まだ名前のないアイドル

あきゅお@430

第1話 夢の始まり

昔から雨の朝は少し好きだった。

雨音を聴いたり、雨粒に濡れた窓に映る

少しぼやけた風景をぼんやりと見るのが。


眠気が抜けきらない頭を振って

静かに窓を開けると、雨はすでに上がりかけ

少しだけ雨の匂いが鼻腔の奥に届く。


『今日か‥‥』


マキは、そっと呟く。


幼い頃から夢に見ていた景色を見るため

ここまでの3ヶ月の日々を精一杯やってきた。

慣れない自己アピール、歌唱、ダンスパフォーマンス。毎日、悔しくて涙することも、挫けそうにも何度もなった。

それでも支え支えられながら、

切磋琢磨してきたメンバーがいた。

そんな戦友ともライバルとなるオーディション。


その答えが今日、出るのだ。


マキは、少し伸びをして身体をほぐす。


すでに眠気はない。迷いもない。

どんな結果になったとしても

泣き虫な自分が容易に想像できた。

それでもファンに約束した嬉し涙を

ステージの上で絶対に見せたい。


『さぁ、行こう』


マキはベッドから立ち上がる。


カーテンを勢いよく開けると、

雨上がりの雲間からは朝陽が射していた。

まるで自分に当たる一筋のスポットライトのように。


それは近い未来に実現する景色であった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る