第68話 興味と違和感
真は鼻の頭に皺が寄りような形相で呼続を睨み付ける。
「好きじゃないのに、何で話を聞きたがるんですか」
「興味がある。僕には見えないから、どんな風に見えてるのか。どうすれば解決するのか知りたい」
呼続はそう言って、尚もにこにこと目を細めている。小さい頃の真が転けた時に、こちらを見ていた時の親戚の顔に似ている。
「つまり怖い話が好きなんですよね?」
「好きじゃない。興味がある」
「……それって屁理屈じゃないですか?」
真がうんざりしてそう言うと、呼続は『何故わからないのかわからない』とでも言いたげな顔で真を見た。
「僕はそうは思わないよ。好きである事と興味がある事は明確に違う」
「……あ、もう大丈夫です」
これ以上聞くと面倒臭い事になる、と真は判断して、即刻話を打ち切った。
呼続は小首を傾げて尚も不思議そうな顔をしている。
真は話題を変える為に、以前から疑問に思っていた事を口に出した。
「呼続先生の待ってる情報の中に、私と同じ状況の人はいますか?」
「うーん……」
呼続はそう小さな声で唸り、首元を右手で軽く摩った。
そのまま、考えるように暫く黙り込んでいたが、何か脳内でヒットしたのか、徐に口を開いた。
「見聞きした話では、圧倒的に金銭関係か痴情のもつれが多い。伏見さんのご実家に莫大な資産があって、伏見さんに相続権が委ねられているような状況か、先祖代々同じ症状が出ているのでない限り、有力なのは恋愛関係じゃないかな?」
「恋愛関係……」
そう言われると、真の思い付く事は一つしかない。
けれど、ゆうりが例え東浦の事を好いているとしても、呪われる程恨まれているとは思えなかった。
心理的には負担がかかっているものの、話せば分かり合えると思う。
(私が楽観的なだけで、ゆうりはもっと重く捉えてる?……)
「思い当たる事が一つだけありますけど、その相手が呪いをかけてくるなんて思えません」
「……人の心はわからないからね」
苦笑と共にそう言われ、確かに、と真は納得した。けれど、深い所ではその言葉を否定してしまう。
「お祖父様のお宅に行くんでしょう? そうしたら、また何か状況が変わるかもしれない」
「はい。今日は寝ないで、明日の朝始発で行きます」
「成長期の睡眠時間が減るのは心配だけど……まあ、非常事態だからね」
「そうですね。一人で長旅なんで、途中で寝ないか心配ですけど」
溜め息と共にそう言うと、呼続は「確かに」と一つ頷いた。
「今日は帰ります。ありがとうございました」
「気を付けて帰るように」
「はい。さようなら」
さようなら、と返されて、真は素直に保健室を後にした。数歩、歩きながら、何か違和感を感じる。
足を止める事なく昇降口の辺りまで進んだ所で、ふと違和感の正体に気付いた。
(“また話しにおいで“って、言われなかったな。いつも、『また明日』とか、『いつでもおいで』とか『伏見さんなら毎日でも大歓迎』とか気持ち悪い事言うのに)
それに気付いて、何だか背中がむずむずするような気持ち悪さを感じた。
それを嫌な予感と、人は言う。
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