第12話 家族の秘密

門司港の夜は、冷たく静かだった。風が港の水面を揺らし、遠くで船の汽笛が鳴る。涼介は、自室のデスクに広げられた資料に目を落としていた。祖父が詐欺に遭った事件の詳細を再調査する中で、彼の胸には何とも言えない不安が広がっていた。


「どうしてこんなことが起きたのか…」

涼介は自問しながら、古い新聞記事や警察の報告書を読み返していた。祖父が信頼していた人物が突如として裏切り、資産を詐取したという事実が、涼介の頭から離れなかった。


彼は事件の関係者のリストを眺めていたが、その中に一つの名前が目に留まった。「田中勇人と田中美咲…」香織の実の両親の名前がリストに載っていた。


「まさか…」

涼介は信じられない気持ちで、さらに調査を進めた。彼らは元警察官でありながら、祖父の資産を詐取する計画に関与していたことが記されていた。


涼介は香織のことを考えた。彼女は自分の両親がそんなことをするわけがないと信じていた。しかし、証拠は揃っていた。彼は香織にこの事実を伝えるべきかどうか、深く悩んだ。


翌日、香織と涼介は暗い部屋の中で向かい合っていた。香織の表情には、不安と決意が交錯していた。


「涼介、何かがわかったの?」

香織は、声を抑えながら尋ねた。


涼介は深く息を吸い、

「香織、君の両親について話さなければならないことがある」

と静かに言った。


香織の心臓が一瞬止まったような気がした。

「何のこと?」


涼介は香織の目を見つめた。

「僕が再調査している祖父の事件、その背後には君の両親が関与していた可能性があるんだ。」


香織はその言葉を飲み込むのに時間がかかった。彼女は自分の両親がそんなことをするわけがないと信じたかった。

「それはどういうこと?」


「君の両親は、詐欺グループに脅迫されていた。君を守るために、彼らはそのグループに協力せざるを得なかったんだ。」

涼介は慎重に言葉を選びながら説明した。


「私の両親が…?」

香織の声は震えていた。彼女はその言葉を信じられなかったが、涼介の真剣な表情が全てを物語っていた。


「そうなんだ。君の両親は、詐欺グループの計画に協力することを強いられ、祖父の資産を狙う計画に関わってしまった。しかし、彼らは最終的に君を救うために命を賭けたんだ。」

涼介の声は穏やかだったが、その内容は重かった。


涼介は説明を続けた。

「当時、祖父の資産がどのように詐取されたのかを調べたんだ。すると、君の両親が祖父に接触していた記録が出てきた。彼らは、偽の投資話を持ちかけ、祖父の信頼を得た。」


香織はその言葉に衝撃を受けた。

「そんな…どうして…」


「君の両親は、詐欺グループに脅迫されていたんだ。君が人質に取られていたから、彼らは従うしかなかった。」

涼介は悲しそうに語った。


香織はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。

「涼介、真相を確かめたい。両親に話を聞いてみよう。」


その夜、香織と涼介は香織の現在の両親の家を訪れた。彼らは静かにリビングに通され、暖かな光の中で話を始めた。


「お父さん、お母さん、私たちに話してほしいことがあるんです。」

香織は真剣な表情で切り出した。


両親は顔を見合わせ、深いため息をついた。現在の父親が静かに言った。

「分かった。君たちには真実を知る権利がある。」


母親は震える声で語り始めた。

「君の実の両親は立派な警察官だった。でも、彼らは詐欺グループに脅迫され、君を守るために仕方なく協力したんだ。」


父親は古い新聞記事の切り抜きを取り出し、香織に手渡した。

記事には、

『勇敢な警察官二名、詐欺グループから娘を救出中に殉職』

と見出しがついていた。香織はその見出しを読み、胸が締め付けられるような思いを感じた。


「彼らは、君を誘拐され人質に取られていた。詐欺グループの要求に従わざるを得なかったんだ。そして、涼介さんのおじいさんの資産を詐取する計画に巻き込まれてしまった。」

父親は続けた。


香織はその言葉を受け入れるのに時間がかかった。彼女の心は、両親の記憶と現実の間で引き裂かれていた。「そんな……」


「最終的に、あなたの両親はあなたを救うために命を落としたの。彼らはあなたを守るために全てを犠牲にしたの。」

母親は涙を拭いながら語り続けた。


「だから、君は今、私たちの家族としてここにいるんだ。」

父親は静かに言った。


香織は涙を堪えきれず、両親に抱きついた。

「お父さん、お母さん…」


涼介はその光景を見守りながら、心の中で決意を固めた。

「香織、君の両親の無念を晴らすためにも、真実を明らかにしよう。」


香織は涙を拭い、「涼介、ありがとう。私たちで真実を突き止めよう」

と強い決意を込めて答えた。


二人は再び一つの目標に向かって歩み始めた。過去の闇を乗り越え、未来を切り開くために。

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