自分探しの旅
月影 弧夜見
自分は何者?
7月22日(日)、午後21時8分。
最近、自分が何者なのか分からなくなった。
……いや、それはそうだ。今の僕には、年頃の僕には、ありがちなことなのかもしれない。
周りのみんなは、同じようなことは言ってなかった。今日も呑気に過ごして、友達と笑い合って。とても、将来や自分のことで悩み、思い詰めているようには思えなかった。
そのように、見えなかったんだ。
でも、僕は違う。ああもちろん、そうやって階級分けをして、そんなことを考えない連中を下に見たいわけじゃない。
単に、最近は悩んでばかりだ、ということ。
別に不幸なわけじゃない。どっちかと言えば幸せだ。友達には囲まれた。彼女はいたことないけれど、でも幸せだった。
人付き合いも上手くいっていた。勉強もある程度上手くいってるし、学校生活はむしろ充実している。
部活だって、飛び抜けて強いわけじゃないんだけど、勝ったら負けたりで、まぁ普通、平凡かなって感じで。
そ、そう。平凡だ。僕はいわゆる平凡だった。
人付き合いはうまくいく。それまで。それ以上に行ったことがない。
試合も、勉強も、何もかも。
何かこう、没頭できる趣味があるわけでもない。友達みたいにファッションに気を使うことはあまりできないし、どっちかと言えば興味があまりなかった。
たま〜に大人の口から出る「大人としての自覚」。そんな言葉に耳を傾けても、やはりその言葉は耳から耳へと抜けていった。
そんな自覚、持てるわけもない。只今18歳と2ヶ月、まだまだ僕は、ガキのままだなといつまでも感じるしかできない。
青春……まあ、確かに青春はしてたよ。友達と一日中野を駆け回った———のは小学生の話だけど。
でも、高校になってからも、新しくできた友達とは楽しく遊んでいた。カラオケに行き、何かの行事につけては『打ち上げ』と称し、回転寿司でも食いに行った。
でも、本当にたまに、あの頃の……小学生の頃が、懐かしく思えてくることがある。
懐かしくというか、その……昔の思い出を浮かばせると、どこか切ないような気持ちになる。
なんで切ないんだろう。そんなどうでもいい自らへの問いに耳を貸した時、「もうそれは戻ってきはしないから」と囁かれた気がした。
……他でもない、ただの自分から。
よくよく考えると、僕には『核』がなかった。自分の『核』がなかった。
『芯』とも言える、僕だけの確固たるものは、いつの間にかふわふわした、抽象的なものに成り変わっていた。
でも、そりゃあそうだとも言える。勉強勉強勉強勉強。そう言ってきたのは大人たちだ。今になって「大学では自分の芯が大切に———」なんて、都合が良いにもほどがあるってものだ。
でもまあ、結局そういうわけで、今のところ僕には何もない。
いや、本当は何かあるんだろうけど、その膨大にして薄っぺらい『何か』に埋もれて、僕の『核』はもはや認識すらできない形而上的なものとしてそこにある。
だから、僕は自分を見つけられていないんだ。
本当にしたいこと。やりたい、やってみたいと、心から思えること。そんなものが、何一つ。
だから就職先を決めるのも難儀だった。いや、ただ単に給料だけで決めてしまったから、容易と言えば容易だったのかもしれないけれど、それでも。
確固たる『芯』がないもんだから、大学に行こうというのは、その選択肢すら消滅していた。
だから最初の話に戻る。結局、やりたいことも自分が何者で、どういう人間なのかも、何もかも薄味になってしまった。
気の合う友人。父や母との会話。それらは僕の趣味から来るものではあまりなく、日常の、何気ない会話の中での話だった。
だから今の今まで、あまり気付けなかったのかもしれない。こういう人間だって。
———たまに、『自分探しの旅に出ます!』とか言って、SNSに朝日と共に自撮りを上げている中年を見る。
今までそれについては何も思ってはこなかった。興味すら湧かなかった。が、今に限っては違った。
『自分探しの旅』。その1文に、妙に惹かれてしまった。
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