真夜中のジンギスカン
上面
〆
「
銀髪の豊かな髪を後ろで纏めた浅黒い肌の少女が隣り立つ青年に尋ねた。
いや外見年齢が少女と言うべきか。少女は神である。天叢雲剣そのものであり、浮世では
「自分、未成年です」
気弱そうな人間の青年が申し訳なさそうに答えた。この青年の名前は
「そうか。
八一はまた別の女性に尋ねる。一人で酒を飲むのは寂しいのだろう。
「あー……一杯だけでいいですか?」
彼女は成人済みだった。破滅的な迷子の才能を持ち、道に迷っただけでこの温泉宿に辿り着いたのだ。
『
迷い込んだ人間の居住食は最低限保証されているが、温泉宿での生活を豊かにするために宿の仕事を手伝うことが多かった。迷い子が元の居場所に帰るにはどうしても時間が必要だった。
五月の今、季節行事として週末毎に宿の庭先で立食形式の宴会が開かれるようになり、
日曜日を終え、後片付けを終えると月曜日になっていたのだ。
「どうぞ」
自然な流れで
「
「そうですね、コーラ頂きます」
全員に飲み物が行き届き、一つだけ残しておいたジンギスカン鍋で解凍済みのラム肉や野菜が焼かれていく。火を消し、この鍋を宿の内部まで運び、残りの食材を処理すれば宴会の後始末は終わりである。
「乾杯」
各々が杯を空にした。
ジンギスカン鍋の肉は
「あー、そういえば
労働の疲れと深夜テンションとアルコールの酔いが合わさり
「俺より足の早い男」
「
ジンギスカン鍋の〆はうどんとされている。
「……あっ、すいません。聞いてませんでした。もう一度お願いします」
「うどん食べるか?食べるよな?それとも白米が欲しいか?」
「食べます!」
しかし実家の姉たちと比べれば
十メートル以上の距離を瞬きの間に詰められたのだ。
影は生のラム肉を喰らいながら、鍋に首を向ける。
「何!?」
「狼!!」
「招かねざる客だな。この気配は宿の客というわけでもなさそうだ」
天叢雲剣の切先から水が吹き出し、影を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた影は地に叩きつけられ弾む。
「この肉は宿の客の為に用意されたものだ。貴様のものではない!」
彼我の距離は大きく開いている。剣の間合いではないが、天叢雲剣の水流は問題なく届く距離だ。影が再びクーラーボックスに向かって来る。
それよりも早く影は水流に吹き飛ばされる。
影は本能で損得勘定をし、逃げた。労力に対して割に合わないと判断したのだ。
「クソッ!ラム肉を盗られた!」
「いやいやいや!別に良いじゃないですか!」
「俺が食べたかったんだよ!ラム肉!」
〆のうどんは既にジンギスカン鍋の上に広げられているが、ラム肉はまだまだクーラーボックスの中にあった。
「まあまあまあ。これ食べて落ち着いてくださいよ」
「まだお酒残っていますし、どうぞどうぞ」
真夜中のジンギスカン 上面 @zx3dxxx
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