3 逃走先にはメインキャラがいたけど、どうも人格がおかしい件

 あたしが夢のど真ん中にいたそんな頃、あたしと青年の乗った馬車の目的地ユーリエにある大きな教会でも、結婚式の時間が着々と迫っていた。

 ユーリエはリベラエスタ国の大都市の一つだ。





「ギル様、もうすぐですね。しかし本当によろしいのですか? 式が始まればもう引き返せませんよ」

「ああ。いいんだ。どこぞの馬の骨でも何でも、結婚さえしてしまえばこっちのものだろう? 両親にはもう文句は言わせない。僕の魔法研究を中断させもしない」


 ユーリエ教会では、とある高貴な青年ギルバート・ベルグランドが専属執事を前にして意気込み宜しく拳を握り締めた。


 因みに彼はまごう事なきリベラエスタ国の第四王子だ。


「……はあ、でも僕は今日結婚してしまうのか。ああ、彼にひと目だけでもいいから会いたかった。ひと目でも会えたらその時は全力で捕まえて最高に持て成して海辺の見えるホテルでプロポーズして世界一の愛を囁くのに……っっ」

「はいはい妄想はそこまでで」

「……ノリが悪い奴だな。セツナにも初恋くらいあるだろう?」

「ああ、はい、十代の頃に初恋相手とは人並みには青春しましたね。因みに私の妻はその初恋の女性です」

「……えっ?」

「私が既婚者なのをご存知ですよね……?」

「ふっ」


 裏切り者おーっとギルバートは一人窓から叫んだ。

 セツナは執事のお仕着せを着てはいるが、元々ギルバートの護衛だ。

 今では執事なのか護衛なのか判然としないが、彼自身両方を兼務していると思ってここ数年はやっていた。

 ギルバートの、新郎の装いに合わせ丁寧に撫でつけられた繊細な銀髪は光を細かく反射して、女性も羨む艶めく髪質をより際立たせる。

 陰影がけぶるような紫の瞳を細め彼は窓辺から目線を上げる。

 快晴空には雨の気配など欠片もない。


「ハハ、見事なブーケトス日和じゃないか、なあ?」


 気を取り直したギルバートがからりと笑む。窓辺の逆光に佇むシルエットはスラリとして長身、だが脆弱な印象はない。均整の取れた体つきだ。タキシードの上からでもわかる鍛えられ胸板と存外広い肩、長い脚、咽仏の出た男性的な首筋とシャープな顎の線。

 鼻筋の通った横顔は引き締まって知性を醸し出し、聡明さを内包したような瞳は一度見つめられたら忘れられないと見る者を惹きつけてやまない。何しろここ数年、社交界では美の神から祝福された王子とよく言われている。


