第7話 音楽教室の大友先生
俺の通っている音楽教室は大友さんのお母さんが運営し指導する教室だった。俺が「ピアノとか弾けるようになりたいな」といった時に「それなら、私の家の音楽教室くる?」と大友さんに誘われたのだ。
音楽教室では、主にピアノと発声の練習をしている。『大友先生』の指導はとてもわかりやすくて、上達を実感できるものだった。
「先生はピアノを初めて何年になるんですか?」
「大体、三十年くらいになります。ちなみに、夜鷹君には八年ほど練習すれば"今の"私を超えられる才能がありますよ」
この人は、音楽教室を始める前の現役時代にはピアノのすごい大会で何回も優勝したことのある、とにかくすごい人だ。そんな人が俺に才能があるというのだからそうなのだろう。
しかし、現役を引退した大友先生を超えるのに八年もの年月がかかるのを才能があると言っていいのか、初心者の俺にはよくわからない。
「どうでしょう?やはりコンクールに出てみませんか?本当は申込期間をすぎているのですが、私の推薦で今から特別出場させてあげますよ?」
コンクールに出るのはもう少し上手くなってから、そう思い断っていたが、やっぱり、出てみてもいいかもしれない。
ピアノを続けていくにしても、まずは明確な目標が必要だろう。コンクールに出ることはちょうどいい機会になる。
「俺がコンクールに出るとして、優勝することはできますか?」
俺がそう聞くと、大友先生は何を馬鹿なことを聞くのだという顔をして言った。
「夜鷹君は、まだピアノを習い始めて二ヶ月程度でしょう?確かに才能はありますが、今回のコンクールに出る方々は小学生とはいえ、物心がついた頃からピアノを弾いてある方達です。舐めたことを考えて、ろくに練習もせずに出れば恥をかきますよ?それが嫌なら、出るように言った私が言うのもなんですが、出ないほうがいいでしょう。もし、出たいなら恥をかかないように練習しましょう」
そう言い終わった歌詠先生の真面目な顔を見て、出るからには本気で取り掛かろうと決心がついた。
「はい。俺は初心者です。きっと、練習をしたとしても恥をかく可能性があると思います。ですが、やるからには優勝したいです。大友先生、恥をかかないためじゃなく、優勝するためにピアノを教えてください」
俺の本心をありのまま伝える。生意気なことをと怒られるかと思ったが、大友先生は笑って頷いてくれた。
「そうですね。えぇ、そうでした。恥をかかないためではなく、優勝するために練習するんでしたね。本当に失礼しました」
大友先生は俺に頭を下げた後、「では、優勝するための練習をしましょうか」といって、いつもより厳しく指導してくれた。
そうして練習が終わり、帰る時に大友先生から「夜鷹君の言動は、小学一年生とは思えませんね。悪い意味ではないですよ、練習が嫌だ、めんどくさいと騒がれるよりは好感が持てます」と言われた時には少しだけ冷や汗をかいた。
こうして俺のピアノコンクール出場が決まった。このコンクールで怜奈や大友さんと競い合うことになるのだが。それはまた、今度のお話。
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