よりみち! 〜紅魔の里のぼっち娘2〜
「もう、次は有りませんからね。」
「いや、だから俺が教えようとしたわけじゃ……すいませんでした!」
幼女に変なことを教えるなんて、本当にこの人はおかしい。…いやまあこの里のみんな感性はズレてると思うんだけど。
「もう他に変なこと教えてたりしませんよね。」
一応の確認だ。返答によっては1人のゴミが散らばることになる。
「う~ん。少なくとも俺から教えたことはないな。」
「こめっこちゃん本当?」
私は隣にいる幼女に声をかける。
当の本人は私のあげたお菓子を口いっぱいに頬張っている。喉に詰まらせないか心配だ。フェイトフォーちゃんもそうだが、最近の幼女は皆大食いなのだろうか?
「ぶっころりーご飯くれる。いい人。」
「ほら見ろ。おい、何だその目は?ゆんゆんよ。なぜそんなジトっとした目で見てくる?」
「こんな小さな子に貢ぐなんて落ちるところまで落ちましたね。」
「眼の前で幼女がお腹をすかせていれば、ご飯を食べさせてあげたくなる。このくらいの甲斐性は俺にだってある。というか、ゆんゆんから見て俺のイメージってどうなってるの?俺って幼女を見捨てそうな感じしてる?」
「里の汚点のニート。」
「そこまで言わなくても良くない?ニートだって人並みに傷つくんだよ。里を出る前のピュアなゆんゆんは何処に……」
「私は前からこんな感じですよ。それより、そろそろ私は実家に帰るので。」
このままここで道草を食っていると、いつまでたっても里長になれない。めぐみんと別れて、私はこの里を支えると決めたのだ。いつもはめぐみんやダストさんに振り回されてばかりの私だけど、この里をひっぱていくと決めたのだから。まあ、本命はそっちだけど一応…少しだけ…ちょっとだけは……友だちが欲しいなあ。なんて思ってたりもする。
「おお。そうか。里長も寂しがってたし、引き止めて悪かったな。……………おい、何だその驚いた表情は?文句があるなら言えよ。」
「いえ、ぶっころりーさんって謝れるんだなって。」
「よし、そこに正座しろ。折檻してやる!」
その言葉に警戒し、私は3歩ほど後ずさる。私のその態度に多少溜飲が下がったのかぶっころりーさんは肩をすくめて口を開く。
「本当にあの頃のゆんゆんはどこに行ってしまったやら。」
皮肉交じりの一言を私は別れの言葉と捉え踵を返す。久しぶりの里の空気を胸いっぱいに吸い込み、緊張をほぐそうと、肺に空気を取り込む。
しかし、その時にはそこそこ離れていたニートが余計なことを口にした。
「……そんなんだからと友達できないんだぞ……。」
ぼそっと聞こえるか聞こえないかで言った一言だったが、私の耳は余計なことに耳聡くその言葉を聞き取ってしまう。
……………別に気にしてはないが、聞こえないふりをしよう。別に気にしてはないが……。
そう思い、僅かながら足を早める。しかし、そんな私の自己防衛も純粋な力の前では無力だった。
「ゆんゆんはぼっち?友達いない?」
いつもどおりの声量で言ったのだろう。それなのに、私の耳にはそれはひどく大きな声で言われたかのように鮮明に届いた。
まだ、まだだ。まだ耐えられる。日頃からめぐみんやダストさんにバニルさんなど、様々な人(一人の大悪魔も含む)にいじられてきたことで耐性ができたんだ。
……それに、バニルさんは友達だし。カズマさんやめぐみんたちとだって友達だし。イリスちゃんとも仲良しだし、ちゃんと友達いるもん。
そう、私はぼっちじゃない。
そんな風に自分に言い聞かせていると、余計なことをすることに定評があるニートがこれ見よがしに声を荒げた。
「その通りだこめっこ。ゆんゆんはぼっちで友達がいない。ただ言ってやるな。本人は気にしているみたいだからなあ!」
「うん。ゆんゆん姉ちゃんはぼっちだけど、気にしてるから言っちゃダメ!!」
「うむ。」
こめっこちゃんの返事を聞いて満足気にぶっころりーは頷いてみせる。
私は逃げるようにその場から走り去った。
別に気にしてなんてないけど………。
早く行かないとだから、急いでるだけ。そう、本当にそれだけなんだ。
「少し、からかいすぎたかもなあ。」
俺は立ち去る蒼き稲妻を背負う者の背中を見て、誰に言うわけでもなく呟く。横にいるこめっこは先程もらったお菓子を無我夢中で食べ続けている。
こめっこの食費と称して親から金をもらっている立場からすれば、こめっこの食欲旺盛さも、ある意味俺のためとなっている。めぐみんの彼氏が言うWIN WINの関係というやつだ。
ゆんゆんの背中が見えなくなったのを確認して通信魔法を発動させる。
「あ~あ~。こちら魔王軍遊撃部隊隊長、コードネームB。ぼっち娘がそちらに向かった。計画は万事順調である。応答をどうぞ。」
そこからしばらくやり取りを続け、通信を切る。それから遠い目をしながら呟く。
「ふっ。この地に渦巻く影の陰謀が始まる。闇の色は漆黒より暗い。舞台は整った。一雫の希望は今、深淵の奥地へと永久に眠る………」
しっかりポーズを決めながら呟いた一言に、俺の分のお菓子まで平らげたこめっこが目を輝かせて言う。
「かっこいい!!」
「ふっ、まあな。」
「かっこいいぶっころりー。ご飯頂戴?」
「ああいいとも、今日も俺の奢りだ!」
「わーい!」
俺の金(親父から渡された食費)の入った財布を手に、この里に一軒しかない定食屋に向かう。俺は決してロリコンではないが、小さい子に頼まれたことを断るほどの鬼畜ではない。そんなことができるのは、安楽少女を殺せるような真の鬼畜ぐらいだろう。
「ハクション!」
「大丈夫ですかカズマ?」
「いやあ、誰かが俺の噂でもしてんのかね。まあ、俺は救世の英雄だし、どこぞの美少女の噂の渦中ににいても、不思議ではないなあ。」
「全く、どこからそんな自身が湧くんだか。どうせ鬼畜だのクズだの言われてるだけですよ。」
「ねえ、ひどくない?流石に酷いよね?俺一応魔王倒したよね?」
「ほら、どうでもいいこと言ってないで行きますよ。デートはまだ始まったばかりなんですから。」
「どうでも良くないだろ。ってちょっと待てよ。引っ張るな。くっレベル差で押し切られる。」
「ふっ。普段からカズマも爆裂魔法を打てば強くなれますよ。」
「えっ、なにその怪しい宗教勧誘みたいなの?」
「まあまあ、やればわかりますから。みんなやってますよ。」
「詐欺に路線変更した。」
「カズマって合いの手いれるの得意ですよね。」
「お前らが問題ばかり起こすから何だが……」
「ほら!ぶつくさ言ってないで行きますよ!」
「はあ、もういいよ。んで、めぐみん?どこに行くんだ?」
「それはついてからのお楽しみです。」
「さいですか。」
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