No.1ホスト、懺悔される

「これで大体は分かった?今あんたが置かれてる状況」

「大体は分かったけど‥なんかまだある顔じゃん?どうしたん?」

「それは‥また今度話すわ。実際に見た方が早いしね‥。」


何とも言えない複雑そうな顔をしながら、兄貴は意味深に言った。色々、攻略キャラとシナリオについては分かったけどまだ1番重要な事を教えてもらってない…。


「で、スカーレットの事は?シナリオも大事だけど、これが1番大事だろ。」

「そうだよね…やっぱそうなるよね…」


何だか、後ろめたそうな様子で兄貴はスカーレットについてぽつぽつと話し始めた。


そもそも、兄貴が前世の記憶を取り戻したのは5歳の頃だった。前世でこのゲームをプレイしていた事もあり、スカーレットに対してはあまり良い印象を持っていなかったらしい。だから、記憶を取り戻してから、あからさまにスカーレットに対して冷たい態度を取って避けていたらしい。


「私ね‥いくら何でもあの頃はスカーレットに対して酷いことしたなって思うの。確かにスカーレットは悪役令嬢だったけど…それでも‥その前にあの子は私の妹だった。よく知りもせず、ただゲームでのスカーレットだけを見て判断して‥」


申し訳なさそうに、そして悲しそうに兄貴は懺悔をした。

スカーレットは幼少期、父親は戦争で家におらず母親は、スカーレット産んだ後肥立ちが悪くて寝たきり‥要するに誰も愛情をかけてくれる人がいなかった。乳母はいるもののただ事務的に世話をするだけ。だから、スカーレットには兄しかいなかった。だけど‥兄からも拒絶された。スカーレットは何度か兄貴と仲良くしようと試みたらしいがそれも全て拒絶された。それからスカーレットはずっと独りだった。誰にも心を開けない、他人からの拒絶に怯え愛されているか言葉で確認しなければ、不安で不安で仕方がない‥そんな子だったらしい。婚約者であるシアンにも‥常に自分が愛されているか確かめないと気が済まなかった。多分、シアンじゃなくても良かった。スカーレットはただ、自分の事を無条件に愛してくれる人が欲しかったのだろう、自分の死がちらつく事など関係なく。


前世では、ホストをやってた頃はそういう子達が多かった。幼い頃貰えなかった愛情を求めて、恋人に裏切られた傷を慰めてもらう為に‥理由はどうであれ皆、ただ愛されたくて俺に会いにきてた。


「あんたに謝っても仕方がないかもしれない‥だけど、本当にごめん。スカーレットは、確かにコミュ障だし笑顔も死ぬほど下手くそで表情筋が壊れてんの?ってぐらいに怖い顔しかできない子だけど、なんとなく伝わるの。多分、この子はゲームのあの極悪令嬢とは違うって‥。まぁ、それに気づいた時にはもう、手遅れでどうする事も‥できなかったんだけどさ。」


兄貴は、拳を力一杯に握りしめて唇を血が出るくらい噛んで‥懺悔した。


「それは‥スカーレットに直接言ってやって欲しかった‥。でも今は、俺がスカーレットだ。だから、その謝罪はちゃんとスカーレットとして受け取るよ‥兄貴、いや兄さん。」

「あ、ありがとう‥それから、今まで本当にごめんな。」


兄貴は静かに、涙を流した。俺も、なんでか分からないけど、どうしようもなく悲しくて‥それから何故か少し安心して気付けば涙を流していた。


まるでスカーレットの感情が直に流れ込んでくるように。

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