 そんな彼には何より大事なものがある。


 自ら立ち上げた科学と魔法の研究所だ。


 メインは魔法の方なのだが、世間一般には科学を優先と思われている。何しろ彼はそちらで一財産を築いた。


 自宅兼研究所にしているユーリエの古い要塞城を手に入れられたのもそのおかげだ。リベラエスタ国の前身国家の遺産で、要塞と言っても既に機能していない。

 ユーリエで十代青春期の大半を過ごし先日二十歳になったばかりの彼は、この地に永住し生涯魔法研究者として生きようとさえ考えていた。


 ある日王城実家に呼び出されるまでは。


 両親からいい加減研究一辺倒の生活をやめて結婚しなければ、研究所を国王権限で取り潰すと言われたのだ。


 彼らは科学研究はともかくとして、ギルバートに魔法研究からは手を引かせたいのだ。


 国民の大半は魔法に余り良いイメージを持っていないからだろう。


 しかし、彼には魔法研究をやめるつもりなど全くない。


 心に決めたたった一人のためにも。


 現在の自分になれたのも、その人が彼を押し上げ飛翔への筋道をくれたおかげだ。


 その人のようになりたい、隣に並んで歩んでも恥ずかしくない男になりたいとの深い想いが、ギルバートに魔法研究への道を開かせ突き進ませた。

 他の研究を始めたのは魔法研究の役に立つかもしれないと思い、ついでで始めたに過ぎない。

 ずっと想い続けている相手を見つけるまでは、その相手の次に大切な研究所を護る。何が何でも取り潰されるわけにはいかない。


 何故なら、魔法研究を続ける事それ自体が相手との再会に繋がると、そう信じているのだ。


 だからこそ彼は呼び付けられた父王の執務室で半年以内に必ず結婚すると豪語した。


 無論、両親推薦の相手は論外。そんな相手はどうせ魔法研究をやめさせたい両親の息の掛かった者だ。

 では形だけの結婚相手をどうするかと、良き参謀たるセツナに相談し今に至る。


「セツナにはいつも苦労を掛けるな。僕を理解してくれるのはお前だけだよ。感謝している」

「……またそうやって調子良いんですから」


 そんな美形王子と常に行動を共にする執事もまた印象的な人物だった。

 軍人のようなスッキリとした黒短髪に切れ長の眼、薄い唇、瞳も黒で冷静沈着を絵に描いたような涼しげな雰囲気。

 竹林に一人静かに佇む姿を違和感なく想像できる、そんな男だ。

 眼差しの鋭さを和らげる目的で掛けている縁なしの伊達眼鏡が特徴的でもあった。


 現在そんな二人の主従が居る場所はユーリエに建つ教会の新郎控え室だ。


「先方の馬車の到着予定までもう少し時間がありますので、ゆっくりなさっていて下さい」


 セツナはそう言って静かに部屋を出て行く。律儀に外で馬車を待つつもりなのだろう。


 邪魔をされては困るからと身内にも隠して入念に準備を行ってきた上、招待してもいない結婚式。

 相手はセツナが金と伝手で頼んだ男で、顔を合わせるのも今日限り。

 この結婚はそもそもが世間にギルバートは結婚したと周知させるのが最大の目的だ。故にこの先その男と共に居る必要はない。ギルバートとしても好きでもない男と一緒に暮らすなど御免だ。


