第37話 攻防戦

 俺を鎖で攻撃してきたのは、『ウキワ』ではなく『ウキワのコピー』。すなわち、複製体である。


 何故そう断定できたのかというと、紫色に染まっていた装飾が白色に塗り替えられているかつ全身半透明な状態であること。


 もう一つは、ギルド内のメンバーには攻撃が通らないようなシステムが存在している事にある。奴が本物のウキワだとしたら俺に攻撃するメリットが無い。


 アイツは頭がおかしい クレイジーなだけでそこまで馬鹿じゃないからな。


 それより、ここにウキワのコピーが現れたという事は、本物のウキワとヒナウェーブも偽物と対峙している可能性が大いに高い。


 とはいえ、あいつらは大丈夫だろう。なってったってだからな。


 今は目の前の敵に集中すべきだ。


「レベルは53か……」


 確か、本物であるウキワのレベルも53だったはずだ。当人のレベルがそのまま引き継がれるという事だろうか。まあレベルはプレイスキルと守護霊でカバー出来るし、見縊る必要は無い。


 俺は、本気で燃えていた。というのも、この戦いはウキワを叩き潰せる最大のチャンスでもあるからだ。偽物とはいえ、

 ここで負ける訳には行かない。将来煽られるのが目に見えているからな。


「正々堂々……勝負だ」


 無表情で近づいてくるウキワの口元が動く。声は何も聞こえなかった。その数秒後、携えた鎌にエフェクトが入る。


死神ノ刃 ラ・モール・エッジか」


 スキルを声で判断できないのは想像以上に厄介だ。口元の動きと同時にどういう動きをしてくるのかを見なければ、話にならないとみた。


「スピードブースト、無明剣舞むみょうけんぶ


 実家のような安心感のあるスピードブーストと先程手に入った新スキル無明剣舞むみょうけんぶをすかさず使用する。無明剣舞むみょうけんぶは連続攻撃の威力と速度を増加させるスキルとの事。狂刃乱舞きょうじんらんぶとの相性は抜群である。


「さあ来い!」


 俺は急かすと、またしても口元が動く。すると、奴の目の前に鏡が設置された。冥界鏡めいかいきょうである。もう一つの鏡は……


「――裏ッ!」


 俺の背後に生成されていた鏡からウキワが無表情で姿を現し、右手に携えた鎌を振るう。それをバックステップで回避した後、スキル狂刃乱舞を使い、連続で叩き込む。


「どうした、こんなもんか!」


 ひたすら受け身を取り続けるウキワに煽りを入れると、それに呼応するかのように口元が揺らぐ。すると、ウキワが視界から外れた。


「パターンは分かってんだよ!」


 背後に回られたのを察知し、刀を立て攻撃を防ぐ。もしルシラスがウキワに戦いを申し出ていなければ、結構まずかったかもしれない。


 俺のプレイスタイル的にも、情報は勝利への道を案内してくれる。それを活かせない限り、ウキワには勝てない。


 だが、俺の相手は所詮AI。ウキワの思考を再現することはできないはず。


 つまり……分は悪くない。パーセンテージ的には俺の方が上……だと思いたい。


「――ッ!」


 俺の刀が鎌の湾曲に絡めとられ、地面に叩きつけられる。まずい。引き抜いてから攻撃を防ぐまでの時間が足りない。ならば……


「二刀流返しだ!」


 もう一つの刀である【深淵の牙刃】を取り出し防ぐ。耐久力を加味したうえで、節約していたわけだが、こればかりはしょうがない。


「フラットと行こうか!」


 刀の二刀流はあまり慣れていない。だが、闘いの中で徐々に適応できているのを実感していた。


 その後も一進一退の攻防が続く。明らかにウキワがしないような動きも取り入れていることから、AIなのは分かる。しかし、ウキワとは別のベクトルで強い。


「くっ……」


 ウキワは後ろに下がった。それも鏡を利用して遠くへ。すると口元が揺らぐ。スキルの合図である。


「何だあのスキル……」


 手のひらから生成される黒い気弾。ヒナウェーブのフラッシュバーストに似ている。


 そして、チャージが完了したのか、その弾は俺に向けて放たれた。


「ウキワのやつ、スキルを隠していやがったな!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る