第21話 バールミン領

 その日からヒスイはよく笑うようになった。相変わらずアオイに言い寄ろうとするものには冷たいが商隊のメンバーとも話をして笑いあっていた。


「オンジンさん、ヒスイ、明るくなったよ。張り詰めていたものが少しだけ緩んでくれたかな…。」

「そうですね。うちの若いもんも楽しそうだし、良かったですよ。特にジムはヒスイさんを女神か何かだと思っているんじゃないですかね?」

「確かに…。」

「今日の昼にはバールミン領へ入れると思います。旅程の半分を消化したといったところですかね。まだ半分もあるのにお2人と別れるのが今から辛くなっちまう。」

「確かにそうだね。」

「ガムはどうですか?使い手として成長しそうですか?」

「あの子は剣士としてはE級といっても良いくらいの腕があるけど、魔素をコントロールできていない。魔素量はあるからコントロールの方法を身につけるとなかなかに強くなると思うよ。」


 実際、ガムは頑張っていた。アオイの言いつけ通りに始終、頭の上に風魔法で紙を浮かべていた。

 これは魔素を小出しにコントロールしなければならない修行である。風魔法は支援技術としての側面が強い。無音化、矢からの防御、索敵、離れた場所へ声を届ける通信など繊細な魔素のコントロールを求められるものが多い。



 商隊は昼前に王領とバールミン領を隔てる関所へ至った。王領を抜ける時は何事も無かったが、バールミン領に入る時に関所の兵士にアオイが止められた。D級で魔剣を所持しているのが不当だというのだ。完全にいちゃもんである。


「私達はベルク陛下から特命を受けてます。通達は来ていませんか?」


 ヒスイが交渉するが兵士の態度は変わらなかった。その後、騒ぎを聞きつけた王領側の取りなしで事なきを得たがアオイもヒスイも胸騒ぎを感じていた。関所を超えて直ぐの宿場町に泊まることにしたが、ここでもアオイとヒスイは違和感を感じていた。


「町全体がピリついているね。」

「アオイもそう思いますか?嫌な雰囲気ですよね。」

「オンジンさんは何か情報を持ってないかな?」


 アオイはオンジンの元に寄るとオンジンの方からアオイに話かけて来た。


「アオイさん。我々はこちらの宿にしようと思いますが、どうしますか?」


 オンジン達は大部屋の宿に決めたいようだった。


「若いやつに情報収集させたらここ数ヶ月で人攫い、特に子供がやられているらしい。先ほどの関所の兵士も胡散臭かった。若い娘さんは大部屋は嫌だろうが、大人数でいた方が安心かと思いましてね。」

「オンジンさん。ありがとうね。でも今日はヒスイと2人で泊まるよ。その方が動きやすい。」


 アオイには何かあった時に狙われるのは自分達だからという思いがあり、オンジン達が巻き込まないための配慮だった。


「わかりました。何もない事を願うがくれぐれも気をつけてください。」

「大丈夫。何たってヒスイA級騎士がいるからね。」

 

 オンジンとは明日の朝に待ち合わせることにした。


「ヒスイ、別の宿を取ろう。」

「そうですね。確かに嫌な雰囲気を感じます。見張られていますね。」

「よし、じゃあご飯を買って行こう。美味しいものは食べたいからね。」

「アオイ、私はバールミン名物の川魚をパンに挟んだやつが食べてみたいです!」

「よし、それを買って行こう!お酒も飲みたいけど今日は我慢かな…。」


 2人はオンジンとは別の宿を取った。2階の部屋である。2匹のガモウ鳥はオンジンの泊まっている宿に預けてきていた。


「先ずはご飯を買ってこよう。ついでに周りを偵察しよう。」


 バールミン領は内陸に位置し、川で取れる魚が美味しい。川魚を油であげ、パンに野菜と一緒に挟み、甘辛いソースをかけたサンドイッチが名物だった。2人は屋台でヤマメとイワナのサンドイッチを買った。


「かなりの数ですね。」

「そうだね。ご飯を食べたら移動しようか?宿に迷惑かけちゃうから…。」

「そうですね…。私、ちょっと試したいことがあるんです。」


 ヒスイはそういうとポケットから拳大の石を取り出すと魔素を込めた。そして形を作り出し、


「ゴーレムです。小さいからミニレムですかね。」


 小さなゴーレムを生成した。ヒスイはミニレムをカチャカチャと動かし、アオイに自慢げに言った。


「どうです!かわいいでしょ!」

「おおおー。すごいよ、ヒスイ!こいつであいつらをやっつけちゃおう!」

「はい、それじゃ早速。」

「いやいや、まだ動きだす気配がないから、ご飯を食べてからにしよう。」

「そうですね。私、お腹減っちゃっいました。」

「一度宿に戻ってご飯を食べようよ。私もお腹減っちゃったよ。」

 

 その後、2人は宿に戻り、サンドイッチを食べた。魚のタンパクな味が揚げたことによって適度な油分を纏い、野菜と甘辛いソースとの相性がとても良かった。


「ふう。美味しかったね。」

「はい、とっても!」

「はー、このままお風呂に入って寝たいけど…。」

「しょうがないですね。」

「おお、集まってきたね。数は30くらいかな。訓練されているね。」


 宿の周りは多くの兵士で囲まれていた。


「ヒスイ、先ず隣の部屋の4人をミニレムで無力化できる?」

「はい、可能です。」

「その後、宿の周りに集まっている奴らを突破して市場の広場に向かう。そこでやっつけちゃおう。」

「大雑把な作戦ですね…。」

「あまり強そうな奴もいないしね。よし、じゃあ作戦開始だ!」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。

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