 この国の法では結婚に性別はない。


 結婚相手には性別如何より重視される点が一つあるためだ。


 ――魔法使いか、否か。


 そうであれば子供にも魔法能力が発現するかもしれないからだ。

 ただそれも、ギルバートにとってはどちらでも良かった。

 どうせ予定では一年間の契約結婚だ。一年経てば愛が冷めたとか何とか言って離婚する手筈だ。

 報酬は庶民なら一生働かず楽に暮らせるくらいの額で、これはある種のビジネスも同然だった。


 そんなわけで教会には記者のみを招待した。


 この特別な場所で、彼らはさすがにもう予測はできているはずだ。







「ようやく着きましたかルーク。正直トンズラされる可能性も考えていたので、約束を守ってもらえて喜ばしい限りですね」

「へいへい。相変わらずの神の如き口の清さだよなセツナっちは」

「そうですか、どうも」

「褒めてねえーよっ」

「……ところで、その方は?」


 到着したユーリエの教会裏手で馬車を降りた蜂蜜色の髪の青年ルークは、背中ですーすー寝入っている赤髪の少女を肩越しに一瞥すると苦笑を浮かべた。

 会って間もない男――自分のいる馬車で寝入ってしまう迂闊さや無防備さには呆れるが、追い詰められた末とは言え、賭けに臨んだ肝の据わり方には感心すらする。


「……めちゃくちゃタイプだ」

「はい?」

「いんや」


 ルークはからりと笑うと片方の眉を上げてみせた。


「んー何かさ、馬車に転がり込んで来た」

「とか言って本当はあなた人さらいを……」

「はあーっ!? 誤解すんなって! 俺が無理やり攫って来たんじゃねーよっ。事情があるんだよ。とにかくどっかに寝かせてやってくれ。着替えっからさ」

「……まあ、仕方ありませんね」


 少女を託されたセツナはルークとは違い丁重に横抱きにしながら、困惑気味にその赤髪の花嫁を見下ろす。


「彼女も結婚式だったのでしょうか。しかし介添えの者も連れず、あまつさえルークの馬車に乗ったのは只事ただごとではありませんね。まさか逃げてきた、とか?」

「おっ、鋭いなやっぱ。そうらしい。その子追われてんだってさ」

「それはまた……。全く、ただでさえ忙しい日なのに私の仕事を増やしてくれて、大変に感謝感激ですよ」

「だぁから俺のせいじゃねえって……ってまあ二割くらいはそうかもしんねえか?」


 深く考えるでもなく軽く請け合う感じのルークに、セツナはこれみよがしに大きな溜息をついた。


「んん……」


 話声や動きで目が覚めたのか、赤髪の少女がゆっくりと目を開ける。





 湖畔の屋敷での撮影会のみならず次々と湧いては萎む過去の記憶の中、あたしは今度は父親に負ぶわれていた。

 撮影会よりももっと昔の記憶だ。

 休みの日は庭の手入れなんかをよくしていたから日向の匂いのする大きくて温かい背中は、とても気持ちが良くてあたしはよくそこで眠っては起き、起きては眠ったものだった。


『ミラベル、これからは毎日家にお手伝いの人が来るけれど、誰かの命が危ないと思った時以外では魔法を使っては駄目だよ』


 庭先で父親はそんな話をした。商会が軌道に乗り屋敷を空ける事が多くなったために、人を雇い入れると決めた頃の記憶だ。


『うん、わかったわお父様』


 洗いざらした日向のシャツにぺたりと付けた頬で聞き分けよく頷けば、父親の声が直接響いてきた。


『ミラベルは本当にお利口さんだね。時々同じ大人と話している気分になるよ』


 わあ、鋭い。


『ふふっお父様ったら変なの』

『そう? あはは』


 あたしは子供っぽくしようと体を揺らした。


『ああこらこら反らないで。落っこちるから』

『えへへへへへ~』


 体勢を戻してぎゅっと抱き付くと、やっぱり大好きな日向の匂いがした。……愛されてるって実感できる親の温もりは何にも代え難い。あたしは両親をゲームキャラだなんてこれっぽっちも思っていないもの。

 何年も後に理不尽にもこの父と離れ離れになるのだと思うと鼻の奥がつんとした。


 夢の中、懐かしの背中が薄れたのを感じ、どこにも行かないでって必死に思ったら意識が浮上した。


 更には男性の声と不安定な浮遊感が訪れ、訝りが覚醒を加速させる。

 ハッと目を開け初めに飛び込んで来たのは、眼鏡をかけた見知らぬ男性の端正な顔だった。


「……どちら様で?」


 直前まで見ていた夢の内容なんてすっかり忘れてついポカンとしちゃったわ。


「ああよかったお目覚めのようですね。ご気分はどうですか?」

「…………だい、じょうぶ、で……す……?」


 この上なく固まって答えて目を大きく瞬かせた。

 何故に自分は若い男性に抱きかかえられ、顔を覗き込まれているのか。

 確かさっきまで一緒にいたのは金髪の天使だったはず。


 ま、まさか、またって言うか今度こそあたし売られた……とか?


 彼は天使に見えて実は悪人だったのだろうか。

 けれどここで取り乱してはいけないと、胆力を総動員して努めて冷静に問いかける。


「……ええと、すみません。下ろしてもらっても?」


 男性はすんなりと応じてゆっくり丁寧に地面に立たせてくれた。それだけでも少し警戒レベルは下がったものの、解けるまでは当然いかない。どっくどっくと激しく動揺する心臓を服の上から押さえ、目の前の相手へと向き直った。


「ありがとうございます。ええと、ここはユーリエの街なんですか?」

「ええ、そうですよ。あなたはあの馬車に乗って来られたのです」


 そう言って眼鏡を掛けた黒髪君が視線で示す先には、一台の馬車がある。咄嗟の判断で乗り込んだので外装なんてほとんど覚えていないも同然だったけど、確かにあんな感じだった気がする。

