自由に

夏目かや

第1話 自由に

いつも前を歩いている。

時々置いていかれそうになるので

急いでシャツの裾を掴んでスピードを遅らさせる。

でも、振り返る事が1度もなかった。

ねぇ、気づいてた?

私にはその時は笑顔がなかったんだよ。

追いつくのに必死で背中ばかりを見ていた。


ある時めずらしく振り返ったの。

顔は無かった。ただ真っ黒だった。

何か話しかけてるみたいだったけど

声が届かない。何を言っているんだろう。

私が立ち尽くすとその人の手が私に向かって伸びてきた。

「やだ!」

私は一歩後ろに下がった。

あ~。この人は私の彼だったんだろう。

でも、もう終わってたんだ。

だから振り向いてくれなかったのか。

「さよなら」

そう言って回れ右をして歩き出した。

もう私の前には遮るものは何もない。

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