第10話 この初めてのデートに祝福を!2 めぐみん視点

先に言っておくと今回は題名にもある通りめぐみん視点です。


お昼前。いつもの日課をすまえた私達は、王都の冒険者ギルドに来ていた。

私達はそのギルドの中を見て一言。

「……すごい混んでますね。」

「…だな。」

おかしい。前にアイリスたちと来たときは、魔王軍の進行が最全盛期だったのにもかかわらず、あまり混んでいるという印象は受けなかったのだが……。

「で、俺達はギルドに何しに来たんだ?お前が行くところがあると聞いて、ついてきたわけだけれども。」

「全く、あなたという人は…。昨日の話聞いてなかったんですか?冒険者カードを作りに行くんですよ。どうせ今後クエストに行くときには必要になりますし。」

「えっ。嫌だよ。もうクエストなんかいかないよ。一生遊んで暮らせるだけのお金と、地位を手に入れたのになんで命がけで働かないといけないの?お前ら自殺願望でもあんの?ダクネスのあのどうしようもない趣味の毒牙にお前までかかったの?」

「この男…勇者としての自覚はないんですか?それにどちらにしろ、身分証明のためにも必要じゃないですか………。なんですかそれ?」

ジャラジャラとこれみよがしに何かを見せつけてくるカズマ。

…なんだろう。こんな物を持っているところは今まで見たことがない。ぱっとみダクネスの持っているような、貴族だと証明する紋章のように見えるが…

「フッフッフッ。聞いて驚け。これはなんと、俺が勇者カズマさんであることを証明するものだ。これ以上に確実な身分証明なんてないだろ。…まあ、新しいスキルも覚えたいし、素直に冒険者カードの再発行でもしに行くか。」

「始めからその気なら、とっとと行けばよかったじゃないですか。ほら、早く行きますよ。」

そういって彼の手を取って、受付に引っ張る。

「お、おい。ちょっと待てよ。」

私だってこんなところにあまり長居はしたくない。彼とのデートを心おぎなく楽しむためにも、こんな野暮用はさっさと終わらせたいのだ。

早足で、彼の手を引きながら突き進む。しかし、焦りすぎたのか次の瞬間……

「…あっ。」

人混みに揉まれ、バランスを崩す。

まずい。こんな人混みの中倒れでもしたら……

その瞬間、ぐいっと後ろ手を引かれ、そのまま腰に手が回される。

「…っと。危ないな。こんなに人が多いんだから、あんまり焦ると今みたいになるから気をつけろよな。」

「す、すいません。あ、その…ありがとうございます。」

いきなり後ろから抱きしめられ、思わず顔が熱くなってしまう。きっと私の瞳も同じように真っ赤になっているのだろう。紅魔族は気持ちが高まると、その瞳が紅く光る。…少し焦りすぎた。ピンチだったからなのか、それとも彼に抱きしめられたことが嬉しかったからなのかわからないが、心臓がずっとドキドキしている。本当にこの人は、肝心なところで閉まらないくせに……いつもはもっと奥手でヘタレなくせに……。どうしてこんなときに限ってこんなにも、こんなにも格好いいのだろうか。いつもなんだかんだ文句を言いながらも、やっぱりみんなを助けてくれる。本当は優しいのに素直じゃない。そんな彼の一つ一つの行動にすら、胸が高鳴る。そんな彼の表情の一喜一憂にさえ、心がときめく。ああ、やっぱり私は彼のことがどうしようもなく好きなようだ……

「どうした?顔真っ赤だぞ。熱でもあんのか。」

「そ、そんな事ありませんよ。ほ、ほら早くいきましょう。」

「そうか…それならいいんだが…。」

こういう時、彼は鈍感で助かる。たまにその鈍感さに、腹が立つこともあるが、今回は助けられた。そしてようやく、受付まで来た。

「………………。」

「お、おい。何だよ。なんでずっとこっち無言で見つめてくんの?言いたいことあるなら、さっさと言えよ。」

「……………。いえ、なぜわざわざ混んでいる方の列に並んでいるのかと思いまして…。」

私は、この列の一番前の方で、対応している。女性に一瞬だけ目をやると。再び彼の顔に視線を戻し、睨む。

「……なんですか。この列のお姉さんが美人で胸が大きいからですか。そうなんですか。ほんっとうに、あなたという人は……隣にこんな美少女を連れてデートしておきながら。どれだけ神経が太いんですか。」