 変に疑ってごめんなさい金髪君。たぶんいつまでも中に置いておけないから降ろされたんだわ。


「そうだったんですか。どなたか存じませんがご迷惑をお掛けしました。あのそれで馬車に乗っていた方は?」

「ルークですか? 彼なら教会に入りました」

「え、あ……ここも教会なんですね」


 言われて初めて気付いた。偶然にも程がある。ダーレクの小さなそれよりも断然綺麗な教会建物を見やって憂鬱な気分になった。

 到着場所が教会と言う事は、ルークさんとやらは聖職に身を置く人なの? それともあたしを預けるにはここの方が良いと思って? 救貧院みたいな場所があるのかもしれない。


「あなたは教会の方なんですか?」

「いえ、今日は用事がありまして」

「そうですか。あの、あたしはミラベルと言います。ルークさんに会う事はできますか? 助けて頂いたお礼を言いたかったのですが」

「……本当にルークが助けたのでしたか。正直半信半疑でしたが」

「え?」

「いえ、ルークがあなたは追われているようだと言っていましたが、本当ですか?」


 そこまで知られているなら、いっそこの人にも今日の出来事を掻いつまんで話してみようかな。


「本当です。実は――」


 かくかくしかじかで聞き終えた彼もさすがに驚いたようだった。


「ダーレクの街にはそんな連中が蔓延はびこっているのですね。これは一度徹底的に取り締まらなければ……」

「はい?」

「ああいえ、こちらの話です。お気になさらず。それからルークには少々立て込んだ用事がありまして、伝言があれば伝えておきますよ」

「あ、そうなんですね、わかりました。ではとても感謝していたと、そうお伝え頂ければ」


 それなら仕方がないかと青年に感謝の言伝てを託そうとした時だ。


「――おーいセツナ、新郎はもう到着したか?」


 第三者の声が割って入って、あたしは開きかけていた口を閉じる。

 セツナと呼ばれた青年と共に声のした方へと視線を向けると、そこには白いタキシードを着た一人の若い男性が立っていた。

 銀髪が眩しい青年の容姿には素直に舌を巻く。


 わあーなんかめちゃくちゃモテそうな人~~…………って、ん? え!? ああああの顔はまさかっ、ゲーム主要キャラのギルバート・ベルグランド!?


 ミラベルと愛し合う、まさに運命の王子様だ。


 でもどういう事、彼と出会うのは十八歳を過ぎてからよ。まだ二年くらい先なはずなのにっ!


 あー、もしやダーレクからユーリエに来るのも何故か早まったからキャラとの出会いも早まった!?

 と、ここで、あたしの目の前には本日何度目かの青い通知画面が出現していた。


【ギルバート・ベルグランドに性別がバレるとペナルティーです】


 は……いいい~!? どういう意味!?


 純白ドレス姿だし誰が見てもあたしは花嫁さんにしか見えないはず。女子でしょ? もう見た瞬間にわかるでしょ?


 でもこの文言だと男に思われるってわけよね。


 はいといいえの選択肢すらない単なる認知目的だけの画面だからか、あたしが疑問符一杯で絶句している横じゃこの世界の現実は普通に進んでいたわけで、つまり人々は主要キャラも含めて動いているわけで……。


「ああギル様、ええ、ついさっき着いて中に――」



「――――ああ、あああ……っ、会いたかったっっ!!」



 セツナさんが説明するのを遮って……いや途中から聞いてすらいなかったみたいにして、教会から出てきて早々あたしをじっと見つめていたギルバート王子は、何と飛び付くようにして抱き付いてきた。


 え、な、何事……? 良い匂いしたのとビックリしたのとで不覚にもドキドキよ。


 元々のゲームじゃ、十八歳のミラベルが魔法教に追われてダーレクからへとへとになってこの街に逃げてきたところを、ギルバートに救われる。怪我をして倒れていた彼女を拾って介抱してくれるのよね。


