第39話 オッサン齢53歳にして抗議される。

 1ヶ月たった。


 ここまで順調そのものだ。


 ボスのレアドロップは7個と若干下ブレしているが、それでもこれだけでひと月で700万だ。


 高額になって心配したのが税金だったのだが、予め税引後の金額で支払われているらしく、ダンジョンでの報酬は心配しなくて良いらしい。


 俺からの提案で、100万だけは稼ぎとしてお互い分配して、残りの600万は千紗の協会への借金返済に充てることにした。


 ネット上の噂だが、借金を理由に協会から無理難題をふっかけらる事があるらしい。

 本当かどうか分からないが借金は無いに越した事はないのでそちらに回す。


 ただ、全額回さないのは、やっぱり少しくらいは贅沢したい。


 男らしく無いし、カッコ悪いのもちゃんと理解しているが、今更オッサンにカッコ良さを求めても仕方がない。


 通常ドロップ品だけでも悪く無い稼ぎなのだが、その辺のセコさはオッサンって事で許してほしい。


 既に2人とも33レベルまで到達しているが、稼ぎ優先でまだ下に下がって無い。


 ボスマミーに3回挑戦するのに、途中1回戻るわけだが33階だと距離的に無理をしないといけなくなる。


 とりあえず、10個のレアドロップが出るまではこの階で活動しようと話してある。


「お!レアドロップ出たぞ!」


「これで8個目ですね」


「あぁ、順調だな」

 帰りの3回目の挑戦でレアドロップが出た。


 ホクホクな気分で受付まで戻ると、笹かまが凄い顔してスマホを見つめている。


「どうした?親の仇をみつけたみたいな顔して」


「明日、剣崎さんに会いに恵庭の職員が来るっす」


「この赤平まで?裏道使っても3時間以上かかるのに大変だな」


「経費で落ちるから高速使うと思うっすよ、2時間もあれば着くっす」


「しかし、なんでわざわざここまでくるんだ?」


「勝手な想像で変な事言ったって言われるの嫌なんでなんも言えないっすけど、良い話って事は100パー無いっす」


「100パーなんだ」


「100パーっす」


「明日休もうっかな」


「くっそ面倒くさくなるから絶対来て欲しいっす!来なかったら鬼電するんで覚悟するっすよ」


「分かった分かった、いつも通り来るよ」


「あのう…」

 千紗が帰り道で沈んだ声で俺に呼びかけてきた。


「ん?どうした?」


「恵庭って私が最初に登録したダンジョンなんですよね」


「そうなんだ」


「もしかしたら、私が迷惑かけてしまったかもしれないかも」


「気にしなくて良いよ、何があってたとしてもそれ以上に俺は千紗のおかげで楽しい生活送れてるから。

 千紗から与えられたもの考えたら、迷惑とか何もないよ」


「…はい」


「俺たちはパーティじゃない、バディだと思ってるよ」


「はい!ありがとうございます!」


「こちらこそありがとうだよ」


 ー翌日ー

「おはよう、恵庭の人来てないみたいだね」


「そっすね、多分まだ来ないと思うっすよ」


「じゃあ、先にマミーのボス狩ってきて良いかな?」


「あ、了解っす」


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 いつも通りプレートからワープしてマミーを倒す。


 もう手慣れたものでものの10分もあれば倒せてしまう。

 移動や装備に変更などを全部合わせても30分かからない程度だ。


 残念ながらレアドロップはしなかったが仕方がない、もう少し人数いれば違うんだろうけど、そんな伝手は無いし結果的に報酬が減ってしまうなら意味がないし。


 そんな事を考えながら受け付けに戻ってくると、見たこの無い女の人が仁王立ちしていた。


「人が忙しい中来てみたら、悠長にダンジョン探索とか何様のつもり?」


 は?


「来たら居なかったので、ボス狩る時間遅くなると戦う回数減ってしまうので、すいませんね」

 俺も大人だ、大人も対応するよ。


「出るかも分からないレアドロップ狙いなんでしょうけど、浅ましい。

 底辺探索者は余裕が無さすぎるのよね」


 は?