はあ、さっきこの人に少しドキドキしたことを、今更後悔しそうですよ。

思わずため息を吐く。

「な、何だよ。別にそんな理由じゃないからな。」

「だったらなぜこの列に並んで……。」

「よし。隣の列が空いたな。そっちに並ぼうか。」

露骨に話をそらすカズマ。

「はあ、もうなんでもいいですよ。」

そう言って隣りの列で受付の人と向き合う。

「すいません。この人が冒険者カードを紛失してしまいましたので、再発行をお願いできますか?」

「あいよ。名前と職業は?」

「えっとめぐみん?俺の名前を言えばいいんだよな?職業って、冒険者としての職業のことで合ってるか?」

彼は少し世間知らずなことがある。まあ、異世界人だというのだから、別段不思議ではないか。……異世界か……。機会があったら行ってみたいものですね。それよりも今は、この世間知らずな彼にしっかりと教えてあげないと…

「そうですよ。早く言ってください。」

「おう。理解った。おっちゃん。確か名前と職業だったな。名前はサトウカズマ。職業は冒険者だ。」

「サトウカズマですね。変わった名前ですね。どこかで聞いたような……、職業は冒険者ですか……探してくるんでちょっと待っててください。」

そう言って背を向けて後ろの事務所のようなところに引っ込んでいく。その時ボソッとなんだよ、最弱職かよ。と聞こえた。

「な、なにおう!」

カズマのことを悪く言うなんて許せない。私が思わず激昂し、今にもカウンターを飛び越えそうになっているとカズマが、

「待てよ。落ち着け。今ここで騒ぎを起こすメリットなんてないだろ。一旦落ち着け。」

「カズマがそう言うなら………ですが良いんですか?馬鹿にされっぱなしで。紅魔族としては売られた喧嘩は買うのが決まりなのですが…」

全く持って納得いかない。紅魔族としてもだが、私の好きな人を馬鹿にされると、普段、私が馬鹿にされること以上に腹が立つ。彼は魔王すら倒し、この国を救った人なんだ。お礼を言われるなら分かるが、馬鹿にされる筋合いなどまったくないのだ。そう思い、彼の顔を見ると、馬鹿にされたというのにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべていた。

「まあ、見とけって。これから面白い物が見られるぞ。」

一体なにを言っているのだろう。だがなんとも言えない頼りがいのある表情を見ると不思議と彼が言った通りになりそうな気がしてならない。

しばらくして、受付の人が白紙のカードと水晶を持ってこちらによってきた。

「お待たせしました。こちらの水晶に手をかざしてください。」

カズマは言われるがままに水晶に手をかざす。

「はい。ええーと。名前はサトウカズマ。職業は冒険者。おっとレベルが37ですか。かなり高いですね。ただその割にステータスが低いですね。うわっ幸運値がものすごく高いですね。こんなに高いのは初めて見ましたよ。討伐記録は、大丈夫そうですね。一番最近倒したのは……魔王!?魔王ヤサカ!?う、嘘だろ。いやでも不正が働かれた形跡は一切ないし……」

「ちゃんと大丈夫そう?おっちゃん。」

「え、ええ。それよりもこの討伐欄の魔王というのは………」

そう言いながら、おずおずとこちらにカードを差し出す受付の人。

「おい、めぐみん。そういえばお前。討伐欄の魔王の文字見たがってたよな。ほらちゃんと書いてあるだろ。」

なるほど。そういうことか。

彼の呼びかけに瞬時に状況を理解すると、

「あっ。本当ですね。しっかり魔王と書かれています。凄いですよ。世界に一つだけですよ。流石勇者サトウ カズマですね。」

そこまで言った時。受付の人は…

「すいませんでした。まさか勇者様であったとは。今すぐ出迎えの準備を整えますので…」

「いいって、いいって。普通は最弱職の冒険者なんかが勇者だなんて誰も思わないだろうし。それと出迎えなんて大層なもの、用意しなくて大丈夫さ。あまり騒ぎにしたくないんだ。」

