ありがとう
「蒼彼ー、帰ろ」
次の日の放課後、海純がいつもと同じようにそう声をかけてきた。
「あー、すまん、今日は先に帰っといてくれ。することがあるんだ」
だが今日はまだやることがある。
「そうなの?じゃあ今日は先に帰ってるね」
「あぁ、悪いな」
そう言って俺は海純と別れた。そしてある人物を探し始めた。まずは隣のクラス。軽く中を覗いてみるが俺が探している人物は居なさそうだった。
「…昨日と同じ場所か?」
そう思い俺は図書室に足を運んだ。
様々な生徒たちが学校が終わったことで気を緩めそれぞれの話に花を咲かせている。だがそんな楽しそうな話し声も図書室に近づくにつれ静かになっていく。
図書室の扉の前についた俺は静かに扉を開いた。そして中を確認する。
すると昨日と同じように静かな空間の中に俺が探していた人物、並柳 和音が座って本を読んでいた。
この図書室自体が彼女のためにあるのではないかと思えてしまうほど馴染んでいる。そんな空間の中に入るのがはばかられてしまう。彼女の邪魔をしてはいけない。そんなことする思う。だが今日の目的は並柳だ。ここで引き返す訳にはいかない。
俺は静かに中に入ると扉を閉めた。すると並柳は本から一瞬目を離し再びすぐ本に目を戻した。
「あら、今日も来たの。今日はどうかしたのかしら」
淡々とそう告げる彼女はどこか冷たい印象を抱いてしまいそうだ。実際俺は今までそう思っていた。だが昨日話してその認識が間違っていたことに気付いた。俺は彼女ほど優しい人と初めて出会った。
「その…昨日は大切なことに気付かせてくれてありがとう」
俺は少し恥ずかしくなりながらもそう言った。
「あら、なんのことかしら。私はただ思ったことを言っただけよ」
並柳は相変わらず本から目を離さずに淡々とそう告げる。
「それで…海純にもう一回告白したんだ」
そう言うと並柳が勢いよく足を椅子にぶつけた。
「な、並柳?どうしたんだ?大丈夫か?」
「え、えぇ、なんでもないわ?別に同様なんてしてないわよ?」
別に何も言ってないんだけど…
「そ、それで?どうだったのかしら?上手くいったの?」
並柳が少し慌てたように話題を変えた。
「いや、結局ダメだったよ」
「…そう」
「でも後悔はしてない。今まで散々言い訳つけて逃げ回ってきた俺が初めて逃げなかったんだ。それに海純ともまた今までみたいな関係に戻れた。全部並柳のおかげだよ。本当にありがとう」
そう言って俺は頭を下げた。
「そう。良かったわね」
彼女は短くそう言った。相変わらず本を読みながらだがその口元は優しく笑っていた。やっぱり…
「なぁ、並柳」
「何かしら?」
「俺たちってどこかで会ったことあるか?」
なぜだか分からないが並柳の微笑みに僅かな既視感を覚えてしまう。いや、俺は並柳とは図書委員になって初めて知り合った。だからその微笑みに覚えなどあるはずがないのだが…
「…さぁ。もしかしたらどこかですれ違ったりしたことがあったのかもしれないわね」
確かに言われてみればそうかもしれない。図書委員になる前にどこかですれ違って並柳の顔に既視感があっただけなのかもしれない。
「…そうか。多分俺の気の所為だな」
まぁ考えて仕方ないか。
「じゃあ俺帰るな」
「えぇ、それじゃあね」
俺はそれだけ言うと図書室から出た。
「……もー!なんで蒼彼君と話す時に緊張してあんな感じになっちゃうだろう!」
一人図書室に残っていた和音は蒼彼とした会話を思い出しながらそんなことを言っていた。
「そ、それになんでまた朔原さんに告白してるのよ!け、結局ダメだったみたいだけど…ふふふ…はっ!よ、喜んじゃダメだよね…」
先程までの雰囲気とは全く違う和音がそこにはいた。
「蒼彼君…私の事覚えてないのかな…そりゃそうだよね…でも諦めたりしないんだから!」
あとがき
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