 その際の彼女は男の格好をしていたけど、手当てで女性だってのは早々に露見する。


 だから、冗談抜きにこの通知画面が不可解だった。


 まあそれ以前に、この状況をどうすんのって感じだけど。


「あ、の……?」

「何をやっているんですかギル様!?」


 思いもよらない行動にあたしもセツナさんも戸惑いと驚きを隠せないでいる。


「聞いているんですかギル様?」


 たぶん聞いていないギル様は感激したような顔になってセツナさんを振り向くや、鼻を啜って目を潤ませた。


「セツナはやはり僕の有能な右腕だ! まさか彼を――レッドを連れて来てくれるなんてな……!」


 レッド? 誰それ?


「ギル様、明らかに人違いです。この方の服装をちゃんとご覧になって下さい」

「人違い? いいや彼は紛れもなくレッドだよ。僕の永遠のヒーローレッド伯爵さ。何年経っていようと僕が彼を見間違えるわけがない。現に彼のこの匂いだって僕が鮮明に覚えているものと同じだ……!!」


 一旦少し体を離され肩を掴まれたと思ったら、今度は突然首筋に顔を近付けられてくんくん匂いを嗅がれて、あたしはピシリと固まった。


 においって……体臭ってこと!?


 よく恋愛ものだと恋人同士が抱き合って相手の匂いに安心したりするシーンがあるけど、これはそんな可愛らしい胸キュンシーンなんかじゃない。


 走りに走った後だし確かに汗臭いかもとは思ったけど、そんなにハッキリ指摘する事ないじゃないっ。

 そもそも初対面の女性にデリケートな話をするなんて、この男は何て無神経なのっ。

 あたしの知るゲームキャラのギルバート王子はもっと陰があって人嫌いだったはず。それでも怪我人を無視できない優しさのある青年だったからこそ、ミラベルは彼に恋をしたのよ。


 羞恥に涙目になって憤りで震え出したところで、セツナさんが引き剥がしてくれた。


「ギル様! レディに何という失礼を!」

「レディ……? ああその格好だからか。ふふふっ何かおかしいと思ったら何で女装なんてしているんだ? ご丁寧に胸に詰め物までして」


 女装。

 胸に詰め物。

 ここまで来るとあたしにも先のメッセージの意味が呑み込めてきた。

 でも、酷い……。確かに化粧は汗で剥げてるし、女子の平均よりは身長も高いし、ちょっとくらい男顔かもしれないけどっ。このカッコして男に思われるなんて史上最悪の屈辱よ!


「久しぶりだなレッド。僕を覚えてる?」

「ですからギル様、この方は女性です」

「セツナもう冗談はいいよ。早いとこタキシードに着替えてもらって式を始めよう」


 そして挙句の果てに彼は何と、トン、こっちの胸を軽く押した……というか触った。


「な!?」

「ギル様!」

「へえ、よく出来た詰め物だなあ」


 ドレスは胸元を隠し首筋まであるデザインだったけど、実際に触っても彼は自らの掌を見下ろし感心したようにするだけであたしを男と思って疑わない。


 ……というかもう一度言うけど、彼は、胸を、触った。


 におい云々以上にあたしは我慢の限界よ。


「セクハラすんなーーーーッッ!!」

「あがアッ!?」


 渾身の拳から繰り出されたアッパーが見事相手の顎を捉え、ギルバートは綺麗な放物線を描いて植え込みに撃沈。


「……やっ、ぱり、この撃退力、僕のレッド……」


 恍惚とした彼はガクリと首を傾け意識を失くした。変態には強力な一発でOK……というか、事実上の一発KO。暫し呆気に取られていたセツナさんだったけど、我に返ると慌てたように駆け寄って彼を起こしに掛かる。


「ギル様、ギル様しっかりー!!」


 あたしは彼が王子だって点もあたしの正式な相手役だって点もすっかり忘れて腕組みし、ふんと鼻息荒く睨み下ろした。よりあたし男性説が彼の中で固まったに違いなかった。

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