「わかりました。それでは、またのお越しを。」

そうして、私たちはギルドをあとにする。

しかし、そこそこの声量で話していたため、ギルドから出る工程で、何人かに握手を求められていたが、カズマといえば律儀に女の人にだけ握手を返していた。

これからデートだと言うのに、この男は全く。

ギルドから出ると、今度は人通りのまったくない、さみしい路地を二人で歩く。お店も何も無いただの通り道だ。今この場にいるのは、私と彼のふたりきりだ。しかし、気に入らない。結局、女の人なら誰でもいいのだろうか。

「おい。どうしたんだよ。ふてくされて、もしかして妬いてんのか?おっ、なんだよその反応。もしかしてまじで妬いてんの?案外可愛いとこあるじゃねえか。」

からかうような口調でいってくるカズマ。

この男……。はあ、まあこの人はもとからこういう人でしたし……。

「そうですよ。妬いているんですよ。カズマは浮気性ですし。いい加減、私に大人としての魅力が足らないことくらい理解していますし。」

これは本心だ。私だっていつまでも子供でいられない。胸や背丈はどうしようもないかもしれないが、それ以外のことで、この人に好きになってもらえるように努力しなければ………。そうじゃなければ、アイリスやダクネスに取られてしまう。だってこの人と私は実質…いや多分…こ、恋人みたいなものだ。そうだから取られないようにしないと…恋人だから……恋人……恋……。あれっ?カズマは私のことが好きなのだろうか?だって今まで直接好きだときっぱり言われたことなんてないし。好きかもしれんだとか。仲間以上恋人未満だとか。中途半端に終わっている。どこが好きだとかも言われたことがない。カズマの好みはロングのストレート、胸が大きくて自分のことを甘やかしてくれる人だと言っていた。これは本人に聞いたことがあるから間違いない。髪は伸ばしているが伸びきってない。アイリスやダクネスの方が髪は長い。胸は……考えないでおこう。ダクネスくらいが理想だと言っていた。そして最後、甘やかしてくれるという点だが、確かになるべくやさしくはしているが、王族や大貴族のようにカズマを養って楽させるほどの経済力はハッキリ言って私にはない。それどころか、爆裂散歩の帰りにはおんぶしてもらって、料理だって基本カズマが作ってるし、わたしたちの屋敷でかかる経費の殆どがカズマの私財からきている。日々の爆裂騒動だって、結局警察に引き渡された私やアクアをいつも迎えに来るのはカズマだし、私が喧嘩したときも保護者としてくるのはカズマだ。…………普通に考えれば、私のほうがカズマに甘えてないか?カズマに迷惑をかけていないだろうか?アイリスならもっと聞き分けが良くて……ダクネスにはもっと魅力がある。現状私のライバルが確定している二人に比べて私は……。

そんな風に自分に自信がなくなっていると。そんな考えが表情に出ていたのか。彼が心配そうな表情でこちらを覗いてくる。

「どうした?やっぱり具合が悪いのか?それともなんか悩みでもあるのか?」

「いえ、大丈夫ですよ。少しだけ考え事をしていただけなので……。」

取り繕った笑みで、なんとかそういう。いつもなら鈍感な彼は、ふーんだとか何だとか言ったり、ちょっとからかったりするだけのはずなのに。どうしてこんなときに限って……

「嘘。」

「えっ。」

「だから嘘だって言ってんの。全く、一体俺等がどれだけ一緒に過ごしてきたと思ってんだよ。今更そのくらいの嘘に気付けないわけないだろ。ほら、何に悩んでいるのか知らないが、言ってみろよ。悩みっていうのを抱え込むとな。そのうち俺みたいな引きこもりになっちまうんだからな。」

冗談交じりに気軽に言ってくる。この人はズルい。いつもは気付いてほしくても気付いてくれない癖に。いつもほしい言葉はかけてくれない癖に。どうしてこんなにも間がいいのだろう。

「……ちょっと、いえ結構。自分に自信を持てなくなっていただけです。」

「いつも自信たっぷりのお前がか?珍しいこともあるもんだな。それで?」

もう少し言葉を選べないのだろうか?私はそんな彼に若干呆れつつ……

「私はカズマが好きです。」

「ちょっ。」

いきなりの告白に顔を真っ赤にするカズマ。

「ですが、カズマが私のことを好きなのかわからなくて。だってカズマは他の女の子に言い寄られればホイホイついて行ってしまいますし、いつだってそう、中途半端に期待させといて、肝心なときにはヘタれますし。優しくしてくれる癖に特段なにかするわけでもないですし……。」

