バス停にて
丸膝玲吾
第1話
触れた感触はあった。
ある夏の日、月曜と火曜の間に感触が存在している。体はすでに土曜日を跨いだ。記憶は脳にあるから平日の感触とは地続きの私だ。
それはフラスコのように細い首があって下の方が膨らんでいた。膨らんでいる部分はゴムボールのようにぷにぷにしていて、首の部分はガラスのようなしっかりとした冷たい感触があった。
今、私はベンチに座っている。長く緩やかな坂道の上、地面が平坦になり空をめざすことを諦めた場所にそれは置かれていた。
雨に打たれ風に吹かれ白く変色した青いベンチは、なんとかその機能を保っている。
目を瞑る。後ろに生えている楠の方から蝉の音がした。坂の下から噴き上げる生暖かい風が頬を触った。まつ毛が揺れた気がした。日の光を黒い髪が吸収していく。徐々に知覚が馴染んでいく。
手にあの感触が蘇る。上部のガラスのように硬い部分を手に持ち、下の柔らかい部分を股間に押し当てる。ぐにぃっと性器が押し込まれる。
地中に水が染み込むようにじんわりと快感が股間に集中していく。ぐりぐりと手首を回して柔らかい部分を押し当てる。むくむくと性器が起立していく。
ブォン、と左の下り坂の方から音がした。目を開けてそっちを向いた。下り坂を登っていくバスが姿を現した。アスファルトから登る湯気で輪郭がゆらゆらと揺れていた。
立ちあがろうとした時、ズボンの布を突き破ろうとする棒に気づき、尻をまたベンチにつけた。あまり伸びない綿パンツに押し当てられたそれは痛いぐらいだった。スウェットとか柔らかい生地のズボンを履けばよかった。
バスは止まりプシュッと空気が抜ける音がしてこちらに車体が傾いた。ドアが開き、目の前のドアは腰を上げない私を見てすぐに閉まった。前側のドアから一人女性が降りてきた。
まんまるく開かれた二重に小さい唇。主張の少なく調和の取れた鼻に、まっすぐ伸びた黒髪は後ろで一つに結んでいる。紺色のジーパンを履き、白色のシャツを豊かな胸が押し上げている。
女性は地面に足をつけるとこちらを見て、歩み寄り、私の横に座った。甘い匂いがした。音もなくバスが去った。
ズボンの起伏は更に激しくなった。私は自分を恥じ、上体を前に倒して体を折り曲げた。ベンチの下にいるアリのために影を作るようだった。
女性が私の左の太ももに手を置いた。甘い匂いがした。女性の顔が近づいて、彼女の息遣いが聞こえた。チラリと横を見た。彼女の丸い目に私の顔が映った。瞬きをするといなくなった。
計10本の振動する、肉感を持った指に私は耐えられなかった。ズボンが粘っこい精液で濡れた。
女性はそっと私の腕を取って、胸を触らせた。指がそれに沈んだ。しばらくその感触を味わっていた。が、突然、太陽の光よりも強い羞恥心が私の体を貫いた。
私は手を離そうとしたが、本能がそれを押さえつけた。私はすでに官能の奴隷となっていた。
女性は私のズボンの中に手を入れて、下着を指で剥ぎ、性器を直接触った。私は何の抵抗もしなかった。再度膨らんでいく棒を熱った目で眺めていた。
彼女は手を上下にゆっくりと優しく動かす。彼女が口付けをする。舌を絡めて唾液を飲み込む。口の股間に熱が集まって、脳がひどく冴えていく。自覚を持って彼女の口の中を舌で舐めた。
私たちは暫くそうしていた。手に持っていた三角フラスコの触感が消え、確かに存在する肉感に満たされた。
蝉の声はもう聞こえなかった。
バス停にて 丸膝玲吾 @najuna
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