オレ達は全国に行く
Shy-da(シャイダ)
第1話
ここ数日続く梅雨空の中、オレ達、私立
北登高校も決して弱小校という訳ではないが、やはり前述の二校の壁を破る事ができず、高校年代の主要な大会で全国の舞台を踏んだ経験があまりにも少なかった。
しかし今年度のオレ達は違う。かつてJリーグの複数のクラブチームでコーチを務めた
坂田監督の緻密に練られて的確な采配、走力を重視した練習改革、選手達の「勝ちに拘る」姿勢も手伝って、北登高校はインターハイの県予選準決勝まで駒を進めていたのだ。勝利に飢えたオレ達が目指す全国の舞台まで、後2つ……
「
「!?」
北登高校二年生でエースナンバーの10番を背負うオレ――山口
足元の技術に自信を持つオレはフェイントをかけて躱そうと試みるが、15分前から強くなりだした雨の影響でボールが滑り易くなり、コントロールが難しくなっていた。仕方無いのでキープは諦め、味方の指示通り、左サイドでフリーになっている北登高校の左
ピッ!
ここで主審のホイッスル。当たり前だ。アフターチャージだ。幸い、相手のスパイクがオレの足を抉るまではいかず、大事には至らなかった。
しかし当然ながら相手ボランチの10番にはイエローカードが掲示される。……ちっ、流石に一発レッドは出ないか。とはいえジャッジに不満を言っても仕方無い。それよりも今はオレ達北登高校のチャンスだ。水都一高陣内、やや深い位置で獲得した
立ち上がったオレはユニフォームに付いた泥を払い、ポイントにボールをセットする。このエメラルドグリーンのユニフォームを着ている以上、中途半端なプレーは許されない。勝ちに拘る姿勢を見せなければ、北登高校イレブンを名乗る資格は無い。勝利への執着心を見せる事で、自然と勝者のメンタリティーは身に付くものだ。後はそれを実戦で発揮してやればいい。
ここで後半のアディショナルタイムが表示された。試合時間、残りは――あと5分!
北登高校対水都一高の現在のスコアは、1-2で水都一高の1点リード。オレ達に残された時間は5分。……大丈夫、追い付く時間は充分にある。この試合に延長戦は無く、フルタイムを迎えて同点なら即
「……山口、監督が指示出してる」
「……ああ。これ……いけるか?」
「……いくしかねえだろ。頼んだぞ、エース」
ポイントの前に立つオレの下にレフティ(左利き)の鈴村が寄って来て、北登高校ベンチをチラ、と見た。オレにも確認しろ、という合図だ。確かに坂田監督が指示を――オレに蹴れと指示を出していた。しかもこの指示は……
結局、鈴村はこのFKをオレに託すと、ボールのポイントから離れた。水都一高ゴール前、ペナルティエリア内には北登高校の屈強な
対する水都一高は確実にリードを守り切るため、全員が水都一高エンドに戻っていた。カウンターを狙ってすらいない。完全に守り勝つ算段でいるのだろう。……オレ達も舐められたもんだな。
ピッ!
ここで水都一高は最後の選手交代を行なうようだ。どうやら
イヤな間が空いてしまったが集中してボールをセットし直す。相手GKがポジションに着いた所で――
ピッ!
主審が試合再開のホイッスルを鳴らした。
オレは大きく息を吐き、軽めの助走から力強く右足を振り抜いた。
坂田監督の指示は――このFKは無回転シュートで直接ゴールを狙え、というものだった。普段の練習でオレも無回転シュートは蹴っているし、実戦でゴールを決めた事だって何度もある。今回もそれに倣って決め切るだけだ。不安や緊張は無い。そんなもんがあったらエースナンバー背負ってトップ下なんかやれていない。
バッ!
バァン!
渾身のシュートは水都一高ディフェンスが作った壁の隙間を縫ってゴールを強襲し――クロスバーに阻まれた。だが、まだだ! セカンドボールを拾って二次攻撃、三次攻撃に繋げる!
先にボールに触れたのは……北登高校の左
畑中がボールを収めたのは水都一高ゴール左。すぐさまオレがサポートに入る。相手ディフェンスも即座に対応するが、中央のCB2人は井手と柳元のマークを疎かにできないので、無力化できている!
再び畑中がオレにボールを預けて来た。オレのマークに付くのは先ほどイエローカードを貰ったボランチの10番だ。当然だが、ファウルを犯してもう一枚イエローカードを貰うとレッドカードで退場なので、オレに対して強くは当たりに来られない。下手に飛び込んでくればスリッピーなピッチに足を取られ、相手にとって予期せぬコンタクトになってしまうだろう。そこに付け込んでオレ達がまず1点もぎ取ってやる……!
畑中がオレにパスした後、左SHの鈴村がサイドから中央へ斜めに走る――ダイアゴナルランで水都一高ディフェンスを撹乱する! 同時に畑中が左サイド深くにフリーで侵入! ボールホルダーのオレは冷静に周囲を見て、パスコースの最適解を探し出し――
相手がオフサイドトラップを仕掛けてディフェンスラインを上げる中、ギリギリのタイミングでラインの裏に抜け出した畑中へとスルーパスを送った!
水都一高ディフェンスがオフサイドをアピールする中、畑中は得意の左足ダイレクトでクロスを上げる……!
ボールは相手GKが出られず、相手ディフェンスも足を出し難い、絶妙なコースへと飛んでいた。GKが前に出ればゴールががら空きになるし、足元が不安定なので相手ディフェンスが不用意に足を出せば
視界も煙る雨中の激闘となったインターハイ茨城県予選準決勝・北登高校対水都一高の一戦は――
了
オレ達は全国に行く Shy-da(シャイダ) @Shy-da
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます