伝説になぞらえて

降星灰夜

奇妙な一日

「こら!ヴァナ!もう朝ですよ!起きなさい!」

「はいはい、母さん。あと5分くらいしたらね……」

「でももうヴァンルは『何度起こしても起きてこないから先に待ってる』って言って外行ったわよ?」

「んー……お兄ちゃんが?先に……?」

 寝惚け眼を擦りながら、ヴァナは近くにあった時計を見る。

「あ、7時過ぎてる……7時過ぎてる?!」

(どうしよう、急いで準備しなきゃ!……えーっと、服どこいった…?昨日あれだけ準備したのに……あーもう、しょうがないからもうこの服でいいや!)

「あ、そうだヴァナ、朝ご飯は作っておいたから持っていきなさい。朝ゆっくり食べるわけにももう行かないでしょう?」

「えー別にお腹空いてないんだけど……」

「いいから持っていきなさい!」

 スカジはそう言うと、半ば無理やり気味にヴァナにサンドイッチを持たせて、外へと急かす。


 その後、ヴァナが小走りで待ち合わせの場所まで行くと、やはりヴァンルはすでに到着していた。

「ごめん、待った?」

「待った。」

「あ、やっぱり待ってた?ごめん……でも、お兄ちゃんの方から誘ってくれたのはとっても嬉しかったんだよ?」

 最近のヴァンルは人が変わったかのようだった。昔はヴァナが一緒に遊んで欲しいと言えばたくさん遊んでくれたし、スカジの手伝いも積極的に行っていたのに、最近はヴァナが話しかけてもどこか上の空で、いつも朝早くにどこかに行って夜遅くに戻って来るだけだった。だからこそ、ヴァナは久しぶりにヴァンルとどこかに出かけられることがたまらなく嬉しかったのだ。

「ここまで気持ちのいい晴れは久々だし、せっかくだから久しぶりにどこか行こうかと思って」

「ねね、どこに連れて行ってくれるの?お兄ちゃんが連れていってくれるなら私はどこでもいいよ」

「王都まで行って何か買い物するか、少し遠出になるが問題ないだろう?」

「そうだね、じゃあ早速行こ?」


 その後、王都までの森の中。ヴァナとヴァンルは一緒に行くのが久しぶりだからか、話が続かない。気付けば、彼女らの住む街の喧騒からは離れ、2人の間に沈黙が流れた。その沈黙を切り裂いたのは、誰かの悲鳴だった。

「……ヴァナ、関わるなよ?どうせこんな森の中で悲鳴とかロクな……ってオイ!」

 何かヴァンルが言っていた気がしたけれど、ヴァナにとっては一刻を争うかもしれない状況でグダグダしているわけにはいかない。彼女は急いで悲鳴の聞こえる方へ向かうと、男の子が熊に襲われて出血していた。

 その男の子は迫りくる“”を受け入れる準備をしているのか、それとも“”をすでに受け入れたためか、もはや目を閉じて騒ぎもしなくなっていた。

 ヴァナは無言で熊を吹っ飛ばすと、男の子の所へと駆け寄った。

「ね、大丈夫、大丈夫だよ!心配しないで、絶対私が助けるから!」

 そういうと、ヴァナは魔術で止血と治療を開始した。しばらくすると、その男の子は目を覚ました。

「あっ!よかった、目が覚めたんだね……助けられなかったらどうしようかと思ったよ……!」

「……?僕は確か熊に襲われてたはずじゃ……?」

「君、本当にたくさん出血してたからもう助からないんじゃないかと思って……本当に、本当に良かったよ……!」

「……なんで泣いてんだよ、僕別にと全く関係ない……あ」

「そんな事言わないの、応急処置しただけなんだから急いで王都まで行くよ」

(お姉さん……お姉さんか、いい響きだな。一回呼ばれてみたかったんだよね)

