感想戦 #1

 昼時はとっくに過ぎていたがベローチェの店内は混んでいた。急に暑くなったからか涼と水分を求めてやってきた客が多いのだろう。カップルの数は少なく、友人同士、もしくは一人客が多かった。

「ほんと、助かりました、ありがとうアムちゃん。感動パンツマジ感動!(うまく処理してもらったらしい。染みなどは目立たなかった)……でもホテル代、ほんとにいいの?」

「アムちゃんはやめて。エイミィって呼んで」

「えぇ……」

 本当に怒ったわけではないことは流石に鈍いタクミでも気づいた。そして、なんとなく悟ったのは、だからといって言ってる内容まで冗談とは限らないということだった。

「プレイ限定ってことですか?」

「敬語もだーめ! プレイとは言わないでっていったよね?」

 あ、これはマジ寄りのやつだ、とタクミは緊張したが、元エイミィこと元アムこと現エイミィはコーヒーゼリーを一口すくって食べ、ん〜ッッと足をバタバタした。

「やっぱベローチェはコーヒーゼリーよね!」

「はあ。あ、いや僕も好きですけど、そんなことより」

「敬語」

「あれは、一体なんなんでしょう……なんなのか教えてほしいんだ」

「あれって?」

「いや、その……鑑賞会」

 スプーンを上に向けながら、しばし考えるエイミィ。モードっぽいスーツに戻っていたが、上着を脱いでいるからかバリキャリのOLといった風情だ。

「あれはね、儀式なんだと思う」

「儀式⁉︎」

 やだ、なにそれこわい。

「えーと、それは僕がイケニエにされるとか、なんかの信者にされちゃうとか、なんか高いものを買わされるとか」

 屈託なく笑ってエイミィ、

「違う違う、結婚詐欺の宝石や絵を売るおねーさんでもないし、勿論アム○ェイとも違うわ」

「あ……そこは伏字なんだ……この作品にタブーはないのかと思ってた……」

「怖いからね」

「真顔でいうのやめて!」

「だからといって、ソウ「わあわあわあ!」っと邪悪なケン「ちょちょちょちょ!」いし、勿論真言立川流とかの勧誘でもないからね☆」

「それはホッとしま——けど、じゃあなんで?」

 スプーンの先を向けて、エイミィが真顔で言った。「逆に訊くけど、じゃあタッキーはなんで来たの?」

 それは。

 それはエイミィに会いたかったからだ。ゲームの中でのやりとりとはいえ、楽しかったし、実際に会ってみたいと。下心がなかったといえば嘘になる。ましてあなたの前だけでコスプレしてあげる、なんていわれたら。

「鼻の下、伸びてる……っていうけど伸びるわけないじゃんねえ」

 けらけら、とエイミィ。

「でも、言い得て妙ね。わかる感じ」

「エイミィちゃんも、僕と会いたかったの? ほんとに? 会うために会ったの?」

「コラコラ、日本語おかしくなってるぞ。それにタッキー、あなた間違ってるわよ。『会うため』じゃなくて『会ってコスプレを見てもらうため』よ」

「それはそうだろうけど……普通、カメラで綺麗に撮って、とかになるんじゃ……」

 そ、れ、は、とエイミィ、

「ひみつ。というか感想聞かせてよ、ねえねえ、どうだったわたしのナース!」

「す、素敵でした」

「だよねえ、言葉より雄弁に語るのは、ふふ、もう触ったから知ってる」

「あ、あれはナースとか関係」

 本当にそうだろうか? そうだと思う。だが最初に欲望にピンを突き立てたのはあのぴったりとしたストレッチパンツだったような気もする。玉羊羹のように、ひと突きでつるんと剥き出しになってしまった気がしないでもないし、だとするとナースなのだろうか。

「似合ってた?」

 今更照れたように訊いてくるエイミィに、タクミはこくんこくんとうなずいた。

「ボ……母性が凄かった……!」

「うれしい」

 ちょっと俯きがちに頬を染めて口許をにまにまさせるエイミィはとても可愛かった。また己の不如意棒が緊箍児きんこじしそうになって、ええい静まれ俺の中腕とタクミが内宇宙インナースペース格闘グラップリングを始めたとき、ティン! と気になったことがあったのを思い出した。

「ねえ、エイミィちゃん」

「なぁに」

「なんかこだわってたみたいだけど、あの帽子なに?」

「は⁉︎」

「看護師さんって、あんなのつけてないよね……?」

「看護婦さんは、つけてるよ……?」

「エイミィさん……訊いていい?」

「やだ、絶対訊かないで。あと『さん』付けは本当にやめて!」

「よく失礼だから訊くなとかいうけど」

「失礼だから訊かないで!」

「はちゃめちゃな婦警二人組の漫画といったら?」

「……『逮捕しちゃうぞ』……?」

 タクミは頭を抱えて、小さくため息を吐いた。——おはよう、ドラゴンズファンのみんな! 今日から僕も仲間にいれてもらうよ!

 

 というわけで、無事明日、火曜の夕方(さすがのタクミにも落とせない単位とかはあったのだった)に、また落ち合うことになった。明日は渋谷で5時。

 他にもっと聞くことがあったのではないか、そう考える暇もないほど、結構楽しく漫画やアニメの話などをした。正味一時間ほどたったが、濃密な時が過ぎた。やはりエイミィちゃんはエイミィちゃんだった。そして、アムとの邂逅も、また楽しからずや。

 彼女も、そう思ってくれてると、いいな。

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