第三章 ビジホのオーナー、地雷系に変わる!?

第14話 お嬢様と、どこへ行こう?

「中間が終わりました!」


「終わったなぁ」


 特に危なげなく、試験は終えられたはずだ。おそらくは。


 あれだけ遊んだのに成績がいいとか、萌々果モモカさんはバケモンだな。


 で、オレたちはいつも通り、ビジホ【OWO】に集まっていた。


「さてノブローさん、デートです」


「いやデートって」


 お嬢様の口から、頻繁にデートという単語が漏れ出している。


「お外で遊ぶんですから、デートと言っていいでしょう」


「そんな軽々しく言って、恥ずかしくないのか?」


「なぜです?」


「だって、オレとだぜ?」


 オレなんか連れ回しても、たいして面白いとは思えないんだが?


「幼なじみの女子がいるんだが、そいつはオレと一緒に遊んでもさして盛り上がらんとぼやいてるぞ。『リアクションが薄い!』とか」


 以前、莉子リコの推しているバーチャルアイドルのライブを見に言ったことがある。あいつばっかり盛り上がって、こっちはドン引きしてしまった。あいつの動きが、激しすぎるんだよなあ。


「推し活には、好みがありますからね。ぶっ刺さる方には刺さるのでしょう」


「そんなもんかねえ?」


「わたしは、ライブとかは行きません。が、主催はしたことがありますよ」


 JKお嬢様から、とんでもない発言が飛んできた。


「マジか」


「はい。資金援助しました」


 お嬢様にもなると、スケールが違う。ライブに行くんじゃなくて、ライブで融資をするとか。


「はじめて人に出資してみたのですが、かなり難しかったですね。お金を出している以上、相手の使い方に対してシビアになるんですよ」


「そうなんだ」


「仕出しのお弁当代にまで、口を出しかけました。みなさん同じ、アジフライ弁当でしたから。『ビュッフェの方が、スキキライが出ずに楽しめるのでは?』と、頭の中では発言していましたね」


「用意が大変だから、それはそれできつかったかもな」


「はい。勉強になりました」


 融資、つまり金だけ出す関係だったため、助言は控えたという。相手はプロだし、気遣いなどもあちらのほうが上だろう、と判断したようだ。

 

 でも、面白そうだな。推しにお金を払って、目標を叶えてもらうのって。


 オレも金が余ってきたら、そういう使い方をしよう。クラファンとか。

 計算上、どうやっても一人で使い切れないくらいは貯まってしまう計算だから。


「で、出かけるわけだが、特に予定はあるのか?」


 お嬢様だからな。自由時間も限られているのでは。


「水族館、美術館などもありますね。ひとまず何日かかけて、回れるだけ回ろうかと」


 美術館なら、予約しなくても混雑はしないだろうとのこと。混み合った中で見に行くような場所でも、ないからな。


「とにかく、外に出まくりたいと」


「はい。視野を広げたいので。どういった好みがあるのか、自分でもまだ把握できていませんし」


 たしかに。萌々果さんはまんべんなく、興味のあるものをつまみ食いしている感じだ。


「今は、どこに行きたい?」


「映画です! 見たい映画があるんですよ!」


 オレは映画なら、サブスクの動画サイトで見るけど。

 よほどみたい作品じゃないと、大画面で見ようとは思わない。

 

「この最新映画が、気になっています」


 見たいという映画のパンフレットを、見せてもらう。

 

「八〇年代に流行っていたやつの、最新版か」


「父が小さい頃の、作品だそうです」


 オレのオヤジも、このドラマはドンピシャ世代だって言っていたな。

 主人公コンビは還暦を過ぎているのに、バイクを手放ししてショットガンを撃つ。



 年季が入ってるなぁ。


「それと、こっちですね」


 もう一本は、SFアニメである。


「こちらは、前後編もあるんですよ」


 しっかし、見事なまでにデートムービーがない。


 それでこそ、黄塚コウヅカ 萌々果モモカって感じだな。

 

「どっちも見たいな」


「ですよね。それで、相談したかったんです」


 ほかは、小説が原作の実写ドラマだ。

 原作ととんでもなく、雰囲気が違うらしい。

 萌々果さんは、それを確認しに行きたいそうだ。


「JKのみなさんが、主人公役のアイドル目当てに見に行っていたのを目撃しまして」


「萌々果さんも、ああいうのがタイプなのか?」


「いえ。特には」


 たしかに萌々果さんって、男性アイドル好きとは思えないな。話題にも出したのを、見たことがないし。 

 

「つまり、四本とも見たいと?」


「はい。予算は潤沢にあります。ノブローさんがキツイと言うなら、この中から厳選しようかと」


「いや、全部見よう」


 この際だ。最後まで付き合おう。


「ありがとうございます。断られたら、真庭マニワさんを誘おうと思っていましたので」


「真庭さんだったら、全部見てそうだな」


「おそらく、見ているでしょう。もう一度見に行くことになるかなーと思って、誘いづらかったのです」


「わかった。オレがついていく」


「感謝いたします。楽しみですね。でも、ご予算は」


「なんの問題もない」


 オレが金を貯めているのは、こういうときのためだ。

 使うなら、ここだろう。


 人を楽しませられないで、何がディレッタントかと。


「なろうぜ、ディレッタントに」


「そうですね。ともに、好きを撒き散らしましょう」

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