一般人の俺を芸能科女子達が逃がしてくれない件。

なんでやねん先生

第1話 プロローグ

中3最後の春休み。


既に卒業式も終え、進学先の合格も決まっている 蒼井あおい 優人ゆうとは窓を開け、春の夜風にあたりながら何度も読んだことのある恋愛小説をなんとなく開けていた。


映画化もされているこの小説は涙を誘うストーリーに加え、主人公を演じる俳優の演技が観客を魅了し、公開された年の映画賞を殆ど総なめにしたことで伝説となっている。


十数回は見たその映画は、俳優のセリフ、表情、視線の動かし方まで俺の脳裏に焼き付いている。


「お風呂どうぞ~......って、また読んでるの?優人」


風呂から上がってきた母さんが濡れた髪をバスタオルで拭きながら隣に腰掛けた。


「まぁな、文字で読んでから映像を見ると、尚更クオリティが高い事が分かるんだよ。 母さんも原作読んでみたら?」


栞を挟んだ本をローテーブルに置き、読書で固まった体をほぐすように伸ばしながらソファに深く背中を預ける。


「私は本とか好きじゃないからいーの。 それに、私はお父さんが目的なんだから。

分かってるでしょ?」


軽く笑い、鼻歌を広い部屋に響かせながら自分の髪を手入れする。

母さんは俺の父の話をするときいつも楽しそうにする。


俺の父 北城ほくじょう 裕也ゆうやは、国内なら知らない人は居ないほどの有名俳優だ。

俺が読んでいた小説の主人公も北条裕也が演じている。


「......母さんはもう何とも思ってないの?父さんのこと」

「ん~世界一のファンだと思ってるけど.......優人を産みたいって言ったのは私だし、そんな自分勝手な意見を尊重して経済的支援だけでもしてくれるのは本当にありがたいと思ってるわよ?まぁ、私の身勝手で優人に父親が居ないのはちょっと申し訳ないと思ってるけどね~...」


俺の母に結婚歴は無い。

詳しくは聞いたことが無いが、テレビ業界と関わりのあった母さんの両親がきっかけで父と知り合い、父のファンだった母が熱心に関わっていくうちに俺を授かった。

国宝級イケメンとして事務所に売り出され、女性ファンが主だった父は芸能界を去る決意もしていたらしいが、母さんは「この子を産ませてくれれば何も望まないから、どうか活動は続けて欲しい。」と自ら提言したらしい。


結果、世間に公表もせず、北城 裕也は活動を続け、俺達に経済支援を行っている。

そのおかげで生活に困ったことも無いし、この2人で暮らすには広すぎるタワーマンションに住めている。


「でも親にぐらい言ってもよかったんじゃない?そのせいで実家帰れてないんだろ?」


相手を親にも隠していた母さんは俺のじいちゃんにあたる父親に家から追い出されてしまったのだ。


「なに?気にしてるの?別にいいのよ。私の人生だし、お母さんは優人が小さい頃から内緒で会いに来てくれるしね」


クスッと笑い、髪を拭いていたバスタオルを俺に投げた。


「まぁ1つ心配なのは優人が高校でモテモテになっちゃわないかどうかね。 お父さんの若い頃にそっくりで、それに私の血も入ってるから先輩とかに目を付けられるんじゃないかしら?」


からかう様に目で笑いながら、ローテーブルに置いてあったヘアオイルを手に取る。


「.......俺ってそんなに父さんに似てる?」

「そうねぇ.......前まで私が5割入ってた感じだけど、最近は8割ぐらいはお父さんね」


そのことから浮かび上がってくる、1つの懸念事項。


「......ばれないかな?俺が父さんと血がつながってるって」


心配そうにそう告げると、母さんは吹き出し、それを笑い飛ばした。


「似てるってだけで血がつながった親子なんて誰も思わないわよ。もし本当にバレそうなら遠い親戚って事にして誤魔化したら何とかなるんじゃない?」

「......そっか...」


やはり、不安は残る。


自分では分からないが、母さんがそこまで似てるというのならそうなのだろう。

もしバレると、母さんを悲しませる結果になるのだろう......。


「優人、早くお風呂入っておいで」


ヘアケアを一通り終えたらしい母さんはスキンケアの段階へと移っている。

始まる前の高校生活に不安を覚えても仕方がない。

思考を切り替えるためにも、俺は風呂場へ向かう。


「あ、彼女ができたら紹介してよ?私がしっかり見極めてあげるから」

「.......そんな簡単には出来ないと思うけど...」


いつもの母さんらしい楽観的な発言に、なんとなく救われた気がした。












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