第19話 二人の時間

 アオイにはそこからの記憶がない。朝起きるとベッドで子供のようにヒスイに抱かれていた。


「あたた。頭痛いし、気持ち悪い…。」


 アオイはすぐにヒーリングで二日酔いを治すと改めて状況を確認した。


(寝着に着替えてある。ヒスイが着せてくれたのかな?あー、でも心地よいなあ。柔らかくて安心する。それにとても良い匂いがする。)


 アオイはヒスイの柔らかさをもう少し感じていたかった。ヒスイを起こさないようにアオイは自分の頭をヒスイの胸元へと持っていくと顔を埋めた。そして大きく息を吸い込んだ。


「はあ…、とても良い匂いがする。」

「アオイはとってもお酒臭いですけどね!」


 上からヒスイの冷たい声が聞こえて来た。


「ヒスイさん、おはようございます。いつから起きていらっしゃったのですか?」

「アオイがヒーリングしている時からです。」

「これはその、ヒスイがあまりにも良い匂いだったので…。」


 言い訳をはじめたアオイをヒスイは遮った。


「私には良いんです。」

「へ?」

「だから私には良いんです!アオイは昨日、ガムに自分の胸を押し付けてました。あれはダメです!男の人にああいうことはダメです。将来的にアオイに良い人ができたらあのようなこともするかもしれませんが…。いやいや、やっぱりダメです。悲しくなるので本当にやめてください…。」

「わかったよ、ヒスイ。ごめん。自重するよ。」


 ヒスイのあまりの剣幕にアオイは素直に謝った。


「わ、わかってくれれば良いです。」

「でもさ、ヒスイには良いんだよね。もう少しだけ、このままにしてても良いかな?」


 アオイはちょっと甘えた声でヒスイを見上げながら言った。


「よ、良いですけど変なことはしないでくださいね。」

「うん、わかった。変なことしないからもう少しだけこのままで居させて。」

「アオイはしょうがないですね。少しだけですよ。」


 ヒスイはアオイの頭を抱きながら、この時間が長く続くことを祈っていた。

 

 

 ◇

 

 

 アオイとヒスイが食堂に行くと地獄絵図が広がっていた。商隊の面々が死屍累々と転がっていた。


「おいおい、だらしないなあ。」

「『だらしないなあ。』じゃないですよ。片付かないから何とかしてくださいよ。」


 宿屋の店主に言われてアオイは苦笑いを返した。この原因を作ったのはアオイなのだ。アオイは床やテーブルに突っ伏している男達にヒーリングをかけて周った。


「アオイさん、すごいな。もう何ともない。」


 アオイは男達の称賛とも敬愛ともつかぬ視線をあびながら、がんじがらめに縛られているガムのところに歩いていく。そして、その魔法の見事さに感心した。


(すごいな。すぐに会得しちゃった。)


 アオイはガムの拘束をとくために解呪を試みようとした時、ヒスイと目があった。


「ヒスイ、すごいね。もうできるようになったんだ。」

「解呪するんですか?」

「このままにしておくのもかわいそうだろ。」

「全然かわいそうじゃありません。アオイに手を出すとこうなるという見せしめのためにももう少し放っておきましょう。」


 ヒスイはそう言うと食堂を一瞥した。その視線には殺気がこもっており、アオイを道中口説こうと狙っていた男達を震え上がらせた。


「おはようございます。」


 ちょうどそこへジムがアオイの石像を持って食堂へやって来た。


「ジム!な、何を持ってるの。」

「ああ、昨日ヒスイさんが魔素を捏ねて作ったんです!すごいですよね、ヒスイさん。尊敬します!」

「ちょっと見せて!」


(これはすごい!こんなにも見事な魔素のコントロールができるなんて。ヒスイは天才だな!)


 アオイはその石像を真剣に見つめていた。


「あのアオイ。それはモチーフとしてアオイが近くに居たから参考にしたというか、アオイが気になるからモデルにした訳じゃなくて、あのアオイがきれいだから創作意欲が出たからで全然変な感情はなくて、あのですね…。」


 アオイは変な言い訳をはじめたヒスイの肩を両手で掴むと、


「すごいよ!ヒスイ。こんな事ができるなんて!!天才だよ。あー、ジンライに見せたかったなあ!」


 ゆさゆさと揺らしながら興奮気味に捲し立てた。


「いや、やり方がわかれば誰でもできる…。」

「何言ってるの、ヒスイ!こんなことできる人なんてそうそう居ないよ。」

「そうですよ。ヒスイさん。あー、何て素晴らしいんだろう。地の魔法でこんな事ができるなんて!」


 戸惑っているヒスイを前にアオイとジムは感動していた。


「やっぱり私の相棒はヒスイしかいない!」

「ヒスイさんは僕に魔道具のことを教えてくれるんですよね!あーー、夢みたい…。」

「あ、あのですね。そんなにすごいことでしょうか?」

「「すごい!!」」


 アオイとジムの声がきれいに重なった。


「あ、あの…。盛り上がっているところ本当に申し訳ないのですが、ガムを解放してあげてもらえないでしょうか?このままだとかわいそうなので…。」

「あ、忘れてた…。ヒスイ、そろそろ拘束を解いてあげようよ。」


 オンジンにお願いされ、アオイに説得されたヒスイは渋々ガムの拘束を解いてあげた。  


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。

★や『フォロー』をいただけるととても嬉しいです。

気に入っていただけましたら是非、評価の程をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る