第38話 水着のお嬢様

「おはようございます。ノブローくん」


「おはよう。萌々果モモカさん」


 オレは早朝に目覚めて、萌々果さんとウォーキングをする。木々に囲まれた道を、萌々果さんと歩く。


「あの風呂は、最高だった」


 ヒノキの露天風呂なんて、スーパー銭湯以来だ。あんないい風呂が、いただけるとは。


「男女別の大きな露天風呂がある別荘が、幸嗣ユキツグさんのところだけなんですよ」


 黄塚コウヅカの別荘は、ほとんどが内湯らしい。大きな風呂や露天風呂に入りたいときは、別途で大浴場を利用するのだという。来客が多いからだ。


「わたしは露天風呂が好きなので、幸嗣さんの別荘をお借りするんです。普段は、真庭さんと一緒に入るんですよ」


「幸嗣さんは、どうしてそんな大きな風呂を?」


「バイカーの友だちが多いからです。キャンプ用品も、充実していたでしょ?」


 なるほど、バイカーやキャンパー仲間と一緒に入るから、別で大浴場が必要なのか。


「この別荘も、時期が来るとバイカーさんたちが利用するんですよ。一番キレイに使ってくださいます」


 偏見だが、バイカーってガラの悪い人というイメージがある。だが幸嗣さんの友人は、社長などの実業家ばかりらしい。そりゃあ、黄塚家だって悪い顔はしないよな。


「朝食の後は、ビーチに行きますよー」


「あの、萌々果さん」


「はい?」


「水着になるんだよな。オトコの俺がいるのに、恥ずかしくないのか?」


「全然。むしろ、かわいい水着を買ったので、見てくださいよー」


 ノリノリだな。萌々果さん。

 

「さて朝食を……あら」


「おはようございます。黄塚先輩、八代ヤシロ先輩」

 

 別荘に戻ると、是枝コレエダが朝食の支度を始めていた。昨日は夕方をオレたちに作らせてしまったので、せめて朝飯だけでもと、準備をしてくれたらしい。なんて律儀な。


 是枝は、ゆで卵を作っている。トーストは、みんなが起きてから焼いてくれるそうだ。

 

「ホントは、目玉焼きにしようかなと思ったんです。けど、みなさんの起きるタイミングがバラバラでして。それに、しょうゆとソースのどちらをかけるか、ケンカになるかもと思いまして。ワタシ、目玉焼きの味付けだけ、カレシと意見が合わなくてですね」


 だったら、スクランブルか、ゆで卵だろうと。

 気を使い過ぎでは? いい奥さんになると思うが。

 

 

「ありがとう。みんな起きてきたみたいだから、いただこうかな」


「はいっ」

 


 朝食を終えたので、プライベートビーチへ。


 海パン姿で、砂浜にパラソルを差す。

 まず最初に、真庭マニワ夫妻がクーラーボックスを肩に担いできた。

 萌々果さんの秘書の真庭さんは、ラッシュガードとサーフジャケット。幸嗣さんもお揃いだ。二人共、サーフボードを持っている。

 

「サーフィンをなさるんですね?」


「おう。実業家ってのは、予測できない事態が来るからな。海は、そういう状況をリアルに感じ取れるんだ。教えてやろうか?」


「ああ、いや。結構です」


 スポーツ自体が、苦手なのだ。


「ノブロー、どうかな?」


 続いて、莉子リコ倉田クラタがやってきた。


 莉子の水着は、タンキニである。女子四人の中では中肉中背で、胸のサイズもまあそこそこな感じ。


 倉田は、水玉ワンピースである。しかも、ハイレグ。なんか全体的に、昭和水着っぽい。胸が割と大きく、胸元がはち切れそうだ。


「アサギちゃんったら、お茶漬けの袋みたいな、スカート付きの水着を選ぼうとしてさー」

 

「レトロモダン柄で、売っていたではないか。あれのほうが、ウケるかなと」


「あのねアサギちゃん。そういうのは、ヤマダセーラちゃんに着せてあげなさいっ。差分ならこっちが用意しますっ」

 

 そうだよな。倉田って関西人の血を継いでいるんだっけ。ついつい、「おいしい」展開を気にしてしまうようだ。


「おまたせしました。夕貴ユキさんには、わたしのお古を着てもらいましたよ」


「お、おまたせしております」


 是枝は、オフショルダーのワンピースである。黒にピンクの水玉があって、胸から上はフリルで覆っていた。女子四人の中でも、体型は平坦だ。


 萌々果さんは、白ビキニである。なんと、女子の中でもっとも胸がデカいのだ。髪もお団子状にアップしていて、幼さをかもしだしていた。このギャップがまた、いい。


「見とれてるね、ノブロー」


「ムリもないぞ、リコ。水泳の授業とかシャレにならんくらい、萌々果氏は目立っていたからな」


 たしかに萌々果さんは、男子の注目を集めていたんだよな。気の毒なくらい。



「さあみなさん、泳ぎましょう」


「はいっ」


 萌々果さんと是枝が、率先して海へと突っ込んでいった。


「少年、キミも行っておいで」


「でも、バーベキューの用意とかあるんで」


「そっちは、オトナでやっておきますー。キミも、遊んできなよ。若い子は、遊ばなきゃ」


 幸嗣さんは、そう言ってくれるが。

 

「……お二人が一番、遊ぶ気満々な出で立ちじゃないですか」


「雰囲気だよ。オトナがゆったりした格好だと、子どもたちもリラックスできるっしょ?」


 そこまで、考えていたのか。


「キミらが遊び疲れてぐったりしてから、のんびり波を待つさ、な?」


 幸嗣さんが言うと、真庭さんがうなずく。

 

「お嬢様と、共に遊んでくださいませ。ノブローさん」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 オレは荷物を下ろして、みんなの元へ続く。

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