「すいませんね、こっちも生活かかってるんで」


「そんな事どうでも良いわ、私も忙しいので本題入らせてもらうわ

 貴方なんかといちいち、くだらない話してる暇ないの」


 こいつ…


 後ろの方に居る笹かまを見ると両手を合わせて、ごめんなさいポーズをしている。


「で、どのようなご用件で」


「単刀直入に言うわ、そこに居る逢真千紗を返してもらうわ。

 貴方みたいな底辺探索者と一緒にダンジョン行くような人材じゃ無いの、パーティ申請も私の方で強制解除させてもらいましたので」


「おい!ちょっと待て、何言ってるんだ?」


「ひぃぃぃ」

 思わず殺気が漏れた。

 実際、今本気でこのババァ殺そうかと思ってる俺が居る。


「あー剣崎さん、こんなんでも殺したら捕まるっすよ。

 意味わからんと思うんで説明するっす。

 ぶっちゃけ使いもんにならねークソスキル持ちの探索者だと思って捨てたら、めっちゃ優秀だったんんで上から怒られて、今頃になって慌てて持って帰ろうとしてるっす」


「なんだ、ただのヒステリックバ…」

 千紗に後ろから口をおさえられた。


「それ言っちゃうと、多分話し合いにならないですよ」


「んんっ!千紗ありがとう、しかしなんで千紗のスキルとか分かったんだ?」


「そりゃパーソナルスキル持ちのデータは細かく研究用として協会に提出する義務がうちらにはあるっすからね。

 俺もそこは真面目に送ってるっすよ」


「俺も薄々感じていたが、やっぱり千紗のスキルってチートスキルなんだな」


「そうっすね、最初の登録時に見抜けなかった人間が無能扱いされるくらいにはヤバいスキルっすね」


「でも、今更パーティ解散しろとか、連れて帰るとか無理じゃ無いの?

 流石にそんな権利無いでしょ?」


「逢真千紗はパーソナルクラス所得時に協会の特別措置を受けているのを忘れたの?

 返済能力が認めら無いパーティ編成での探索は返済の意思無しと判断して登録した支部が指導に入れるのよ」


「え?今月600万も返したじゃねーか」


「たまたまでしょ、無能な男とパーティ組んでる時点で悪質な探索者とみなして、特別措置の取り消しと即時負担金の請求も出来るのよ」


「良い加減にしてください!

 無能、無能って!鉄也さんは無能じゃありません!

 それにまともにパーティの紹介もしてくれない、邪魔者の様に扱って、バカにした態度で囮くらいにはなれるでしょうからって盾の講習行かせたくせに!何も相談に乗ってくれなかった貴女にとやかく言われたくありません!」

 千紗が思いっきりキレた。


 最初会った時相当思い詰めてたもんな。


 2000万の借金背負わされて、返す目処が立たないとかどれだけ辛かったか。


「なんなのその反抗的な態度は!腐ったミカンと一緒に置いておくと綺麗なミカンも腐るっていうけど、本当にその通りね!

貴方達は私がどれだけの権限持ってるか理解出来てないみたいね、良いわ!逢真千紗の特別措置を取り消します!

これにより協会から支援して負担した分を個人負担に切り替えます。

1ヶ月以内に協会が負担した分を含めた2億円の全額支払わない場合強制執行を行います!

自分達がいかに愚かな行為をしてるか思いしればいいわ!」


 そう言い残すと、もの凄い音でドアを閉めて帰って行った。


「なんなんだあれ?」

 思わず笹かまを睨みつける。


「会長の姪らしいんすけど、コネだけで今の地位に着いたわがままオバさんっす」


「2億返せってあれ本気か?」


「本気っすね、なんとかして返さないと強制執行されるっすね」


「強制執行ってなんなんだ?」


「通称、奴隷落ちっす。

 割と犯罪スレスレの所までなんでもさせられるっす」


「おいおいおい!とんでも無いじゃねぇか!」


「ちょっとガチで作戦考えるっす」


「大丈夫か?」


「だいじょば無いっすけど、剣崎さんのレアドロ作戦をもう少し無茶すればワンチャンなんとか」


「ごめんなさい…私のせいで」

 千紗が泣き出した。


「千紗のせいじゃ無い、あのババァが全部悪い。

 絶対全額返して見返してやろう!」


 意地でも2億貯めてやる!

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