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仁美さんは従姉妹のお姉さん。いつもニコニコと笑っている、綺麗で優しくて、わたしの一番好きな人。
物心付く前にお母さんが居なくなった――死んだのか、家を出ていったのか、誰も教えてくれなかったのでよく知らない――わたしにとって、仁美さんはお母さん以上にお母さん。
でも、これを仁美さんに言うと「私はまだそんな歳じゃない」って怒られちゃう。仁美さんが二十八歳で、わたしが十四歳。有り得なくはないよね。
仁美さんと出会ったのは、五年前。わたしが九歳の時。何をしていたのかあまり覚えていないけど、夜の公園で一人ぼんやりとしていたわたしに仁美さんは声をかけてくれた。
「どうしたの、あなた? 家に帰らないの? ご両親が心配してるんじゃない?」
声をかけられて見上げると、仁美さん――この時は見知らぬスーツ姿の女の人――が心配そうにわたしを見ていた。わたしは何も考えず、率直に首を横に振った。
わたしに帰るべき家なんて存在しなかったし、心配してくれる家族もこの世には一人も居なかった。と思う。たぶん。
たぶん、というのは、何故だかわたしは仁美さんと出会う前のことを全くと言っていい程覚えていないから。
何も言わずに居ると、仁美さんは困った顔でスマートフォンを起動させたものの、少し考えてから何もせずに鞄に仕舞った。そして、キョロキョロと辺りを見回してから、わたしの傍にしゃがんで目線を合わせ、真剣な顔をした。
「あなた、名前は?」
「……彩香」
「彩香ちゃんね。私は
そこで、また仁美さんは眉間に皺を寄せて、少し逡巡してから、
「私と一緒に来る?」
「いいの?」
あまり言葉の意味も理解せず、お腹が空いたから、なにか食べさせてくれるかも、と期待を込めてわたしは問い返した。
仁美さんはふっと笑って、
「これからよろしくね」
と、今と変わらない優しい笑顔でわたしの手を握って、この部屋に連れてきてくれた。
それまでのことは殆ど覚えてないのに、仁美さんとこの部屋で暮らし始めてからのことはしっかりと覚えている。
仁美さんが初めて作ってくれた料理はハンバーグ。わたしに食べてもらうためだって張り切っちゃって、でも料理なんてあんまりしたことなかったみたいで、焦げてたり逆に生焼けで慌てて電子レンジにかけてと大変だった。
初めて一緒にお風呂に入った時は仁美さんが、わたしのボサボサゴワゴワだった髪を、サラサラになるまで時間を掛けて丁寧に洗ってくれたから、二人とものぼせそうになった。
初めて一緒に寝た時は、知らない場所、知らないフワフワの布団でなかなか寝付けなかったわたしの手を、ずっと握っていてくれた。
それまでの記憶がないわたしにしてみれば、大袈裟かもしれないけど、きっと、わたしの人生はあの日、仁美さんが手を握ってくれた日から始まったんだ。
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