カレーライス
鴉田 独
第1話
部屋の扉が開いた。主が帰って来たのだ。制服を脱ぎいつものハンガーへとかける。ラフな格好になった彼は2台のパソコンの電源を入れた。電源がオンになって数秒経つと彼はネットの海へと吸い込まれる。私はその後ろ姿を眺めながらじっと底砂にうつ伏せになっているのだ。水槽の中には私の他に同じ種族の仲間が二匹いて、さらに姿に派手なブルーとレッドのラインの入った人間の呼ぶ所のカージナルテトラが一匹、水中を漂っている。私の名前はオトシンクルスという。つまりこの四匹が私の住んでいる世界の住人達だ。
主の年齢は45歳。性別は男で、その歳になっても結婚もせずにフリーターをしている。彼の唯一の趣味は自転車に乗ることで、晴れた日には私には目もくれず、サイクルジャージを身に纏い、あちらこちらとブラブラとしている。自転車に関してだけではなく彼には友という存在がいない。孤独が好きな男と言ってしまえばそれまでだが、社交性に欠け、性格も明るいほうではないのがその原因の一つかと思う。
主がネットの海を泳ぎ終えるのはベットに横になる少し前である。パソコンの電源を落とすとおもむろに私達の住処へと近づき様子を窺う。生きているかどうかを心配してくれているようで、その点では飼われているほうからすれば愛情を感じる瞬間である。固形の食事が切れているようだと、少しだけ手で割ってから静かに水中へと放ってくれる。今日もヒラヒラと落ちてきた。その食事に口をつけるのは部屋の灯りが消え、主が深く寝入った後ということになる・・・
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