「いや、後ろ……」

「後ろ?それがどうしt!?」

ヴァナが後ろを振り向くよりも先に、さきほどの仕返しと言わんばかりに熊はヴァナの背中を切り裂いた。

「いったいなぁもう……生きてたならそのまま逃げてればいいのに。不意打ちでもなきゃの攻撃が当たるわけないんだから」

「……助けてもらった僕が言う事じゃないけどブツブツ言ってる余裕は––」

彼がヴァナを急かそうとしたその時、急に熊の頭上から大きな岩が落ちてきた。

「は? えっ……え? どういうこと? なにそれ?」

「ん? セイズ知らないの? じゃあ後で教えてあげるから、とりあえず王都行くよ? ほら、おぶってあげるから」

「……」

「どうしたの? 遠慮しなくていいよ、君よりも私はお姉さんなんだからね」

「いや……さっきまで血が出てた所に乗るのはちょっと心配……」

「ああ、別にあんなのちょっとした切り傷みたいなもんだから気にしなくていいんだけど、じゃあ抱っこの方がいい?」

「まだそっちの方がいいかな……」

「そう?じゃあ持ち上げるね」

「あ、ありがと……」

ヴァナは男の子を抱き上げ、王都へと再出発する。


「それで、結局セイズってなんなの?」

「んー、大体魔法みたいなものかな。グルヴェイグ様は––……いや、セイズがわからないならグルヴェイグ様を知ってるわけないか」

ヴァナは少し悩んだ様子を見せた後、また話し始めた。

「そういえばさ、君名前なんていうの?聞いてなかったよね。あとなんであんな山にいたの?道から外れると危ないよ?」

「……僕はクヴァシル。どうしてって言われてもわからないから……」

「え?」

「気づいたらここにいた」

「親御さんは?」

「会った記憶ない」

「記憶喪失?」

「多分部分的にそう」

「何歳?」

「……わからない」

「どういうこと?」

「僕が覚えてることは森の中で目覚めた矢先に熊に襲われたことだけ」

「ふーん……まあ、とりあえず信じてあげるけど……ああ、そういえば聞いてばかりで私の自己紹介はまだだったね。私はヴァナ。今ここにはいないけどヴァンルって言うお兄ちゃんがいます。しばらく一緒にいることになるだろうからよろしくね」

「あの、しばらく一緒にいるってどういう?」

「えっ?だってクヴァシルは親御さん会ったことないんでしょ?じゃあ身寄りもないだろうしうち来るかなって」

「いや、ありがたいけどさ?さっきお兄さんもいるって言ってたし同意得なくていいの?」

「あー、まあ多分大丈夫でしょ。ちょっと最近変だけど根は優しいし。きっとね。うんうんうん。」

(本当に大丈夫かなこの人のお兄ちゃん、てかそれはそれとしてさ……)

「……えーと」

「どうしたの?」

「このお姫様抱っこみたいなの……」

「恥ずかしいの?」

「そりゃそうでしょ……」

「ふーん。でもこれ以外で抱っこする方法なんてないよ?」

(記憶がないのかと思ってたけど一般的な言葉は知ってるんだね、意外だわ)

(よく考えたら身長大して変わらない人に抱っことかされる時点でどんな抱かれ方でも結構恥ず……?想像しちゃったよ、他の抱かれ方。結局恥ずかしいじゃん)

「まあ……そ、そうかも?じゃ、じゃあ仕方ないか……仕方ないよね……」

「やっぱりおんぶの方が良かった?」

「傷ついてるでしょ、お姉さんの背中も。何だか悪いし大丈夫」

「本当にちょっと切っただけみたいなもんだから気にしなくてもいいのに……じゃあ、お兄ちゃん見つけたらおぶってもらおうか。それじゃ、お兄ちゃん探してる間にグルヴェイグ様とセイズの話でも教えてあげるね」

「ありがとう」

「まずね、この国の南方は魔王領と接してるんだけど、昔はもっと国境は北によってたらしいの」

「ちなみに北と東と西はどうなってるの?」

「北と東の方は高い山脈があるんだけど、その向こうには別の国があるらしいよ。私は行ったことないけど。あと、西は海ね。結構綺麗だからたまーに私も遊びに行ってたな。今度またお兄ちゃんと行けたら……ああ、いやなんでもないよ」

(別に隠す必要ないんじゃ?え、あるの?)

「話を戻すね、それでまあ今よりももっと強かった魔王軍が王都まで攻めてきたんだけど、その時に現れたのこそがグルヴェイグ様だったの!!」

「で、そのグルヴェイグって人が魔王軍を撤退させたの?」

「撤退……よりももっとすごかったんだよ。もちろん軍隊はいくつも壊滅させたし、こっちを攻めてきた軍の指揮官だったフリュムを倒してからはもう総崩れになって。そのまま攻め込んで魔王軍の兵器の作成者だったミーミルと魔王の王后だったアングルボザまで討ち取ったんだって」

「へぇ、兵器の作成者を倒せたなら大分弱体化してるんじゃない?もう」

「相手も弱体化してるだろうけど、何よりこちら側も強くなったの」

「ふーん。今までの話を聞いている限りだと弱体化する要素はあっても強くなる要素はないような気がするけど」

「グルヴェイグ様が使っていた魔法……それがセイズって言うんだけど、グルヴェイグ様はセイズを教えるために本に書いて残したり、それを教えるための学校を設立したりしたの」

「お姉さんは学校に行ってたからセイズが使えるの?」

「私は学校行ってないよ。ただ生まれた時から使えただけで……あ、初歩的なやつだよ?小石を作り出して相手の頭にぶつけるみたいな」

(天才……?)「さっきのはかなり大きかったように見えたけど」

「母さんにグルヴェイグ様の本読ませてもらったんだよ。まあところどころわからないところもあったけど……」

「わかんないところあったのになんで身についてるのそれセイズ

「うーん、なんかパッてやったらできたんだよね」

(天才だ……)「あー……そう、そっか」

「家帰ったらクヴァシルも本貸してあげるから読んでみてね?」

「うんまあ一応少し読んでみたいから貸してもらえるなら読むけど……」

「じゃあ家に早く帰るためにも王都まで……ん?ねえ!お兄ちゃん!何で勝手に先行っちゃうの……私とっても痛かったんだよ……寂しかったし……服は引っ掻かれて破れるし……っ……ぅ……」

ヴァナは泣き始める。

(えっ?何度か別にちょっとした切り傷だから問題ないとか言ってなかったっけ?もしかして強がってただけ?だとしたら悪いことしちゃったんじゃ……?)

