第36話 オッサン齢53歳にして怯む。

 その後2日ほどリビングガチャに勤しんだ。


 一日中していれば、1個はなんとかレアドロップするのだが、大当たりが出ない。

 最初の1個目も含めて、1番高いので15万だった。


 日当換算すれば普通に働くよりずっと高額だが、命の危険を考えるとちょっと他人にオススメ出来ない感じだ。


 うちはたまたま組み合わせが良かっただけで、普通はこんなに簡単に狩れないだろうし。


「結局、天網恢々ってどんなスキルだったんだ?」


「今の所、凄く優秀な索敵スキルですね。

 他の能力はあるかどうか分からないです」


「天網恢恢疎にして漏らさずって悪は滅びるみたいな意味だよね?

 なんか凄い攻撃スキルなんじゃなくて?」


「転じて今は、みたいな感じじゃなくて、そのままの意味みたいですね。

 天網恢恢は広くて大きいって意味ですし、疎にして漏らさずは、そのまま見逃さないって意味ですから、多分索敵だけじゃないかなって思ってます」


「なるほどねぇ、しかしどんどん戦闘民族みたいになって行くね」


「そのうち髪の毛金色になってスーパーな人になるかもですね」


「フュージョンはもう出来るしね」


「最近ご無沙汰ですけどね」

 下ネタをしっかり理解して、普通に返してくれる。

 オッサンとしてはありがたい。


 ピンと来なくて、全部説明するという地獄のような状況にならないで済むから気楽に話せる。


 そんなくだらない話をしながら、1階に戻る。


「あ、剣崎さん、明日対策アイテム来るっす」


「分かった、じゃあ明日な」


 帰りしなの笹かまの言葉に返事をして帰る。


 ー翌朝ー


「おはよう、バンシー用の装備って他のアンデッドにも通用するの?」


「無理っすね、バンシーって元々詰みキャラなんすよ、それが出たらどこのダンジョンでもそこで終わり、そのひとつ上の階までしか探索しないってモンスターだったんす。

 それをどうにか出来ないかってあの手この手でやっとバンシー専用に効果を絞ってなんとか出来上がったのが、このヘッドホンと雨ガッパっす」

 古臭い昔風の耳をすっぽり被せるタイプのヘッドホンと、コンビニなんかで売ってそうな安いビニール製の雨ガッパを取り出してきた。


「見た感じ信頼性0なんだけど」


「見た目は貧相っすけど、今の所これしか方法ないんで諦めて欲しいっす」


「うん、これしか無いって言うんだからしょうがないんだけど…」

 心配しかない。


「あ、それと、雨ガッパで発生する結界が自分の周り1mmくらいしか出来ないっす。

 んで、戦闘行為をすると結界壊れて雨ガッパもダメになるんで、絶対戦闘行為禁止っす」


「戦闘行為っていうと、攻撃、防御、魔法か?」


「回避もダメっす」


「何もしちゃダメって事だな」


「そうっすね、ヘッドホンは叫び声対策なんで叫んでなければ取っても良いんすけど、叫ぶタイミングが決まってないんで取らない方が良いっすね」


 ー28階ー


 少し歩くと1体目のバンシーが現れた。


「あーあーヘッドホン聞こえるっすか?バンシー出たんで雨ガッパ起動するっす」


「これ、外の音まったく聞こえないんで、すっごい不安なんですけど」


「みー聞こえてるかー?」


「うん、聞こえるー」

 魅夢にもちゃんとヘッドホンと雨ガッパを着せてる。


 サイズが大きすぎて、ほぼ包まってる状態だけど。


「じゃあ、行くっすよー」


 笹かまの掛け声でバンシーの方向に進んで行く。


 こちらに気づいたバンシーがもの凄い怯えた顔で叫んでいる。

 ………と、思う。


 何も聞こえないので、相手の行動見て想像するしかないんだけど。


 めちゃくちゃ怯えている感じな相手見てると、こっちが悪い事してる錯覚に囚われる。


 見た感じが昔の西洋人形が着るような服に肩口までのブロンドに綺麗な顔立ちで半透明ではあるが、美少女にしか見えないので余計罪悪感に襲われる。


 何か訴えかけるような、縋るような表情で近づいて来た。


 そして…僅かに狂ったような嗤い顔を見せたかと思ったら、顔が目の前で崩れ出す。


「う、うわぁぁぁ」


「剣崎さん避けちゃダメっす、回避扱いになるっす」


「それもダメなのか!」


「走るのも逃走になって戦闘行為扱いっす」


 おれ、お化け屋敷とか苦手なんだよな。

 恥ずかしくて言えないけど。


「み、みー!この子魅了出来ないのか?」


「ダメっす戦闘行為っす」


「あーくそ!これ精神的にめちゃくちゃキツいぞ!」


 ー1時間後ー

「ゴール見えたっすよー」


「や、やっとか…キツすぎるぞこれ」


「さ、29階行くっすよ」


 下に降りると分かりやすく暗くなった。


 魅夢が現れた時の時と同じくらいの暗い。


「暗くなったな」


「暗いっすね」


「ここ真っ直ぐ歩いたら、2体居ますよ」


「あーなんとなく居る奴予想ついたかもっす」


「なんでだ?」


「こんくらい暗くなった時に出てくる奴って、ほぼほぼ単体なんすよ、そんな中で絶対単体じゃない奴居るっす」


「何?」


「デュラハンっすね、必ず馬乗ってるので1体で出る事無いっす」


「あーあんな感じ」


「そう、あんな感じっす。

 斬撃、刺突抵抗、魔法全部無効、状態異常無効っすね、当然魅了も無理っすよ、っていうかアンデッド魅了出来るって初めて聞いたっす」


「なんか走って来てるみたいなんだけど」


「初手突進すね、死ぬ気でブロックよろしくっす」


「…嘘だろ…あれ止めろってか?」


「死ぬ気でよろしくっす、止めないと際限なく突進するっす」


 震える足に喝を入れて、俺は覚悟を決めた。

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