第22話 オッサン齢53歳にして罠を作る。
「笹かまおはよう」
「おはようっす、今日は10階までいくんすか?」
「あ、いや罠を作ろうと思ってね、スライム液を回収しに行くよ」
笹かまに昨日の動画を見せながら、俺の案を説明した。
「これ、水属性は何の魔法使うつもりっすか?」
「千紗のウォータードロップのつもりだけど」
「射程距離的に難しくないっすか?」
「え!そうなの?千紗、ウォータードロップってどのくらい飛ばせる?」
「えっと、身体から20cm離れたくらいまでじゃないと…ごめんなさい、そこまで頭回ってませんでした」
千紗もまだ魔法を習得してやっと1週間くらいだ、どうしても抜けるところはある。
「まいったなぁ、良い案だと思ったのになぁ」
肩透かしを喰らってしまった。
うーん、大家さんに新聞紙の話ししちゃったなぁ。
「ふっふっふ、良いものあるっすよ」
「え!あんの?」
「じゃーん!ダンジョントイシリーズのバンブー水鉄砲!
これにウォータードロップの水入れれば、魔力も拡散しないで水まけるっす!」
そう言って端末の画像を見せてくれた。
その見た目は、昔懐かしい竹製の水鉄砲だ。
「何でこんなもに作ったんだ?」
「お偉いさんが安いスクロールであまり気味のウォータードロップを攻撃魔法代わりに使用して在庫解消!
っていう事で作ったけど、威力弱すぎて使い物にならなくて、結局無駄に新しい在庫作っただけになったんすけど、それだとやばいってんで無理矢理売ろうとして、ダンジョントイていう企画を無理矢理立ち上げたっす」
それで値段は?8900円!はぁ?高すぎだろ!
「なぁ、値段がぼったくり価格なんだが?こんなんで売れるの?」
「もちろん売れないっすよ!倉庫に在庫いっぱい余ってました!明日まで待ってくれれば試供品って事で取ってくるっすよ」
「試供品って事はタダ?」
「タダっす、さっきの剣崎さんの案を、俺の在庫処分案て事にして提出してその実験を剣崎さんに依頼した事にするっす」
「ん?それって上手くいったらお前の手柄って事になるのか?」
「そっすね」
得意のヘラヘラ笑いであっさり言ってくる。
「ちゃっかりしてるなぁ」
割と図々しくて思わず笑ってしまった。
「全部売り切れたって大した手柄じゃないっすよ」
「世話になってるし、余計な出費したくないし、それで手配してもらえる?」
「オーケーっす、適当に書類作成して明日持ってくるっす」
水魔法の方はこれで何とかなった。
笹かまってなんだかんだで頼りになるよな。
俺たちはそのままスライム液収集に向かった。
スライムを倒すとスライム液をドロップするのだが、液体のまま出てくるわけじゃない。
薄い膜に包まれており、見た目は小さいスライムみたいになってる。
それをつまんで少し力を入れれば幕が破れ中から液が出てくる。
最初はペットボトルに入れようかと思っていたが、口が狭いので難しいだろうという話になって、家で余ってたヤカンを持ってきた。
ほとんどインスタントラーメン食べる時くらいしかお湯を使わないので、電気ケトルを買ってからすっかり使わなくなった。
スライム液を一旦ヤカンに入れて、溜まったらペットボトルに移し替える。
あとは作業だ。
出来るだけ余計な事は考えない、こういうのは一回俺何やってるんだろうって思うとやってられなくなる。
ひたすら無の気持ちで2リットルのペットボトル2本分溜まったところで、一旦帰る。
大家さんに話をしてあったので、新聞紙を取りに行く。
それを1枚1枚くしゃくしゃにして、大きめのバケツに入れる。
ここで、また問題が起きる。
「これってこのまま濡らしたら、くっついて使う時ひろがならないんじゃないです?」
千紗の素朴な疑問に
「確かにぃ!」
俺も言われて気づいた。
困った。
とりあえず、困った時はネットで調べる。
「乾いても効果出るみたいですよ?」
「ちょっと試してみようか?」
新聞紙にスライム液を塗ってドライヤーで乾かす。
「ちょっとここに、ウォータードロップお願い」
乾かした新聞紙を手に持ち千紗に魔法をお願いする。
「はい!ウォータードロップ!」
「おお!ちゃんとベタベタに…あれ、思ったより粘着強い…お!ん!ちょ、ちょっと取れなくなっちゃった!」
どのくらいかと思って手で触ったら、想像以上に粘着力強かった。
新聞紙が絡まって張り付いて手から取れない。
「あーど、ど、ど、どうしましょう?」
「ちょっと、火魔法でカラカラに乾燥するんだよね、ティンダーかけてくれない?」
「あ、そうですね!動画だと、カサカサな日焼けした時のむけてくる皮みたいになってました!
いきますよ、ティンダー!」
「ドワァァァァ!アチッ!アチッ!水!水!」
いきなりとんでもなく燃え上がった!
ガソリンほどでは無いが、灯油なんかより一気に発火した!しかも消えない!
「キャァァァァ!台所!台所に行ってください!水!水!」
「うおおおお!消えない!消えない消え…たぁ、痛ったぁ」
僅かの時間だったのに、かなり高温だったようで、かなり手が焼け爛れた。
「キャァァァァ!リトルヒール!リトルヒール!リトルヒール!リトルヒール!リトルヒール!リトルヒール!」
「落ち着いて!もう大丈夫だから!大丈夫!ありがとう助かったよ」
肩で息してる千紗をハグする。
「うぅぅぅ、びっくりしたぁ」
ほぼ泣いてるな。
ギュって抱きしめて、頭をポンポンして慰める。
少し落ち着いてから、もう一度ネットでスライム液の事を検索する。
「うーん、どこにも強烈に燃えるなんて書いてないなぁ?」
「ですねえ、スライム液で火傷したって記事がないんですよねぇ?」
「ちょっと実験してみようか、フライパン持ってきて」
「はーい」
フライパンに新聞紙を入れてスライム液をかける。
そして、そこにティンダーをかける。
「燃えないな」
「燃えませんね」
スライム液が反応してパリパリな状態になる。
「もう一回ティンダーしてみて」
「はい」
「燃えたね」
「燃えましたね」
燃えたけど、それは普通に新聞紙に火が付いた程度だった。
フライパンに鍋の蓋を被せて消化する。
「ちょっとライターで燃やしてみるね」
「はい」
ティンダーの時と同じくらいの燃え方だ。
「ティンダーの本来の燃えるって効果がスライム液に吸われて、スライム液が固まるって効果に変わったって感じかなぁ」
「あぁ、確かにそんな感じですね」
もう一度フライパンに新聞紙を敷きスライム液をかけてウォータードロップをしてもらう。
そこで、ティンダーをかけて貰った。
『ボウッ』
すごい勢いで燃え上がる。
「アチ!ここにウォータードロップしてみて」
「はい!」
今度は鎮火した。
同じ手順でスライム液にウォータードロップかけたやつをライターで燃やそうとしてみる。
…全く燃えない
「スライム液に水属性をかけると、火属性の魔法にだけ反応する油見たいのができる。
って結論かなぁ」
「そうですね」
ジャイアントラット対策に使えそうだなぁ。
慌ててあれもこれもじゃなく、まずは新聞紙トラップ試してみたから考えようかな。
その結果次第で次の段階に行くことにしよう。
よし!
「千紗、お風呂入ろっか?」
「はい!」
俺たちの夜は更けていく。
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