎧に身を包み、剣を持つ。いつだったか、私は黒髪をバッサリと切ることにした。
それまで伸ばしていた黒髪をだ。
勇者の素養とスキルを生まれた時からもち合わせ、子供の頃から鍛錬を積見上げた。
十六を迎え、国王から魔王討伐の許可を受けた私は、パーティを組んで、旅に出た。
パーティは私以外に三人。
一人目は女賢者で、私が直々にスカウトした。
魔力を剣に通わせてスキルを使うことが多かった私と、魔力を呪文によって炎や氷に直接変換することができる賢者との相性はよかった。
それに年も近く、彼女と話すことは私の緊張をほぐす。
大切な仲間の一人だ。
二人目は戦士だ。
屈強な体と武術を待ち合わせ、ある時は切り込み役、またある時はパーティの盾と臨機応変に立ち回ってくれていた。
臭いのが嫌なので女性を選んだ。力はあるが、紫の髪が目立つ美人だ。スタイルもよく、大人の女性って感じで、一言でいえば、憧れだろう。
三人目が遊び人。
私はよくわからないのだが、賢者が言うには遊び人の中から稀にだが、賢者に転職するものがいるらしい。
黒髪で、私の知らない服装に身を包む。口笛のスキルや昼寝のスキルを使うが、たまに大当たりの銭投げを使う。なんだか憎めないやつなのだ。
こんなやつがパーティにいても仕方ない、と思うが、賢者が二人いれば心強い。
おまけに遊び人は成長も早かった。まぁいてもよい。
「あと何体?」
その日は道中の村を襲撃してきた魔族の撃退に当たっていた。
空は暗く、日が沈みかける。
早く倒さなければ。
「地上の敵はあらかた倒しました。えーと、残っているのは飛んでいる魔物が三体です」
賢者が言う。
近くの魔力を感知するスキルを持つ彼女が言うことだ。間違いはない。
「よし」
私は右手に剣を構えて集中し、そこに魔力を流していく。
準備ができた。光り輝く剣を強く振る。
横一閃を描き、空を切る刃となった雷撃に似た光が、羽を持つ魔物を二等分に切り裂いた。
魔族は死ぬとその肉体を構成する魔力が、空気中に分散し、維持できなくなって消滅してしまう。
「これで終わりのようね。今日はこの村の宿を借りましょう」
人間とは違う魔族のそれを見ながら、女戦士が提案してくる。
彼女は場を纏めるリーダー的存在でもあった。ありがたい。
「えぇ」
私はその提案に乗る。
美味しい物が食べたい。ここでは食べられるのだろうか。
遊び人は横で勝利のダンスを踊っていた。
まぁ悪くはない、と思う。
宿につき、鎧を脱いで肌着になった私はベッドに入る。簡易的ではあるが、部屋はそれほど狭くなく、ベッドに書物、机と一通り備えが揃っている。
食事は豪勢なものではなかったが、美味しかった。
私は骨つきの兎の肉は食べやすくて好物だった。
これからの旅路について考える。
賢者、戦士の二人は既に充分強いし、遊び人も育ってきた。
魔族の領地へと足を踏み入れ、幹部を倒すのも近いな、と明るい気分で眠りにつこうとした。
油断していた。
足音が私に忍び寄ってくることに気がつく。
「誰だ!」
私が声を上げた時にはもう遅かった。
「奪え」と聞こえ、私は拘束される。
遊び人の声だった。
おかしい。これは遊び人のスキルではない。
盗賊のスキルで確か、私が動けないことを見るに、対象の動きを奪うもののはず。
「ここまで、僕を育ててくれてありがとう、勇者様」彼が丁寧な口調でお礼を述べるが、嬉しくはない。
「まぁ事態が飲み込めないよね。わかる。でも、勇者の存在を知った時からずっとこうしたかったんだ。待ってたんだよ、君が一人で眠る所を」
抵抗を試みる。
勇者の素養には抵抗力というものがあり、魔族のもつ魔力には対抗できたが、今勇者にかけられているそれを防ぐことはできなかった。身動きをとることもできず、言葉も発せない。
「かわいいなぁ、勇者様は。でも残念、今日で勇者様とは、お別れだね」
遊び人は第二のスキルの発動の準備を始める。
「奪え」
発動した。
遊び人の魔力が私の中に侵食してくるのがわかり、その気持ち悪さが襲ってくる。
抵抗で叫び声をあげたいが、声は出ない。悔しさで涙が出そうになるが、それも出ない。早く、終わってくれ。
どれくらいの時間、耐えていたのかはわからない。 長い時間のことのようにも一瞬のことのようにも思えた。
私の持つ勇者に関連する素養、スキルは奪われてしまった。私はもう勇者ではない。
こんなことただの一人の盗賊にできるわけがない、とこいつの正体に疑問を感じ、恐怖が芽生える。
「これからは、僕が勇者さ。大丈夫、安心して。役目は果たすよ」
遊び人が私の頬を撫でながら言う。
「あ、動けないんだっけ?ハハハ、ざまぁないね、元勇者様」
悔しさが溢れる。泣きそうだ。
受け入れられない。
こいつをパーティに入れた私が間違っていたのかーー。
「みんなに知らせてくるね」
そう言うと遊び人は隣の部屋に寝ていた賢者と戦士の二人を起こし、
「大変だ、勇者が力を奪われたみたいなんだ!! 起きてくれ!! 大変なんだ!!」と嘘をつく。
慌てた様子の遊び人に起こされ、目覚めたばかりの二人が目をこすりながら私の元にやってくる。
一瞬のことだった。
背後からニヤニヤとした笑みを浮かべた遊び人がスキルを使った。
「魅了せよ」
二人は落ちた。
これは遊び人のスキルだろうか、いつ習得していたかはわからない。
「これでこの二人は僕の奴隷だ。ほら、好きなようにできる」
戦士の胸を触りながら、遊び人が言う。
本当に抵抗できないようで、彼女の虚ろな目が、私に悔しさと絶望をもたらす。
「じゃあ僕はこいつらで遊ぶから、勇者様は眠ってるといいよ」
その台詞を聞いた私はなす術がなく、眠りに落ちてしまった。
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