タソは黄昏。日々歩む。

あんぽんタソ

1日目 自己紹介

はじめまして。あんぽんタソです。


タソは自分の事を他人のようにタソと呼びます。


これは僕から見てタソはどんな気持ちで、どんな行動をとっているのか等、客観的に見て「言葉」にするためです。


タソが初めて精神科にお世話になったのは、首吊り自〇に失敗した時でした。


3ヶ月ぐらい入院して、その最初の1週間は隔離観察室という場所に閉じ込められました。


すごいですね。


食事と睡眠とトイレ以外は何もさせてくれないんです。


タソは悪いことをしたから、牢屋に入れられたのだと考えて悲しくなりました。


つらくて、孤独で、涙が止まらない日が続きます。


「出して下さい! もうしませんから! 助けて下さい!」


誰も見に来ませんでした。


出入り口は頑丈な鉄製の扉。先住人が凹ませたと思われる拳の跡や、蹴りの痕跡、位置的に何度も打ちつけたであろうヘッドバットの傷が物々しかったです。


しかも、この扉、内扉と外扉の二重構造で、絶対に外に出しません的な思惑が伝わって来ます。


唯一の楽しみは食事と投薬、先生の回診で人と会える事。


タソは自ら命を投げ捨てようとした罰として、「なら1人ボッチでずっとここに居ろよ」と言われているような気がして、ここは地獄なのではないだろうかと思いました。


すると、時々会いに来てくれる看護師さんや先生はきっと天使で、タソに救いの手を差し伸べてくれているのだと。


隔離観察室から出してもらえたタソは、個室を与えられました。


時々会いに来てくれる家族は、タソの行いを責めずに、洗濯物や差し入れのミルクティーを持って来てくれました。


「俺は……! まだ生きててもいいのかなあ……!」


タソは涙が止まりませんでした。


会社の社長が会いに来てくれた時、社長はタソを抱きしめました。


強く。強く。


何も言わない社長の肩が小刻みに震えていて、「泣いている」とわかった時、タソは胸の奥から込み上げてくる『罪と罰』を堪えきれなくなりました。


今でも、まるで水中のように歪んではこぼれ落ち、床に雨粒のように滴る涙の跡を忘れる事ができません。


しかし、一度壊れた心は、元通りにはならなくて、先生にも「これは病気ではありませんので治りません」と言われてしまいました。


最初に告げられたのは『適応障害』


タソは何でも適応するスポンジみたいな性質を持っていて、これを『過剰適応』というそうです。


新しい事に挑戦する時、タソの脳は極限まで活性化し、その基礎や応用、独自の解釈による特技を習得します。


そこまでやらないと気が済まないのです。


担当医の田村先生は、長い月日をかけて、タソの異常な適応が、周期的であることを発見しました。


ある時は調子良く何事にも適応し、またある時は気分が落ち込んでうつ状態になる。


田村先生は、これを『双極性障害』と判断しました。


タソの白黒思考――何事も二極化し、対人関係を敵か味方かに二分する考え方も、『双極』と言えたのかもしれませんね。


くして、タソは長い年月を『障がい者』として過ごしています。


時に体調を崩して入院することも数回ありました。


そして今。


タソは『障がい者』に適応しつつあります。


周囲の人すべてが敵に見え、ポーチを持っていれば銃を隠し持っていると確信し、近隣の家には監視カメラが設置されていると考えています。


見えるんだ。


赤いランプが。


あれは夜間の撮影用の赤外線ランプに違いない。


タソは監視されています。


この日記が途絶えた時、それは暗殺者がタソを始末したということです。


今日もタソは戸締りをしっかりして、外に出る時はレンチを片手に周囲を警戒します。


これは、そんなタソの日常をお届けする黄昏日記。


楽しんで下さったら、嬉しいなあ。



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