ポロポロとそんな言葉が溢れ出ていく。…あれっ、おかしいな。こんなこというつもりなんてなかったのに。溢れ出ていく言葉と涙が止まらない。今の私の瞳はきっと真っ赤なんだろうな。

「…私がどれだけアプローチしても、あなたは好きだなんて一度も言ってくれませんし、結局は女の人なら誰でもいいんじゃないかって……。アイリスはいいですもんね。聞き分けが良くて、お金も地位もあって、あなたをずいぶん慕ってくれているではないですか。ダクネスだってそうですよ。あなたの好みなんでしょう?ああいう体型が。いいですもんね、ふたりともいっぱいあなたのことを甘やかしてくれそうですよ。私みたいに、女としての魅力もなくて。地位もお金もなくて。問題ばかり起こす、使えない魔法使いなんていりませんよね……。そうですよ。いつだって、あなたに迷惑かけてばかりで、中途半端に期待させては、何もしない。そんな性悪女なんて………。」

そこまで言って、彼がようやく口を開いた。

「………ごめん……。」

…ああなんだ。結局そうなのか。結局私じゃなくてもいいのか。

そうして彼は再び口を開く。

いやだ。聞きたくない。一番大好きなあなたの口から。嫌いだなんて……、いらないなんて……、振られるなんて……。

でも、やっぱりあなたは私の予想を超えてくる。

「ごめん。今までそんな思いをさせてたなんて知らなかった。本当にごめん。」

いつになく真面目な声で…

「誰かを好きになったことも、誰かと付き合ったこともない俺みたいな冴えないやつじゃ。こんなときになにか気の利いた言葉もかけられないければ、適当に好きだなんて言って嘘つくことだってできない。…俺は誰かを……、誰かを異性として好きなるってことがどんな感じなのかわからないんだ。だけど……」

いつになく真剣な顔で、こちらをまっすぐ見つめながら…

「お前と一緒にいると…なんというか、その…妙に自然体でいられる。なんだか、変に意識したりすることもなく、ありのままの自分でいられる気がするんだ。一緒にいて落ち着くというか…。心地いいというか…。うまくわからないんだけど………」

少しだけ顔を赤くして、視線を地面に向けたあと。意を決したように、もう一度こちらを向くと…

「多分…異性として好きなんだと思う。毎回いろんなことがあるたびに。毎回からかったり、からかわれたりしているうちに。毎日爆裂魔法を一緒にうちに行くたびに。だんだん自分の中で存在が大きくなっていったんだ…。具体的にどこが好きなのかとか。そういうのはうまく言い表せないんだけど。それでも……気になる異性というか。身近な人というか。なんていうのかわからないけど……。」

色々とぼかして話しているあたり、本当に自分がどういう気持かわからないのだろう。全く、相変わらずこういったところで締まらない人だ。なにかきっぱりいうことをいうわけでもなく。結局私の悩みを直接解決したわけでも、好きだと言ってくれたわけでもないというのに、ひどく心が救われている自分がいた。

ああ、やっぱりこの人はズルい。

いつだってそう。大切なことは言ってくれない。いつだって、ほしい言葉を…好きだなんて言ってくれない…。そうだとしても…好きだだとか…愛しているだとか…。そんな言葉で取り繕うわけでもなく。ただ素直に、真剣に話してくれた彼が……カズマのことが愛おしくてたまらない。そんなあなたのことが…

「…大好きですよ。」

そう言いながら横をにいる彼の腕にくっつく。

「ちょっ。いきなりなにするんだよ。暑いだろ。」

そう言いながらも、ちっとも嫌そうな素振りは見せず、少し照れくさいのか、視線を斜め上に外すと、ほら行くぞとボソッと言って歩き出した。

もう迷わない。この人のことが大好きだから。いつかきっと、この人が私のことを好きだと自信を持っていってくれるようにするために。この人を惚れさせるために。もう絶対に迷わない。絶対に諦めたくない…。ドキドキと先程からうるさい心臓の音でさえ、耳に入らない。きれいに晴れわたっている快晴の青空だって目に入らない。ただあなたの、その横顔から目が離せない。そんな、彼と最高の未来を勝ち取るために…。まず手始めとして、心のなかで小さくつぶやく。



今日はめいいっぱい、デートを楽しもう。

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