02. 役割
物語が大きく動いたのは1年前……恒神星の年の魔物討伐が終了した僅か半年後、精人の統治する地で突如、瘴気の異常発生が起きたのだ。
この大陸の生物たちにとっての驚異、それは瘴気が生み出す魔物だ。
元々、国境に拡がる、黒針林の樹海の奥でのみ発生するとされる瘴気。
周囲の動物の躯を凶悪な魔物にかえるため、放っておけば、魔物が森の外まで行動範囲を広げ、各地に災害級の被害をもたらす。
そのため、互いを牽制し合う精人族と竜人族ではあったが、数百年前に締結された条約により、3年に1度、魔物が増加するとされる恒神星の年に、双方ともに大規模な討伐隊を組み、数ヶ月をかけて、樹海から魔物を一掃するのだが……
ごく稀に、何の変哲もない地で瘴気が発生することがある。
平和な地が、突如魔物の大群に蹂躙され……
精人族を長とし、弱小種族まで巻き込み急遽編成された討伐隊だったが、力及ばず。
いくつかの都市が魔物の襲撃を受け壊滅した後、ようやく自らの手に負えないと悟った精人族が、援軍を求めた相手……それが、北の地に君臨する竜人族だった。
周囲の魔素を自在に具現化する能力を持つ竜人。
魔素で作り上げた大剣と、一閃で大岩を薙ぐほどの力を持つ、竜人の支援部隊のおかげで、魔物は瞬く間に殲滅され、平和を取り戻すことができた。
しかし、条約にはない、支援部隊の派遣の見返りとして……竜人族の王は、未婚の若き精人族の姫をひとり、側室として寄越すように、要求したのだ。
数多の精人のなかでも、姫と名乗れるほどの皇家の直系の血を継いだものは数少なく、その中でも未婚の若い者などは一握りしかいない。
そこで白羽の矢が立ったのが私だった。
皇城の隅で、物乞いのような暮らしをしていた私を、誰が思い出したのか。
ここぞとばかりに、利用価値を見出したわけだ。
叔父でもある、皇帝の御前に立ち、唐突に命じられた任に……
物語のモブでしかないと思っていた私が、物語の序盤で命を落とす、端役だったということに気づいた。
側室として送り込まれてすぐに、竜王の不興をかい、あっけなく斬り殺された精人族の姫であったのだと。
そのことに気づいたばかりの頃は、なんとか惨めな運命を回避しようと抗った。
だが所詮、私がどれだけ小さな力で抗ったところで、物語の筋書きは変わらないという事が、骨身に染みるほど分かっただけだ。
国交を結び、強い利害関係で結ばれてはいるが……
根底にはお互いへの蔑視が根付き、決して相入れることも、尊重し合うことも出来ず、忌み嫌い合っていた、精人と竜人。
私の死を契機に、幾つもの諍いが生まれ、大陸を揺るがす戦争へと発展するのだ。
最終的には竜人族が勝利をおさめ、精人族は滅亡まで追い込まれる。
日々募る諦めの中で……いつしか、私の死が、この碌でもない奴らの衰退に繋がるのであれば、悪くもないと考えるようになった。
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