異世界3兄弟(仮題)
イカ焼き専門学校
第1話
「じゃあとりあえず転生させますねー」
どこを見渡しても何もない真っ白な空間。気が付くと目の前から声がした。
目を向けるとそこには薄手の法衣のようなものを着た、プラチナブロンドの美人さん。これはアニメや小説なんかで見たことあるぞ、異世界転生ってやつだ。
でも待てよ、俺はちょっと前まで確か.......
「定道くん!午後からの会議で使う資料は用意したのかね!」
「定道さん!昨日の報告書、誤植だらけで直すの大変でしたよ!」
「おい貞夫!先方から契約内容がおかしいってクレーム来てるけど、対応したのお前だっただろ!どうなってるんだ、何とかしろ!」
思えば大学のときは楽しかった。偏差値的には普通の大学だったが、友達に誘われて入ったキャンプサークルが最高だった。4年間ほぼキャンプして遊んでた記憶しかないが、料理のスキルは上がった気がする。
けど楽しかったのはそこまで、就職活動の時期に入ってからみんな忙しくなり、楽しかったキャンプもあまり行かなくなった。それに比例して大学が楽しくなくなり、半ば自暴自棄になりながらテキトーな企業に入社。そこからは右肩下がりの人生のような気がする。
生きてても楽しくないし、俺はこんな生活をいつまで続けるのだろ...
「ちょっとー!聞いてますー!?」
「あ、 す、すみません。」
悲しい思い出に浸っていたら目の前の女神(?)様に声をかけられて現実に引っ張り返された。
そうだった、いまはこの真っ白空間にいたんだった。そっかー俺もついに異世界転生デビューか、異世界に行ったら何しようかな、めちゃめちゃに鍛えて俺tueeeeとかしてもいいし、せっかくならかわいい女の子とイチャイチャしたいなー。今まで彼女とかいたことなかったし。やばい、やりたいことがいっぱい出てきた。
でも待てよ?俺はなんでここにいるんだっけ?
俺はふと、ここに来るまでのことを思い返していた。
「もう君には失望したよ。」
今日も今日とて愛しの上司様からお褒めの言葉をいただいた。今日で5日目、最高記録更新だ、やったね。いや、まあそんなこと言ってる場合じゃないんだけども..
今日もダメだった、昨日もダメだった、その前もその前もダメだった。そりゃ俺だって最初はやる気満々だったさ。でも無理、できないものはできないんだ。
もう俺の心は限界だった。来る日も来る日も怒られるだけの毎日。そのうち俺は遠くの景色ばっかりを眺めるようになった。今思うと多分死に場所なんかを探していたんだと思う。
その日は特に叱られた。最初のころは同僚とかが慰めてくれたが、もう誰も俺のほうを見ていない。いるようでいない、透明社会人を過ごすのにももう慣れてしまった。その時だった。心を守るストッパーが外れた気がしたのは。
いつも降りる駅を通り過ぎ、知らない都会の町へ。不思議と謎の勇気が湧いていた。何でもできる、何にでもなれる。生きるってすばらしい!まあ、進む方向は逆なんだけど。
(ここでいっか。)
片側4車線もある大通りの前で足を止めていた。そうだ思い出した。俺は確かこの後....
「いいかげんにしろーーーーーー!!!」
「へぶうううううう!?!?!」
女神さまに思いっきりぶん殴られた俺は3メートルくらい吹っ飛ぶ。右頬が痛い。
(なぐったね!?しかもおもいっきりグーで!)
信じられないという顔をしていると、怒りのオーラを滲ませながら絶対に笑ってない笑顔を浮かべ、いつのまにか目の前まで来ていた女神様が言った。
「何回も長いんですよ、あなたの回想は!人生つらくなったから自殺しようとした。ほら、これで終わりじゃないですか!なーに自分は不幸アピールしてるんですか、自己を正当化したって世の中は変わらないんですよ、このアホ人間!」
ひどい言われようだけどまあその通りだ。結局俺は現実から逃げただけ。やっぱりどこまで行っても俺はだめだったんだろうな。ん?待てよ?自殺しようとした?自殺したではなく?
「あ、あの女神様。ちょっと聞きたいんですけど、俺の死因って大通りに飛び出してトラックか何かにひかれて死んだんですよね?」
「え?あーー、あなたはそういう認識なんですねー。でも違いますよ、大通りに飛び出そうとしたとこまではあってますが、実際は飛び出してませんよ。」
てっきりあのままひき肉になってハンバーグにでもなっていると思っていたが、どうやら違ったようだ。
「じゃ、じゃあ俺はなんで死んだんですか...?」
俺は恐る恐る聞いてみた。自分の死因を聞くなんて体験今以外にできないだろう、ちょっと得した気分。
「あなたは飛び出そうとしたとき、たまたま後ろを通りがかったラガーマンにぶつかりその時車にひかれたと錯覚してそのまま失神。一応病院には運ばれたものの、その時ちょうど別の場所で大きな事故があって、あなたの対応をする暇がなかったんでしょうね。医者にも看護師にも忘れられたまま病院のベンチでひっそりと息を引き取りました。おめでとうございます、なかなかこんな死に方経験できないですよー」
「...........え?」
全然おめでたくなかった。え、うそ、俺忘れられて死んだの!?そんなことってあるのかよ、しっかりしろよお医者さん。こんな死に方なら聞くんじゃなかった。失神して死ぬってなんだよ。だいぶ損した気分だわ。
信じられない自分の死因に呆然としていると女神さまはつづけた。
「まあとにかく、これから転生していただきますのでー。準備はよろしいですかー?」
そうだった、俺はこれから転生できるんだ。今までの悲しい過去なんか忘れて楽しい異世界ライフを送ろうじゃないか!ビバ異世界!
新しい未来に心を躍らせていると、女神さまはいろいろと説明してくれた。
「あなたが行くのはよくある中世っぽい異世界です。まさに剣と魔法のファンタジー、もちろん魔物とかもいるありふれた世界ですねー。いろんな人が擦りに擦った世界ですよ。」
あんまいらんこと言うなよこの女神。でもそうか、俺が昔よく読んでたような異世界か、より一層楽しみになってきた!
「じゃ、転送しますねー」
女神様がそういうと俺の周りに光り輝く魔法陣のようなものが出現した。光の魔法陣はだんだんと輝きを増していく、どうやらこのまま転生してしまうみたいだ。
待ってくれ、まだ聞きたいこととかあるのに。俺は慌てて女神さまに聞いた。
「あ、あの!なんかこう、転生特典のチート能力とか、特殊な才能とか、持ってるだけで最強になれるアイテムとかはないんですか?」
異世界転生といえばの醍醐味だろう。転生される前に聞いておきたいと思い、必死で女神さまに問いかけたが、前世と同じように現実は非情だった。
「ありませーん、ちゃんと記憶は引き継がれるんですからそれで頑張ってくださいねー」
愕然とした思いでいると魔法陣がさらに強く輝きだした。もう転送されるのだろう。仕方ない、転生させてくれるだけでもありがたいと思って異世界に行きますか。
転送されるというその時、目の前の女神さまが忘れていたかのように手をポンと叩き、付け足すように俺に言った。
「そうでした、忘れるところでしたー。転生するにあたって一つだけ注意がありましてー、転生者ってことは他の誰にもばれちゃいけませんよー?もしばれちゃったら―」
そこまで言ったとき俺の体を光が包み、最後の言葉を聞くことがないまま俺は新しい世界に生まれ落ちた。
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