第33話 もう一回やるなんて、聞いてない!

「おい。マジか。オレは、二回目も、収録が、あるなんて、聞いて、ないっ」


 オレは萌々果モモカさんと、倉田クラタといっしょに、鉄骨の上で電車ごっこをしている。

 といっても、リアルでやっているわけじゃない。ゲームの中での話だ。電車ごっこのような細長い輪っかの中に三人組で入って、高所に設置された鉄骨を渡るのである。


「仕方、ないの、です。ノブローくんの、キャラ人気が、ものすごごおおお!」


 先頭にいる萌々果さんが、鉄骨をジャンプで渡ろうとしたが、着地点で足を滑らせた。


 聞いたことない声で、萌々果さんが吠える。

 

 そのままオレたちは、スタート地点に戻された。

 

 このゲームは、誰かが足を踏み外せば、連帯責任でみんな落ちてしまう。


「ああ、また最初からですね」


『ゲーム実況編』と題して、オレたちはまた収録をすることになった。「ゲーム実況って、具体的にどうすればいいの?」という質問が殺到したからだそうで。

 オレがやらなくても、倉田がやればいい。ヤマダセーラⅡ世として、実演してもらった方がいいのではとも思った。

 が、倉田は「みんなで遊びたい」と言い出した。オレたちが普段どういったバイトをしているのか、確かめたいとのこと。


 ならば、見せないわけにはいかない。


「楽しいな。私は普段、集団でこうやって遊ぶなんてことはしないから」


「面白いです。案外倉田さんが、引っ張ってくださるので」


「お役に立てて、光栄だ」


 鉄骨ゲームも、中盤に差し掛かる。鉄骨連続ジャンプエリアに到着した。


 ここで萌々果さんが、倉田に先頭をバトンタッチする。


「ここは、倉田さんのバランス感覚に賭けます」


「やってみる」


 作戦会議の後、すぐに萌々果さんがマイクを立ち上げた。


『では、まいりますわよ』

 

 すぐさま倉田に、ヤマダセーラが憑依する。倉田はどうも、憑依型の声優らしい。演じるキャラが、身体に降りてくるタイプのようだ。


『ジャンプのタイミング、よろしくお願いします』


『心得まして、ですわ。せーのっ』


 倉田が、タイミングで掛け声を出す。


『せーのっ、せーのっ』


 可愛らしい声で、倉田がジャンプを促した。


 その声に合わせて、オレたちも飛ぶ。


 だが、最後尾の萌々果さんが足を踏み外した。

 

『おおおお! んんんんん! んんん!』


 また、萌々果さんが聞いたことのない声でうめく。


『上がってくるにゃん、でのちゃん!』


『でのちゃんさん、もう少しですわ』


 オレと倉田で、萌々果さんのキャラを励ます。


『んぬうううおおおおお! やりました!』 


 どうにか持ち直し、萌々果さんが足場に這い上がってきた。 


『いい感じですわ。この調子で、もういっちょせーのっ』


 あと三段、二段、一段と、着実に飛び移る。


『ゴールですわ』


『やりました! さすがヤマダセーラさんですうううううう!』


 うれしくなって、萌々果さんのキャラが飛び上がった。


 その拍子に足を踏み外し、全キャラが落下していく。またスタート地点に逆戻り。


「やらかしたな、萌々果さん」


「ごめんなさい、やってしまいました。でも楽しいですっ」


 ひとまず、オレは離脱する。

 莉子リコとバトンタッチして、女子三人組で攻略をしてもらう。


『中の人が変わったにゃー』


 莉子は音声を調節して、イケメン声に変える。


『よろしくおねがいしますね、ジャムろんさん』


『お願いいたしますわ』


 今度は、あっさりとクリアしてしまう。

 オレがいたら、あれだけ不安定だったのに。


 やっぱりオレが足を引っ張っていたか?


 でも、事情を聞いているとどうも違うようだ。

 

「リコの圧がすごかった」


「失敗したら、なにをされるかわかりませんでした」


 そんな感じのプレッシャーを、受けていたのか。


「やっぱりさ、ノブローといっしょにやった方が楽しいよ。あたしがゲームやると、ガチになっちゃう」


 というわけで、収録兼オレのバイト風景見学が終わった。


「どうだった? 倉田的にはあまり面白い発見なんて、なかったと思うが?」


「いや。ゲームしてお金がもらえるというのは、Vでも体験しているからな」

 

 やっていることは、V活と大差はないと。


「社長と遊ぶというのがいいな。萌々果氏が楽しんでいるなら、それでいい」

 

 倉田も楽しんでくれたようで、なによりだ。


「ところでみなさんは、夏休みに予定はございますか?」


 萌々果さんが、オレたちに聞いてくる。

 

「八月半ばのイベント以外は、全部空いてるかな」

 

「私も、似たようなものだ。収録はもう、私一人でも可能だから」

 

 オレも、特に予定はない。バイトを、もっと入れたいくらいだろうか。


「では、七月終わり頃に、みんなでお泊りしませんか?」

 

 萌々果さんが、別荘に招待してくれるという。


「といっても、黄塚コウヅカのコンベンションにわたしが同行するので、みなさんも別荘へどうかなと思いまして」


 年に一度、黄塚グループはオフラインでのコンベンションを開く。その場所は南の方で、プライベートビーチもあるらしい。


 別荘と言っても、子どもたちだけで宿泊できる施設もあるそうだ。保護者として、萌々果さんの秘書の真庭マニワさんも同行する。

 なら、安心かも。


「おおお、いいね!」


「両親と相談してみる」


 オレは、バッチリだ。


「では、わたしもみなさんをお連れすると、両親に話しておきますね」



(第五章 おしまい)

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