未確認兵器 その2

 1頭の馬が流れ星の如く平原を駆ける。


 手綱を握っているのはネクロ・ディーレ。


 その背後でルーゼ・ナイトが彼の体に手を回し、振り落とされまいと懸命にしがみついていた。


 その姿は騎士と、騎士に守られる姫のよう。


 彼らは上司のレイに命じられ、大型兵器に仕える小型兵器の掃討に向かっていた。


 やがて2人は兵器の足元まで辿り着き、写真では見えなかった下部分を目にする。


 クモのように6本の足で体重を支えているようだ。


 無機質な足の先が円柱状になっており、木々をプレス機のように押し潰す。


 パイプが剥き出しになっており、ところどころに生えている煙突から白い煙を噴き上げていた。


 適当な地点で降りた2人は、横並びになりそれぞれ戦闘の準備を行う。


 ネクロは背負っていたライフルを構えた。


 ルーゼは魔法を安定させる為の杖を手に持つ。


「『ヴァント』」


 ルーゼは2人を囲むような半球体のバリアを展開する。


「今回も頼むな、ルーゼ」


「もちろんだよ」



 ルーゼは学生時代、「学校始まって以来の天才」だと褒め称えられた。


 彼女は特大魔法だけでなく、熟練した魔法の使い手でも使いこなす事が難しい複数詠唱という技術を持っている。


 その点については、偉大な魔法の使い手であるマティウスにも認められているのだ。


 一方、ネクロはいわゆる劣等生。


 「ギリギリだが魔法の適正がある」と判断されるだけの魔力を持っており、常に魔法の技術に関しては、どれほど努力しても誰からも認められなかった。


 だからこそ、ネクロは銃という別の技術を磨いたのだ。


 正反対だからこそなのか。2人はパートナーとして、戦友として共に歩んでいるのだ。



 大型兵器の周りを浮遊する小型兵器は、セミを機械にしたような姿をしていた。


 ネクロは奴の胴に狙いを定め引き金を引く。


 快音と共に弾丸が回転しながら発射され、空に直線を描き奴に命中した。


 小型兵器はふらふらと降下し、地面に激突しバラバラに砕け散る。


 拍子抜けし、2人は互いの顔を見た。


「ルーゼ。あの小型兵器思っていたより脆いぞ」


「そう……みたいだね」


「お前も魔法撃ってみろよ」


 ルーゼはバリアを張りながら杖を振るう。


 杖の先端に取り付けられた宝玉が淡い光を纏った。


「分かった。『フォイヤー・ボール火球』」


 メラメラと燃え上がる火の玉が小型兵器を襲う。


 彼女の攻撃も命中し、小型兵器が空中で塵となった。


「……欠陥品かな」


 通常、大型兵器は街を踏みつぶす為に頑丈に造られるので、奴に従う小型兵器もそれなりの強度があるはずなのだが……


 この兵器の開発者は、どのような目的でこれを造ったのだろう。


 次々と大型兵器の煙突から虫のような小型兵器が這い出す。


「……俺らには全く興味を示していないようだな。生命反応を捉えられないのか?」


「でも、はできないよ」


だけに?」


「もしかしたら、他の人を襲うかもしれない」


「おいおいか?」


だけにね」


「そんな風にカウンターを喰らうとは思ってなかったわ……」

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