未確認兵器 その3
ここはエアレザ西門から数百メートル離れた地点。
マティウスが特殊なインクで地面に巨大な魔法陣を描いている。
「……あぁ、そこの者! スペルが違うぞ! 書き直すのだ!」
魔法が使える警官達や討伐屋に手伝わせながら、魔法陣の完成を急ぐ。
「マティウスさん!」
遠くからレイが駆けてきた。
「俺らが大型兵器をこの魔法陣まで誘き寄せます。それまでに魔法陣を完成させてください」
「うむ。分かっておる」
マティウスは手を止めずに応える。
「私を誰だと思っておるのだ。必ず奴を足止めしてみせよう」
子供のように小柄な彼の背が、亡き父と重なる。
レイは偉大な魔法使いマティウスに一礼してから無線機を手に取った。
「……ネクロ、聞こえるか? ネクロ?」
ノイズの後、暗い声が聞こえてくる。
『はい、こちらネクロです』
「状況は? 怪我はないか?」
『先程ルーゼに叩かれました』
「つまり怪我はないって訳だ」
『先程から小型兵器の掃討を行ってるんですが……奴ら、俺たちの生体反応をキャッチしている様子もなく、ただ大型兵器の周りを飛んでいるだけです。その上、銃弾を1発撃ち込んだだけで墜落するほど体が脆い』
ひと呼吸置いて、ネクロは更に続ける。
『奇妙な敵です。まるで街の制圧とは別に、違う目的を持っているような……』
「……大型兵器について少し考えさせてくれ。その間、これまで通り小型兵器の掃討を頼む」
『了解』
無線機の通信を切り、レイはマティウスを見下ろす。
「あの、マティウスさん」
恐る恐るといった感じでマティウスに声をかける。
「何だ」
マティウスは面倒そうに返した。
「世界大戦の大型兵器は、主に街の破壊を目的としていましたよね」
「そうであるな。ロウリーが持っていた歴史の教科書にもそう書いてあるはずだ」
つまり、これは歴史の初歩の話なのだ。
「それ以外の目的をもった大型兵器はいなかったんでしょうか? 例えば、陽動作戦とか」
「陽動だと?」
マティウスはスッと立ち上がりレイに近付く。
「えぇ。俺たちが今戦っているのは、世界大戦時代に作戦の実行を容易にする為に利用された大型兵器なのではないでしょうか」
「その根拠は? 何故貴様はそう考えた」
マティウスの声色が冷たいものへと変化する。
表情が見えない為、彼の感情は声で判断するしかない。
これは……焦り?
何故マティウスは焦っているのか?
「先程、部下と連絡を取りました。部下は『街の制圧とは別に違う目的を持っているのではないか』と考えていました」
「……勘違いという事はないか」
「部下が抱いた違和感を
レイはマティウスの様子を窺う。
「敵の正体はかつて陽動作戦で使われた兵器」という仮説を立てただけなのに、仮面男は明らかに動揺していた。
マティウスは今、何を考えているのだろうか。
何を危惧しているのだろうか。
「すまない、少し離れる」
マティウスは踵を返した。
「えっ、マティウスさん!? あなたに離れられたら、作戦はどうなるんです!」
レイはマティウスに手を伸ばす。
マティウスがいなくなった時点で作戦が破綻するのだ。
唯一、大型魔法を使えるルーゼを呼び戻すにはもう手遅れだ。
レイの静止を聞かず「すぐ戻る!」とだけ言い残したマティウスは、街に向かって走る。
途中で戦闘服に着替えたロウリーとすれ違い怪訝そうな表情を浮かべられても尚、マティウスは走り続ける。
目的地は……ランドールの家だ。
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