18:人形志願

「ヒカルー、ちょっと来なさい!」


 姉のアオイが呼んでいる。

 今日は友達が来るから部屋から出てくんなと言われたのに、言う事がころころ変わる。だからってそれを指摘するとプロレス技を掛けられる。いくら男女とはいえ5歳も離れていれば勝ち目はないんだ。小学校のクラスメイトにも姉がいる子は何人かいるけれど、だいたいこき使われるらしい。年が近くてもそれなんだから、離れてたらなおさらだよ。


「ヒーカール!いないの?!」

「いるよ、いまいく!」


 姉の部屋にはいると、姉の友人のユカリさんとミヤちゃんがいる。

 ユカリさんは高校生にしてはかなり小柄で、短く切りそろえた黒い髪もあって日本人形みたいだけど、うちに来るとよく僕に悪戯を仕掛けてくるので少し迷惑。

 反対にミヤちゃんは金髪に染めて背も高くてド派手だ。近所に住んでいて、僕が幼稚園児の頃からよく遊んでもらってた。水鉄砲とか花火とか買ってきてくれるし、大好きだ!


「ひっかっる君。ちょっとコレ着てみてくれる?」


 ミヤちゃんに差し出されたのは女ものの服だ。なんで?


「いやぁ、ちょっと着れなくなった服とか交換しようって集まったんだけどね。せっかくだからヒカル君に着てもらいたいなって」

「なにがせっかくだからなの?」

「細かい事は気にしないで。ほら、脱くのが嫌ならその上からでいいから」


 抵抗もむなしく、あっという間にワンピースとカーディガンを着せられてしまう。


「ちょっとサイズ大きいですよね。私の服ならもしかして丁度いいのでは?」


 目をキラキラさせたユカリさんが自分の服を目の前で脱ぎ始める。


「うわぁ!」

「なに悲鳴上げてるのよ。マセてるわね。ユカリ。こっちの着てなさい。エロガキが見てるわよ」

「エロじゃねぇし!」

「んふふー。ちょっと刺激が強かった?」


 姉と二人掛かりでハイウエストのパンツとジレに着替えさせられる。


「これなら、別に女の服じゃないし……」

「んふふーボタン逆なんだよ~」

「うー、なんか香水の匂い写ったらいやだから早く着替えたいよ」

「え?香水とかつけてないよ?」


 そんな事ない。なんかいい匂いする。


「よし、私の中学の時の制服も着せてみるか」

「わ、ユカリのとこセーラーだったんだ?」

「やだ、それはヤダ!」

「いいからいいから」


 後ろからミヤちゃんにギュッと掴まれて、またあっという間に着せられてしまう。


「口では言う割にちゃんと協力するよね……」

「ユカリもそういう事言わないの。ヒカル君、水着とか着せられる前に素直にお着換えしましょうね~」


 一時間ほど、着せ替え人形にされ、化粧までさせられて盛れるアプリで写真も撮った。

 なんだかだんだん暑くなってきて、訳が分からなくなっていく。

 きゃあきゃあ燥ぐユカリさんと、ずっと僕を膝の上に乗せるミヤちゃんの熱気で逆上せたのかもしれない。


 次の日、昼頃に起きて来た姉に「次はミヤちゃん達いつ遊びに来るの?」と聞いて見ると、姉はびっくりした目で僕を見て「もうダメかもしれんね。どれがトドメだったのか……」などと奇妙な事を言って、部屋に戻っていった。

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