「普通の生物相手に一撃貰っただけでそんなに痛いわけないだろ。嘘泣きしてるんじゃねえよ甘えんな」

「えー、ひどーい。少しは可愛い妹の言うこと信じてくれてもいいじゃん」

「仮に痛かったとして、だけで済んでよかったじゃないか。万が一魔物の一撃を油断してる時にお前がくらっていたらそのガキ共々あの世行きだろ」

「でもこっちに魔物はいないはずだし……」

「いないとは限らないだろ、潜伏してる可能性だってあるんだから」

「えー、王都付近の森にいるわけないじゃん。真逆なのに」

「その油断が命取りなんだよ、反省しろ」

「はいはい、で、お願いなんだけどさ、この子おぶってあげてくれない?」

「は?何で俺が知らないガキをおぶらなきゃいけないんだよ」

「私の背中見えない? こんなに血が出てるんだよ? 無理だよ、痛いもん。それにもう知らないガキじゃないよ、これからお兄ちゃんにとっても義理の弟になるんだし」

「血なんか出てないだろ。って、は?」

(義理の弟?なに?どういうこと?初対面の助けた男子と結婚すんの?は?え?正気?熊に頭やられた?思ってたよりこいつやばい?)

「え?」

(弟……?って言ったよねこのお姉さん。養子にでもするのかな、いきなりすぎるけど。)

「そういうことは俺じゃなくて母さんに言うべきだろ。そんな素性もよく分からないガキを身内にするのは反対だがな」

「身内どうこうはよくわからないけど、実際お母さんに聞いてからの方がいいんじゃ……?」

「まあ、確かに私の独断でするのはよくないね。とりあえず母さんに聞こっか……でさ、おぶってくれるの?結局」

「……王都着くまでだぞ。はぁ……」

「ありがと、お兄ちゃん!」

「……えっと、失礼します」

「ま、言うてもうすぐ王都だがな。ほら、門が見えてきただろ?」

「じゃあ、見張り番の人に開けてもらえるように話してくるね」

ヴァナは門へと向かう。

「こんにちは、今日は少し急いでるからできるだけ早く開けてくれる?」

「ヴァナちゃんが急いでるって珍しいね。何があったの?」

「あの子熊に襲われてて結構重症そうだったから、一回熊ぶっ飛ばしたあとにこの子の止血してたらまだ死んでなかったみたいで、背後からガッと」

「うわ、痛そう……いくら相手が普通の生物でも油断するとそうなるのか。この仕事辞めたくなってきた」

「まだ普通の生物相手なだけいいじゃん、一度も負けてないんだし。それに南の見張りの人は魔物相手だよ?」

「確かにそう考えるとマシだ。油断さえしなければ負k」

「妹が傷負ってるから早く中入れてくれます?このガキも一応重症なんだけど」

「あ、お久しぶりですね、ヴァンルさん。大きくなりましたね」

「久しぶり……?まあいいか、そんなことはどうでもいいからさっさと開けろ」

「そこまで言うことないでしょお兄ちゃん。別に家族に当たる分には最悪いいけど外の人にまでそんなことしたら……」

「まあまあ、そういう年頃なんでしょうお兄さんは。昔は毎日のようにここで見張ってて気づいた話とかヴァナちゃんと一緒に聞いてくれてたのにね」

「ほんと、うちの兄がすみません……最近は家でもあんな感じで……」

「昔はもっと優しかった気がするけどねぇ。まあでも時間が経てばきっと元に戻ってくれるでしょ」

「う る せ え さ っ さ と 開 け ろ」

「お兄ちゃん言い方!言い方どうにかして!……まあそれはそれとして早く開けてもらえると……」

「はい、開けましたよ。ちゃんと診てもらってね」

「本当にうちの兄が……」

「いや、長々喋ってたのも悪かったからね、急いでたのに。ごめんね」

こうして、王都の中に入ることができたヴァナとクヴァシルは治療を受けることができたのでした。









ここから下はキャラクターの見た目を書いて置いておきます。

自分の中のヴァナやヴァンル、クヴァシル、スカジの見た目で読み進めたい!って方は、ここより下は読まないでいただいてもいただいても差し支えありません。

一応読者様と作者の中である程度一致してた方がいいかなって思っただけなので。

今後新キャラが出るたびにすると思います。多分





ヴァナ

158cm

金髪(ミディアムボブ) 目の色は青紫色

18歳


ヴァンル

174cm

赤髪(短め) 目の色は青緑色

20歳


クヴァシル

164cm

銀髪(出会った時はぼさぼさ) 右の目は桃色、左の目は水色

年齢は不明だが見た目は15〜16歳くらい


スカジ

167cm

ヴァンルの髪色を少し薄めたぐらい 目の色は青色

42歳

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